組織上の問題は社内イベントではなく仕事で解決する

組織上の問題は社内イベントではなく仕事で解決する

社内イベントは一体感を醸成することを後押しするけれども、問題を根本的に解決することにはならない。

組織上の問題は、意志や意図を持って、仕事を通じて解決する、という話です。

 

1.社内運動会サービスを提供するNPO法人

企業、組織の一体感を醸成する手段として、「社内運動会」の人気が高まっているようです。

そして、企業・組織などが有する様々な問題を解決するイベントとして、

この「運動会」を提供しているNPO法人があります。

NPO法人ジャパンスポーツコミュニケーションズです。

同法人の代表理事を務める米司隆明氏は次のように語っています。

 

「お客さまのニーズに基づいて、会場探しから運動会の企画、機材貸し出し、設営、運営および撤去、さらには交通手配や食事、保険まで、運動会に関することは丸ごとすべて提供しています」

 

同NPO法人は、スポーツを通じて様々な社会問題を解決しようとしています。

着眼点がとてもユニークです。

 

社内運動会だけではなく、野球大会やフトッサル大会、親子イベントなど、「スポーツ」をキーワードに多様なサービスを提供しています。

その中で、同法人では、HPの他に、運動会向けの専門サイトを立ち上げています。

そのサイトの名前が、そのものずばりで「運動会屋」。

 

「例えば『全社員1000人が一堂に会せる、パーティ一の箱がない』『社員旅行は移動が大変』といった事情などから、我々のサービスが、着目されています。

運動会ならば、あらゆる年齢層の人が楽しめますし、体を動かしアクティブな参加型のイベントとして、選ばれているようです」

(出典:DREAMGATEマガジンvol.564[2016年11月15日])

 

さらに、顧客がこうしたサービスを活用する背景について、次のように説明しています。

 

「中途入社が多い、拠点が分散している、そもそも業務が忙しいなど、社員間のコミュニケーションが不足している企業からの、問題解決策としての依頼が多いですね。

社内の一体感が希薄化していることへの問題解決策として、あるいは社員の健康増進や社員の家族に対する日ごろの感謝還元といったニーズが大半です」

(出典:DREAMGATEマガジンvol.564[2016年11月15日])

 

個々の企業の問題解決を目的に、課題に即したプログラムを用意します。

「顧客のニーズに個別に対応したカスタムメイドの運動会」というのが特徴的です。

  • 部門間コミュニケーション不足を解消するために部門間をミックスしたチーム別対抗戦をする。
  • 全員の一体感を醸成するために大縄跳びをする。

なるほど、考えられています。

気になる費用は、全てお任せの「丸ごとプラン」で参加者数200人の場合、150万円からだそうです。

 

2.家族サービスや組織風土醸成の「後押し」にはなる

社内運動会で思い出すのが、子供のころに経験した父親の会社が主催していた運動会です。

子供の頃、父親の会社の社宅に住んでいました。

その地域では年1回、会社主催の家族も含めた社内運動会をやっていました。

父親の会社が主催していたかどうかに関係なく、子供の頃、こうした地域の会社が提供していた「サービス」を楽しんだことを思い出します。

 

企業戦士という言葉がピッタリの時代を過ごしていた父親と楽しんだ思い出になっていることも確か。

自分の経験と照らし合わせれば、社内運動会などの社内イベントが、「社員の家族に対する日ごろの感謝還元」となるならば、開催する価値は、大いにあると感じます。

さらに、こうしたイベントで社内の一体感を醸成するのを、「後押し」することも期待できるでしょう。

 

専用サイトを読むと、そうした効果を語るお客様の声が掲載されています。

日頃の仕事ぶりからは想像できない上司や先輩、同輩、後輩の一生懸命になっている姿を見て仲間意識が高まることは事実です。

こうしたイベントをやることの効果はいろいろありそうです。

 

3.組織上の問題解決は仕事を通じて果たす

ただし、組織上の問題、特に組織の一体感とかやる気とか、組織行動上の「問題」が、社内イベントで解決するわけではありません。

この点は、大いに留意しなければなりません。

地域参加で従業員の家族へ感謝を込めたイベントとして開催する意義は大いにあります。

しかし、組織の根本的な「問題」を解決する手段にはなり得ない。

仕事上の問題は、仕事で解決するしかないことを思い出すべきです。

 

仕事上の問題は、仕事でしか解決しない。

これは、複数経験してきた中小現場で感じたことです。

経営者は良かれと思って、色々なイベントを現場へ提供します。

イベントを通じて従業員の仲間意識を高めたいと考える経営者は多いと思われます。

そこで、考えたいのは、それを提供された現場は、それに参加することを、本当に心から楽しむことができているだろうか?ということです。

仕事上の不満や将来への不安を感じている現場が、そうしたイベントへ喜んで参加するだろうか?

最悪のパターンは、イベント参加が「半強制的」になるケース。

こうなると、そのイベントは、「お楽しみ」という仮面をかぶった仕事でしかなくなる。

 

是非、家族で参加したい!!と自然に思わせる雰囲気もない現場や会社でイベントを開催して、現場の一体感を醸成することは、本当に可能でしょうか?

「運動会屋」のサイトに掲載されていたお客様の声の企業では、組織行動上の問題にはすでに対応中であり、そうした取り組みの一環として「社内運動会」に取り組んだ、ということではないでしょうか?

ですから、こうしたケースでは、社内イベントは確実に一体感を醸成する「後押し」となります。

家族の思い出作りにも一役買うことでしょう。

 

一方で、父親自身、すっきりしない想いで仕事をしている場合はどうでしょうか?

そもそも、そうしたイベントへ家族を参加させるでしょうか?

現場の一体感を醸成、組織の活性化が、組織を変えるための課題であると考えるなら、まず明らかにすべきは、現場が抱える組織上の「問題」です。

 

イベントを考える前に、「問題」を把握することを考える。

そして、経営者が直面する組織上の問題の多くは、経営者の想いが現場へ浸透していないことに起因している、これに注目します。

  • 経営者は、現場は会社のことを理解していない、言われないと動かない、と考えている。
  • 現場は、上の人は自分たちのことを理解してくれていない、現場のことをわかってくれない、と考えている。

つまりすれ違いです。

こうしたすれ違いは、「仕事上」のコミュニケーションでしか解決しません。

ただし、コミュニケーション上の問題は、双方でしっかりやりとりすれば、すぐに解決の方向へ向かうとも考えています。

なぜなら現場が抱く不満や不安の原因は、単なる情報不足であることが多いからです。

 

現場は、会社の情報に触れる機会が少なくないですか?

経営者や現場リーダーが直接にフェイス・ツゥ・フェイスで現場と語れば、一気に解決します。

トップの想いに触れることで、現場の納得感は、かなり高まるのではないでしょうか?

 

4.イベントではなくカイゼンに注目する

では、具体的にはどうするか……。カイゼンです。

多くの現場でやられていると思います。カイゼンをテーマにした小集団活動です。

これをしっかりと機能させれば、現場の一体感が醸成されます。

カイゼンの小集団活動が、イベントとしての運動会と同じような機能を、果たせばイイわけです。

チーム作り、カイゼンテーマの選定などなど。

組織上の課題を解決するように小集団活動を運営すればイイのです。

問題を解決するための、独自のやり方を決めればイイのです。

 

ただし、ここで前提条件があります。

つまり、現場の一体感を醸成し、組織を活性化させるためのカイゼンの前提条件です。

  • 全社計画や方針に沿った取り組みとなるよう、現場のテーマを紐づける。
  • 現場のテーマに制約条件を設けない。もし、資金上、社長方針上の問題があるならば、それをしっかりと説明する。説明したうえで、現場の提案を修正するよう指導する。
  • そして、結果は確実に評価とフォローをする。

つまり、カイゼンの取り組みが形骸化していないことがポイントです。

先の前提条件は、カイゼンの形骸化を回避し実行力をもって機能させるための必要条件でもあります。

 

こうした前提条件にあるカイゼンならば、現場も自律性をもって取り組めます。

特にトップとの繋がりを感じながら活動に取り組めます。

会社の役に立てるという思いはチームを一体化します。

 

まず、カイゼンを対象にした小集団活動がしっかり機能させることを目指します。

現場の一体感が自然と醸成されます。

仕事を通じてチームワークが生まれ、チームオペレーションが機能します。

そうして、その後に現場で社内イベントをやれば、一層、結束が強くなることでしょう。

 

現場の一体感の醸成は、仕事を通じて達成すべき課題です。

これは、経営者や現場リーダーが意図的に、意思を持って進めないかぎり達成できないことです。

現場の組織上の問題はありませんか?

社内イベントを開催すれば、問題は解決すると考えていませんか?

組織上の問題を意思や意図を持って解決にあたっていますか?

 

まとめ。

社内イベントは一体感を醸成することを後押しするけれども、問題を根本的に解決することにはならない。

組織上の問題は、意志や意図を持って、仕事を通じて解決する。

 

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出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)