悪い情報をさりげなく受け入れる場の雰囲気づくり
貴社にはざっくばらんに意見を言い合える雰囲気がありますか?
1.デザインレビュー(DR)
失敗の原因を振り返り、あの時こうしていれば……、と感じることはありませんか?
あの時、そうしていればトラブルは未然に防げたのに……。
しなかったので大きなトラブルに至ってしまった。
後悔、先に立たず、です。
ですから、やるべきことをやらねば、仕事を前へ進められないルールを徹底します。
トラブルを未然に防ぐことが可能です。
いわゆる、チェックポイント、マイルストーン、歯止めの機能です。
デザインレビュー(DR)がそうした場となります。
現場には長年、蓄積された貴重なノウハウがあります。
どのような仕様の場合にトラブルが発生しやすいか、どのような形状なら造り易いか等々。
こうした情報を製品設計の段階で反映させるのです。
過去を振り返って、注目すべき現場の情報を吸い上げ、新たな製品仕様へ反映させます。
こうしたデザインレビューこそが品質管理の出発点です。
DRを定期的に開催することで、関係者全員で新製品開発の進捗をチェックして、問題点を共有することができます。
2.三菱自動車の燃料不正
2016年4月、三菱自動車は、軽自動車の型式認証取得において、燃費試験に使うデータ処理で不正を行っていたと発表しました。
同年5月には、燃費が最大で約15%も実力に対して上に乖離していた車種があったことを明らかにしました。
愛知工業大学工学部機械学科教授の藤村俊夫氏は、三菱自動車が燃費不正を行った原因として、軽自動車の低燃費技術開発の開発費用不足を挙げています。
2015年度における国内軽自動車の販売台数シェアは、三菱自動車で3%です。
トップであるダイハツ工業は32%、2位のスズキが30%。
三菱自動車の車の販売台数はダイハツやスズキの10分の1です。
また、三菱自動車は「スズキやダイハツ工業と比べて燃費競争で負けていた。」と同社取締副社長の中尾龍吾氏は語っています。
車が売れないので、量産効果を生み出せず利益を確保できない。
その結果、開発費が抑制され、十分な低燃費開発ができず燃費競争に負ける。
そして、商品力が上がらない……。
という負のスパイラルに巻き込まれていたと推察できます。
こうした状況にあったにもかかわらず、同社の設計開発部門は高い燃費目標を設定していた……。
競合他社に燃費競争で負けている焦りもあり、開発中の車種で、目標の燃費に達していない事実を、設計開発部門におけるデザインレビューの場で取り上げることができなかったようです。
結局、燃費不正の疑惑を指摘したのはOEM供給先の日産自動車でした。
社内からではなく、社外からの指摘で発覚した不正です。
(出典:日経ものづくり2016年6月号)
3.デザインレビューの場を活用する
三菱自動車の設計開発部門のデザインレビューがしっかりと機能していれば、不正を防ぐことができました。
目標値に達していない開発項目があれば、それをデータに基づいて報告することがデザインレビューでの仕事であり、対処のスタートです。
複数の工程、部門の担当者が集まっています。
複数の工程が連携し、他部門と協力すれば、問題を解決し課題を達成する可能性が生まれます。
自動車部品開発部門の管理者を担当していた頃の話です。
新製品開発では目標の製品重量、品質がありました。
新製品開発にあたっては、開発部門として、あらゆるノウハウを駆使するわけですが、どうしても達成できない場合があります。
こうした場合、加工工程の現場責任者に協力を仰ぎ、加工形状の見直しをすることがありました。
また、ある時は、品質保証部門の責任者に工場内での公差で見直しを相談することもありました。
度重なる依頼に、担当者は「またかい。」と言いながらも、しっかりとアイデアを出してくれました。
自職場のことで、マイナスの情報を全体に報告することは抵抗を感じるものです。
なるべくなら言いたくない。
ばれないで、そのまま過ぎるならばそうしたい。
行き詰まると、ついつい、こうした気持ちが生まれてきます。
ここで、重要なのは、技術者の良心、あるいは会社の理念に沿った行動をする倫理観。
工場経営の観点では全体最適化の意識です。
そして、それらは場の雰囲気によっても醸成され、維持されていきます。
この「場の雰囲気」が、重要な役割をしていると感じています。
デザインレビューで最も大切なのは、ざっくばらんに意見を言い合えることです。
マイナスの情報を、さりげなく受け入れられる雰囲気です。
そもそも、デザインレビューは、目標に対してマイナスになっている項目を、英知を集めて、プラスへ引き上げる場であることをみんなで理解し合っていなければなりません。
順調に進んでいることだけを確認し合うような「お役所」仕事の場ではないのです。
さらには、問題発生を糾弾する場でもないのです。
ざっくばらんに意見を言い合い、マイナスの情報をさりげなく受け入れられる雰囲気はどうしたら生まれるでしょうか?
経営者が会議の目的やその進め方を明確に伝えることは重要です。
経営者の意志として、そうした場にしたいと言葉で表現することは一体感の醸成で大きな役割を果たします。
これに加えて、欠かせない論点があることを忘れてはなりません。
人と人との繋がりです。
従業員間の関係性。
コミュニケーションです。
日常的な、メンバーとの人間としてのつながりも大きな役割を果たします。
人間は理性よりは、感情で動くものです。
生産活動では、現場責任者と各工程のキーパーソンによる毎朝30分ミーティングが効果的です。
日々の困りごとをざっくばらんに話し合います。
その場で解決し合おうという雰囲気になりやすいからです。
同様に、デザインレビューを機能させるためも、ざっくばらんな、さりげなくマイナスの情報を取り入れる場の雰囲気が欠かせません。
三菱自動車のデザインレビューの場では、順調に進んでいることしか、話として認められなかったのではないかと推測されます。
こうした場では、いきおい、悪い報告が上がると個人攻撃に陥りやすいものです。
自由闊達な意見が出るどころではなく、組織が機能しない状況に陥ります。
ますます、悪い報告が上がってきにくくなるのです。
モノづくりに携わる人たち、技術者や技能者、ひとりひとりは倫理観も高く、間違ったことは嫌だと考えています。
これは所属する組織に無関係であり、会社の大小も関係なく本質です。
ところが、そうしたひとりひとりが、組織に所属してしまうと、組織文化や風土に思いっきり影響を受けてしまいます。
組織文化や風土のイイところでもあり、怖いところです。
デザインレビューが機能していないことに気付き、その雰囲気を変えようとした経営幹部がいなかったのは残念なことです。
あるいは、いたかもしれませんが、どうしようもなかった……。
デザインレビューを機能させたかったら、やることは下記です。
- 経営者は場の雰囲気に気を配る。
- 悪い情報を引き出し易くするには、現場で何をするべきか知恵を絞る。
トラブルを未然に防ぐ仕組みができていきます。
中小現場の規模を考えると、大手に比べれば、現場のコミュニケーションや風通しを良好な状況に変化させやすいはずです。
大手と比べての強みとなります。
悪い情報を引き出してトラブルを未然に防ぐしくみをつくりませんか?
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