熟練工からの脱皮|元トヨタマンの目

熟練工からの脱皮|元トヨタマンの目

日本の中小企業の品質は熟練工に拠っている場合が多い。

工業製品も手先の器用な日本人が、熟練したスキルで、まじめに作り上げた製品は素晴らしい品質を確保している。

これらの熟練工は1つの製品の全工程を1人で何時間もかけてすべて行なう。

これによる問題点は、1人の熟練工を育成するのにも膨大な時間がかかってしまうことと、熟練工が行なっていることが第三者にはまったく分からなくなってしまうことだ。

万が一、その熟練工がミスを発生させたとしたも、それを「管理」という側面からフォローできなくなってしまう。

熟練工のやることはブラックボックスになってしまう。

また増産しようにも、まさか熟練工にムチを打つこともできず、どうしようもない。

 

トヨタもこの段階から、次のように進めていった。

 

①工程を分割して分業できるようにした。

②熟練工からカンコツをすべて吐き出させ、作業要領書に書き込ませた。

③分業による短い時間の作業を「作業要領書」のとおりやらせればいいのだから、作業者の育成も非常に容易になる。

 

これにより作業員を容易に増員できるようになり、増産に対応できるようになった。

熟練工からの脱皮_01
日産の作業標準書による、作業者育成の記事があったので、中国人への説明に利用させてもらった。

熟練工からの脱皮_02
日産のエンジンの製造も膨大な標準書づくりから始まっている。

「VRエンジンでは、すべての標準書を集めると1,000ページにもなる」

「シリンダーヘッドと呼ぶエンジン土台を組み付けることだけでも37ぺージ」

熟練工からの脱皮_03
「現場からに改善提案も柔軟に作業書に反映する」

「同じ現場の担当者の全員が同じ意見になること」

熟練工からの脱皮_04
中国へ進出した日系企業も熟練工の段階から近代工業化へ進んでいる。

 

その第一歩は、作業要領書。

熟練工の段階では、これがすべて熟練工の頭の中にあるだけで、紙に落とすことを端折ってきた。

そのタタキ台を作り、中国人の作業者にそれを見てもらい、違う方法をやっているとか、もっとよい方法がある等々の意見をもらう。

そして1つの方法に絞り込んで標準作業化する。

これさえ完備できれば、品質問題など発生した場合など、再発防止対策を立案して、この標準作業票に記載すれば、次から必ず守らせることができる。

写真は中国人作業者への説明風景だ。

これはこの企業にとって歴史的事項になると思う。


豊田生産コンサルティング株式会社代表取締役社長◎略歴 昭和30年(1955) 愛知県豊橋市生まれ 昭和53年(1978) 早稲田大学商学部卒業トヨタ自動車工業株式会社(現トヨタ自動車)入社 平成16年(2004) トヨタの基幹職チャレンジ・キャリヤ制度(他社への転出支援制度)によりトヨタを退職(退職時資格は課長級) オーエスジー株式会社オーエスジープロダクションシステム推進本部副本部長就任 消耗性工具(ドリル・タップ・エンドミル)専門メーカーで自動車関連以外の業種の現場改善活動に従事。 平成19年(2007) 豊田生産コンサルティング株式会社設立◎トヨタでの職歴(26年)人事部人事課海外関係人事 3年/財務部経理課輸出入経理、国内債権債務管理 3年/本社工場工務部原価グループ鍛造工場能率・製造予算管理、工場棚卸総括 3年/本社工場工務部生産管理室車体・塗装・組立工場生産管理 4年/米州事業部原価企画グループ北米事業体原価管理、北米生産車原価企画 3年/田原工場工務部原価グループ成形工場能率・製造予算管理、トヨタ生産方式部課長自主研 2年/田原工場工務部生産管理室エンジン・鋳物工場生産管理、トヨタ生産方式部課長自主研 8年◎本社部門(人事・財務・原価企画)9年、工場部門(本社工場・田原工場)17年と本社機能、工場機能のそれぞれを幅広く経験。特に工場では生産管理と原価管理という「石垣」づくりとトヨタ生産方式自主研メンバーとして「天守閣」づくりの両方に長年従事。