材料費に注目した付加価値で迅速に儲けを把握する

材料費に注目した付加価値で迅速に儲けを把握する

材料費に注目した付加価値で、リアルタイムに「儲け」を把握する、という話です。

 

1.現場の実態を表現する数値の重要性

 

工場オペレーションでは「変化」に注目します。

 

生産性や原単位、不良率等、モノづくり現場の実態を表現する数値は「絶対的」な数値ではありません。

その現場独自の数値であり、実績を重ね、積みあがった数値を分析することで、初めて意味を持ってくる数値です

 

ですから業界平均や他社の数値は、参考にはなりますが、自社工場に適した数値にはなり得ません。

現場の実態を表現する数値は「相対的」なものであり、時系列で眺め続けることによって数値の意味を理解し、工場オペレーションに生かせるようになります。

 

ですから生産性や原単位、不良率等の生産指標を現場で見える化することが、カイゼンに取り組む際の事前準備です。

 

数値の変化を把握することで、現場は自らの活動の良し悪しを自ら判断できます。

「自ら」判断できる指標が現場に提示されて、現場の自律性が促されます。

 

その結果、現場リーダーや各工程のキーパーソンは、より上位の仕事に取り組むことが可能になり、付加価値を拡大させる視点に至ります。

 

現場の実態を表現する数値の重要性を理解して、地道に実績を重ねることで、独自の強みを築くことができます。

 

2.「儲け」を把握する数値も生かす

 

現場の実態を表現する数値にはいろいろあります。

 

生産実績を表す生産数量、生産量がまず浮かびます。

そして、生産性に関連して、人員数、残業時間、工数、段取り回数、段取り時間、稼働率、サイクルタイム等、さらに、品質に関連して不良率や直行率、歩留まり、工程能力、等々。

さらに原価管理に関連して原単位や費用。

 

こうした数値で現場の実態を把握しようと実績を重ねている工場も少なくなく、現場の生産活動を見える化することは、現状の把握するとともに、将来の目指すべき状態を設定するのに重要な役割を果たします。

 

そこで、生産活動に加えて、「儲け」を把握する数値を設定することを考えます。

日々の生産活動の目的が足元での儲けであり、将来投資への原資獲得である以上、現場でも「儲け」を日常的に把握する手段を持ちたい。

それが付加価値です。

 

工場のパフォーマンスを判断する指標として付加価値の活用を提案しています。

そして、付加価値の定義は下記をお勧めしています。

 

付加価値=売上高−(材料費+残業費+外注費)(※)

 

材料費、残業費、外注費、全て、生産量の増減に追随して変化する費用(変動費)であり、現場でも、その実態を把握しやすい数値です。

 

損益計算書上の利益の算出を待つことなく、生産活動の実態を表す指標と同様に、まさに、「今」、どうなっているのか知ることが簡便にできます。

 

モノづくりの現場でもうかっているかもうかっていないか、全体をざっくりと迅速に判断する指標を、現場リーダーや各工程のキーパーソンが使いこなすことができれば、機動力のある工場オペレーションが実現します。

 

そして、(※)式をさらに簡便に活用する(◆)式の活用も提案しています。

 

付加価値=売上高−材料費(◆)

 

売上高から材料費のみを除去して簡便に評価する方法です。

 

  • 中小製造業の製造原価に占める材料費および外注費の全業種平均値は42.4%、12.6%である。
  • 基準値に対しての変化をとらえられる。

 

この2つの理由により、(◆)式による現場で「儲け」の判断は可能です。

 

3期連続赤字を計上していた受注型事業形態の加工職場を担当することになり、赤字発生の背景を分析する機会がありました。

改善点がいくつか浮かび上がりましたが、その中のひとつに材料費の変動がありました。

 

一般的に収益に影響する材料費の原単位が変化する要因は2つです。

 

  • 材料単価の変動
  • 単位製品当たり材料使用量(歩留まり)の変動

 

担当職場では主に前者が原因となっていました。

前年度は4月から原材料とする鋼材料の単価が上昇傾向にあり、期の初めに比べて30%も上がった月があったのです。

 

過去実績をベースに見積もりを決定する形態の取引であったこともあり、職場として材料費の高騰を気にせずに、同様な見積もりで仕事を引き受けるような雰囲気もあったようです。

 

加えて、他の要因もあったため赤字の要因としての原材料費の高騰に注目できていなかった。

つまり、収益に関連する現場の実態把握が見える化されていなかったから気にする機会もなかったというのが実情でした。

 

検証として(◆)式で月毎の簡易的な付加価値を算出しましたが、付加価値が減少する変化は十分に捉えられていました。

その職場では、外注費の比率も10~20%あり、さらに残業も仕事量に応じて発生していましたから、儲けを評価する精度は(※)式よりは相対的に低いですが、変化に気が付き、挽回策を考えるには十分な指標でした。

 

その時も、見積もり時点で材料費の評価を過去実績ではなく、現状の材料費を反映させる配慮に気付けばよかったわけで、知りさえすれば誰でもできる対応です。

 

さらに、新製品に取り組む際の材料使用量にも要注意です。

当初の設計以上に材料を使用していないかどうかの検証も必要ということです。

これは、単位製品当たり材料使用量の変動(歩留まり)であり、生産活動の実態を把握する指標のひとつとしていれば、間接的に原単位の変化への気づきにつながります。

 

3.結局、現場でも「儲け」を把握したい

 

現場の目的から考えると、生産活動の実態を把握するのみならず、収益の実態を把握する指標を継続的に追いかけることで、生産活動の実態を示す指標の役割の重要さも理解でき、現場で利益を出す意識も高められる。

 

つまり、「儲け」につながる指標を見える化することで、自主的な活動が促されます。

儲かる職場にしたいという気持ちはモノづくり現場であるなら自然と湧き上がるものです。

 

収益的な数値を現場へは開示しない傾向にある職場もありますが、動機づけの観点から考えるととてもモッタイナイ。

 

担当したその職場では、月毎の決算が経理部門から報告される前に付加価値を評価し、その結果を現場リーダーへ伝達、翌月の生産活動への指針とするようにしました。

 

明確な数値の変化で説得力を持って指示を伝えられ、この儲けに対する根拠ある「予言」は、現場の動機づけに繋がっていました。

 

付加価値=売上高-材料費 (◆)式の評価を継続することで、簡便ながら、利益が出にくい状況になるのを事前に感知することができました。

(◆)式に厳密性はないですが、リアルタイムで簡便に算出できるのが最大の利点です。

厳密性は不要です。

変化に気付くことがポイントだからです。

 

(※)式であっても、あるいは簡便な(◆)式であっても、自社工場のルールに沿って評価し続けることで、儲けることに対する現場独自の判断基準が構築できます。

工場オペレーションと工場マネジメントを結び付ける論点です。

 

利益に直結した数値をリアルタイムで把握できる状況を作り出すことで、現場は活性化します。

お金を生み出す源は利益であり、それは付加価値額と直結している。

そのことを現場でも実感できれば、仕事の意義ややりがいを感じるきっかけになるからです。

動機づけの観点からも欠かせません。

 

さて、参考までに製造業各業種の製造原価に占める材料費の割合を下表に示します。

各業種での製造原価に占める材料費の大きさと共に、儲けへの影響度も理解できます。

 

業種 製造原価に占める材料費割合(%)
食料品製造業 58.0%
飲料・たばこ・飼料製造業 58.0%
繊維工業 43.0%
木材・木製品製造業 59.9%
家具・装備品製造業 40.7%
パルプ・紙・紙加工品製造業 54.6%
石油製品・石炭製品製造業 45.8%
印刷・同関連業 23.6%
化学工業 19.1%
プラスチック製品製造業 48.0%
ゴム製品製造業 45.2%
なめし革・同製品・毛皮製造業 39.2%
窯業・土石製品製造業 44.0%
鉄鋼業 54.8%
非鉄金属製造業 44.9%
金属製品製造業 44.8%
汎用機械器具製造業 37.9%
生産用機械機器製造業 32.0%
業務用機械機器製造業 57.9%
電子部品・デバイス・電子回路製造業 53.2%
電気機械器具製造業 47.2%
情報通信機械器具製造業 35.6%
輸送用機械器具製造業 36.5%

(出典:平成25年度調査 平成24年度決算に基づく実績 中小企業実態基本調査に基づく中小企業の財務指標中小企業診断士協会編)

 

まとめ。

材料費に注目した付加価値で、リアルタイムに”儲け”を把握する。

 

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出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)