推論ネタの累積でドラえもんのポケットを共有したい
現場で直面する現象の原因は多様だ。現象自体は単純でも、その背景に潜む原因は様々だ。
真因に至るためには、多くの推論ネタを持つことが必要であり、現場では推論ネタの「ドラえもんのポケット」を共有する、という話です。
1.情報共有の大切さ
人間は瞬間記憶を失う代わりに、自分が体験したことを情報として仲間と分かち合う能力が発達しました。
そこに人間の言語の本質があるようです。
チンパンジーが持つ瞬間記憶と人間の言語の発達について、松沢哲郎教授が日経新聞で解説していました。
現場の仲間と情報共有すること、上司と部下が情報共有することの大切さは論を待ちません。
実務を効率的に進めるためには、全員で同じことを知っている方が効率的です。
いちいち説明しなくても物事が進む。知っているので自ら判断することもできる。
こうした実務上の効果の他に、チームオペレーションを機能させるうえで欠かせない効果があります。
それは信頼関係の構築です。
情報を伝える前提条件は、情報を発信する側が情報を受け取る側を信頼していることです。
ですから情報を受け取る側は、情報とともに情報発信者からの「信頼感」を受け取ります。
情報共有の大切さは、言い換えると、知らされることの大切さでもあります。
したがって、職制上、上位となる上司が部下に対して情報の出し惜しみをするとどうなるかは容易に想像できるでしょう。
人間はチームで働いてこそ、大きな仕事ができます。それを支えるのが情報共有です。
瞬間記憶を失う代わりに、言語を使って情報共有する力を人間は持ちました。
言語の本質にかかわるという情報共有を大いに活用したいです。
2.推論する能力
松沢哲郎教授は人間の言語の本質として推論する能力についても言及しています。
チンパンジーは人間が使う言語をどこまで学べるか?
松沢教授はチンパンジーに文字を教えることを試みました。
研究から分かったこととして、次のことがありました。
色を漢字で表現できるからと言って、漢字を色で表現できるとは限らない。
松沢教授は、研究のパートナーであるチンパンジー(アイ)に11色の色を表す漢字を教えました。
モニターに赤い色を表示させ、チンパンジーが10個の漢字から赤という字を選べば正解とします。
こうした訓練を重ねることでチンパンジーは色から色を表す漢字を選ぶことができるようになりました。
赤、橙、黄、緑、青、茶、桃、紫、白、黒の11色。
これらの色が画面に表示されると、それを表す漢字を選べるようになったわけです。
それならば、逆に、色を表す漢字を表示して、そこからそれに該当する色を選ぶこともできるだろう。
つまり、色→漢字ができれば、漢字→色の連想もできるのでは?ということで逆の課題に取り組みました。
「赤」の漢字を見せてから赤、緑、青の3色を画面に出し、対応する色を選ばせました。
すると、チンパンジーは戸惑って、間違えたそうです。
松沢教授は次のように語っています。
当初、チンパンジーがなぜ戸惑うのかわからなかった。
人間なら、赤い色をみて「赤」の漢字が選べるなら、「赤」という漢字を見て赤い色を選ぶこともできるだろう。
しかし、逆は必ずしも真ではない。
チンパンジーにしてみれば、赤い色が画面に出てきたときに「赤」という漢字を選ぶ、ということを学習したのだ。
「赤」という漢字が出てきたときにどうするのかは、まだ教わっていないからわからない。
人間は推論する。
「赤」という漢字が画面に出てきた、という新しい場面でも、赤色を選べる。
それまでの経験から、赤という色と「赤」という漢字が等価だと自然に推論しているからだ。
(中略)見かけがまったく違う2つの事象を等価に扱える。
それはチンパンジーにはない人間の言語の本質のひとつなのである。
(出典:日本経済新聞 2016年3月6日)
3.推論ネタの「ドラえもんのポケット」
言語は情報共有を促すとともに、人間に推論をする力を与えました。
推論する力は3現主義を実践する上でも大切な能力です。
現地へ足を運んで、現物を見て、現実を知ります。そこから事実を把握します。
ここまで来たら、次は推論も働かせながら、なぜなぜ分析です。
その事実は何に起因するのか?その事実はなぜ起きたのか?その事実の背景にある事としてありそうなのは何か?
こうした推論を働かせます。
そうして、この推論の幅が、広ければ広いほど、深ければ深いほど、真実に近づきやすくなります。
モノづくり現場で直面する問題の多くは品質問題です。
所定の仕様を満たす製品が、安定して製造できず、ある頻度で不具合品、不良品、手直し品が発生します。
これを防止するにはどうするか?
多くの現場で日々、頭を悩ましています。
問題が発生しても、毎度、決定的な解決策に即刻たどり着けばイイのですが。必ずしもそうはならない。
試行錯誤しながら、目の前の現象と原因となる現象の関連をひとつづつ理解していきます。
場合によってはなぜの問いが2回程度で、真因へ至ることもあれば、5回程度でもたどり着かないこともある。
多くの事例検証を重ねることで推論のネタを手に入れます。A→Bなので、Bを見つけたらAに違いない。
現場で展開している日々の品質対策はこうした推論を重ねる作業に他なりません。
松沢教授の語っている人間ならでは行為ということです。
モノづくり現場で直面する現象の原因は多様です。
現象自体は単純でも、その背景に潜む原因は様々です。
製造設備要因、原材料要因、製造条件要因、人的要因、現場環境要因……。
正しい答えに至るためには多くの推論ネタを持つことが必要です。
強い現場は、こうした推論ネタをたくさん持っています。
問題が発生しても、過去の類似事例から原因を推測できる現場メンバーが必ずいます。
そして、新たな問題であるなら、スタッフも交えて工学的な因果関係を追っかけて追及する。
こうした現場には、情報共有化をベースにした一体感があります。
多様な対応ができるように、推論ネタの「ドラえもんのポケット」を持つことです。
現場では発生する品質問題を中心としてあらゆる問題を、定期的に議論する場を設けます。
問題分析によって原因を究明し、対策を打つ。打った対策の効果を検証して、さらに次へ進む。
定期的に議論を重ねることで推論ネタが蓄積されます。
定期的に議論を重ねることで推論をする訓練も進みます。
現場の力を磨くには、教育よりも、訓練です。実地にドンドン泥臭くやります。
困ったとき、「ああ、アレダ!」とさっと、原因を推論できる(引き出せる)ようになります。
のび太が困った時に、サッと道具を出てくる「ドラえもんのポケット」です。
推論は言語で展開します。ですから自然と情報共有が進みます。
現場で共有される「ドラえもんのポケット」こそが、現場のノウハウ集ということです。
かってお世話になった現場のベテラン作業者で、ノウハウを書いたメモの束を持っている方がいました。
その方はこうおっしゃっていました。
「これを見ればおおむね全てのことはわかるね。」
私が新人で配属された現場にはこうした方が結構いました。
これからは、チームワークでノウハウを積み上げます。全員で「ドラえもんのポケット」を築きます。
人間の言語が持つ推論する力を大いに生かすのです。情報共有が進むめば、信頼感や一体感も増します。
そうしてチームオペレーションが機能しやすい状況に至ります。
そうすれば、経営者も現場リーダーも仕事が大いにやりやすくなるのです。
現場で直面する問題を議論する場を定期的に設けていますか?
問題解決を図る推論ネタの蓄積を図っていますか?
現場で推論ネタの「ドラえもんのポケット」を共有していますか?
まとめ。
現場で直面する現象の原因は多様だ。
現象自体は単純でも、その背景に潜む原因は様々だ。
真因に至るためには、多くの推論ネタを持つことが必要であり、現場では推論ネタの「ドラえもんのポケット」を共有する。
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