オルガン針株式会社は製造設備の内製化で強みを磨く

オルガン針株式会社は製造設備の内製化で強みを磨く

独自の製品を独自性の高い内製化された生産設備で製造する。

付加価値を生み出すノウハウが完全にブラックボックス化される、という話です。

 

1.オルガン株式会社の強み

オルガン針株式会社は長野県上田市に本社を置くミシン針メーカーです。2016年3月期の売上高は約100億円。資本金3億円、従業員は海外を含むグループ全体で約2,400人規模の企業です。

1920年、東京の荒川で蓄音機針の工場として創業しました。蓄音機針で培った金属加工の技術をもとに試行錯誤した末、ミシン針を製造する機械を自社開発しています。

ミシン針は鋼を細く伸ばし、穴あけ、切削、プレス、研磨、メッキなど40以上の工程を経て造られます。

ミシン針の製造設備を自社開発できるのは、同社の強みです。

同社の工業用、家庭用のミシン針は東南アジアや中国など世界委90か国に出荷されています。

海外の競合に耐久性の高い高品質の針で対抗し世界シェアは20%です。

同社の山岸営業本部長は次のように語っています。

 

消費者の流行の変化を捉え、新たな素材やデザインに対応した針を開発する。

(出典:日本経済新聞 2016年11月21日)

 

同社のミシン針の品ぞろえは7,000種類。ミシン針の製造設備を内製できる強みを生かし、ミシンメーカーやアパレルメーカーへの提案営業や共同開発を強化していくようです。

(出典:日本経済新聞 2016年11月21日)

 

2.内製設備でノウハウの完全ブラックボックス化

自社製品には2種類の顧客が存在します。直接顧客と最終顧客です。

 

例えば机の「取っ手」を製造する部品メーカーを想定します。部品メーカーの直接顧客は机メーカーです。また最終顧客は机を使用する消費者です。

したがって値付けの主導権を握れるかどうかのカギは、自社製品が2種類の顧客へどのような付加価値を与えているのか、また自社製品が提供しているコト、利便性への影響度合いがどの程度であるのか、それ次第です。

影響度が大きければ、自社製品は最終製品が機能を発揮するのに欠かせない存在です。価格交渉も有利に進められます。

 

一方、影響度が小さければ、その逆です。容易に代替品の検討がなされるでしょう。

衣類を製造する過程で、ミシン針の品質が、最終製品の品質や生産性に及ぼす影響は小さくないでしょう。

ミシンメーカーやアパレル産業にとってのミシン針は、生み出す付加価値のかなり大きな部分を担っているはずです。

中には、同社の針でなければどうしてもダメという直接顧客がいるかもしれません。こうなると、価格競争とは全く逆のうれしい状態です。

 

同社のミシン針は内製された製造設備、つまり独自性のある設備で造られています。

競合が容易には模倣できない付加価値を、自家設計の設備で生み出していることは容易に推測されます。

購入設備とは異なり、強みを自ら磨き上げることができます。モノづくりの事業で生産設備を内製化できるのは大きな強みです。

付加価値を生み出すノウハウが完全にブラックボックス化されるからです。

100年も前に創業した時に手掛けた蓄音機針で積み上げてきたノウハウが結実して出来上がった同社の設備は、同社のコア技術を具体化していると言えます。

これからのモノ作りでは「情報」で儲けることも欠かせない視点ではありますが、こうした地道なノウハウの積み重ねも忘れてはなりません。

こちらの強みは簡単にライバルが追い付けない絶対的な水準に至るからです。

モノづくりの王道であることを意識したいです。

 

私自身もプレス機の内製を経験したことがあります。こうした仕事は、そもそも技術者として、とても楽しくできます。

なにせオリジナルのアイデアを盛り込めます。エンジニアにとっては、自分の考えたアイデアが形になって生産に貢献できる程、うれしいものはありません。

メーカーである以上、目指したい状況です。

 

独自の製品を独自性の高い内製化された生産設備で製造する。

設備を持たない事業形態が理想とする考え方もあります。

私は、ノウハウを積み上げるためには、設備を持つべきと考えています。

皆様の工場ではどうお考えでしょうか?モノづくり戦略での重要テーマのひとつです。

 

3.同社は人財の採用育成にも力をいれている

ところで、同社のHPを見ると、当社が人づくりに力をいれていることが伺われます。

同社のHPを訪問して、「採用情報」をクリックしてみると分かります。各ページがたいへん丁寧に作られています。

モノ作りは人づくりというのが同社の姿勢であると感じられます。社長のあいさつがここにも提示されています。

それだけ、同社では人財採用とその育成に意識的に力を入れているのでしょう。

同社のような姿勢を知れば、学生たちも安心して人生を任せられる気持ちになるのでは?と感じました。

少子化がドンドン進む中で、活力ある、前向きな若手人財を確保することは重要な課題となってきます。

入社希望者、入社候補者へ届けるメッセージにも今後は工夫が求められます。

 

自社製品が顧客に届ける付加価値へどの程度貢献しているか把握できていますか?

自社製品の独自性の源は内製化された製造設備ですか?

 

まとめ。

独自の製品を独自性の高い内製化された生産設備で製造する。

付加価値を生み出すノウハウが完全にブラックボックス化される。

 

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出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)