生き残り策
将来へ向けて何に投資をしていますか?
1.原価低減にも執念を燃やしているトヨタ
2019年3月期のトヨタ自動車の売上高が、日本企業で初めて30兆円を突破しました。
営業利益は2兆4,000万円、営業利益は8%です。
就任10年目の節目を迎えた豊田章男社長は、決算発表の場で、感慨深げであったとの報道がありました。
「これも、お客さま、販売店、仕入れ先、そして従業員など、全ての人たちが(創立から)80年にわたり、コツコツと積み上げてきた結果だと思います。トヨタをお支えいただいたことに感謝申し上げたい」
(出典:ダイヤモンドオンライン19年5月9日)
ただし、それでも、トヨタの決算発表会の場に、浮かれた雰囲気は微塵もなかったようです。
なぜなら、原価低減が思ったように進まなかったから…。
トヨタは年間3000億円を目標として掲げています。
しかし、19年3月期は、2500億円規模にとどまってしまいました。
20年3月期には、3000億円の原価低減を実現する見通しですが、小林耕士・トヨタ副社長は次のように語っています。
「37万人の全社員が頑張れば、4000億円という数字にもっていける」
営業利益のうち、10~20%を、毎年、原価低減で稼いでいることになります。
皆さんの現場の原低額は、どの程度でしょうか?
さらに、何がすごいと言って、これが毎年であるということです。
原価低減のネタ、いわゆるトヨタ生産方式でいうところの7つのムダを見つけては、都度、ムダ除去に汗をかいているというわけです。
この中には、当然、取引先への協力値引きも含まれています。
そうした対応には、賛否両論あるようですが、いずれにしても、結果を出していることには間違いなく、2兆円を超える営業利益を稼いでいてもなお、利益の追求に執念を燃やしているのです。
理由があります。
将来投資の原資を確保しなければならないからです。
今や、自動車業界では、勝つか負けるかではなく、生きるか死ぬかの競争が繰り広げられています。
未来の自動車が目指す方向性である「CASE(Connected〈つながる〉、Autonomous〈自動運転〉、Shared〈共有〉、Electric〈電動化〉)への研究開発投資が生き残りで欠かせません。
さらに、昨今の貿易戦争からも推測できますが、「適地適産」目指すなら、グローバルでの追加投資も不可欠です。
生き残るには、研究開発や設備投資という将来へ向けた投資、先立つお金が絶対に必要となってきます。
その証拠に、トヨタの研究開発費は増加の一途をたどっています。
リーマンショック前後でいったん減少しましたが、2009年の6,000億円から増え続けているのです。2014年で8,900億円、そして2019年は1兆500億円となっています。
生き残りためには、将来へ向けた各種投資が絶対に必要、したがって利益を積み上げなければならない・・・。
よって、原価低減にも執念を燃やしているのです。
トップから現場までベクトルがそろっています。
40万人近い従業員がいる巨大企業トヨタですが、船頭多くして船山に登ることはなく、目的地は明確になっているようです。
無い袖は振れないことを知っています。
2.聖域にメスを入れることになったホンダ
一方、大手国内自動車メーカーであるホンダは、将来投資へ対照的な対応を迫られているようです。
2019年3月期のホンダの売上高は15兆9,000億円、営業利益は7,300億円、営業利益は4.5%となっています。そして、問題はその利益構造です。
2019年3月期の営業利益では、四輪事業が2096億円、二輪事業が2916億円。
同期の営業利益率では、四輪事業が1.9%、二輪事業が13.9%。
ホンダは二輪事業に支えられた会社となっています。
利益絶対額、営業利益率、どちらで見ても、四輪事業の実力は二輪事業に届いていません。
そんな事情から、本社から独立した存在となっている「本田技術研究所」の体制にもメスが入るとのことです。
「CASE」の技術開発競争は厳しくなるばかりであり、ホンダの研究所も、稼ぐ研究所へ変わらなければならないのでしょう。
無い袖は振れず、先立つものが不足していると、十分な将来投資(研究開発、設備投資)ができなくなります。
今の自動車業界で、それの意味するところは”死”です。
八郷社長は、次のように語っています。
「四輪事業の利益率のレベルをリーマンショックの前のレベルまで戻したい」。
2008年3月期の四輪事業営業利益率は7.0%でした。振るべき袖を確保するのに必死です。
(出典:ダイヤモンドオンライン19年5月9日)
3.グローバルで成長している研究開発費
世界規模でも、研究開発費は、その規模を成長させつつあります。
世界の研究開発費総額(OECD把握ベース)は2006年1兆ドルであったのが、その後も継続して増加し、2015年には1兆7,000億ドルを超えました。
価値を提供して対価を得たいのならば、“成長、発展”を常態化しなければなりません。
そうでなければ、時間換算の業務で対価を得るしかなくなるでしょう。
日本がどちらの道を選択すべきかは言うまでもありません。
ちなみに、日本の研究開発費総額は1,700憶ドル(2015年)、これは米国、中国に次いで3位です。
中国には2009年時点で抜かれています。
4.中小製造製造現場でも成長させたいもの
規模こそ違え、中小製造企業の生き残り策も同じではないでしょうか?
先立つお金、将来投資を工場経営の中心に据えたいのです。
必要な将来投資を設定し、それを確保するためにやるべきことを明らかにする、そのために利益を確保していきます。
そして、将来への投資先は、研究開発や設備だけではありません。
人もあります。
投資、教育費や研修費等に加え、昇給分も含む給料がそれです。
給料とは、経営者が将来での活躍も期待して従業員へ渡すものではないでしょうか?
そう考えると固定費は健全に成長させる対象となります。
ムダ除去は当然のことですが、その上で、現場の豊かな成長のために、緩やかに右肩上がりで成長していく固定費(将来投資)を設計するのです。
経営者が数値を意図してふやして成長させることと、膨張、肥大化することとは違うのです。
中小製造現場も、大手と同様に、「投資」で生き残り策を手のすることが求められます。
豊かな成長のための固定費を設計する。
↓
固定費を回収するための付加価値額を設定する。
↓
効率良く付加価値額を積み上げる具体策を考える。
↓
価格力と現場力を磨く。
こうした手順が明らかにできます。
トヨタやホンダでも将来へ向けた投資の原資を確保するために利益を確保しています。
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