トヨタ生産方式における人と設備の係わり合い|元トヨタマンの目
豊田佐吉翁は御母堂が日がな一日機織をしているのを見て、「なんとかこのような労働から開放させることはできないだろうか」と思い、自動織機の開発に着手された。
その結果、佐吉翁は自動化させることに成功した。
しかしこの自動織機は糸が切れたりしたら、不良品を大量につくってしまうため、人が常時監視していて、糸が切れたら即機械を停止させなかればならなかった。
結局、人の手作業が監視に代わっただけだった。言い換えれば、人の肉体的疲労が緩和されただけで、労務費の発生は変わらない。
会社損益を見れば、設備投資が増加しただけということになってしまい、そんなくらいなら手作業のままの方がよかったということになってしまう。
佐吉翁は、それではまずいということで、ただ自動化するだけではなく、糸が切れたりするトラブルが発生した場合、織機が自動的に停止し、不良品をつくり続けることがないようなカラクリを考えた。
こうすれば、女工さんは1つの機械をずっと監視する必要がなくなり、多くの機械を受け持つことができるようになった。
機械が自動的に止まるので、そうしたらその機械にすぐに行って、糸を結んで再度起動すればよい。
このことをトヨタ生産方式では「自働化(自動化ではありません)」と呼ぶ。
この豊田式自働織機は欧米の特許を取得し世界を席巻した。
そしてその特許から得た莫大な資金でトヨタは自動車製造へ進んで行った。
したがって、自動車の製造の最初から、この「自働化」の発想がトヨタ自動車にはあったということが非常に大きな要素としてあった。
トヨタ生産方式の根本原理を言えば、「手動機から自動機に移行して、自動機と人作業とのもっとも効率的な組み合わせ考える」という風に言える。
自動化が進めば進むほど人作業が少なくなってくる。
そうなれば、まばらに且つ少なくなった人作業を集約できるよう(人が遊ばないよう)に、機械の配置から考えていくというのが根本思想だ。
したがって、どんなに自動化が進もうが、人作業を常にからませて考えているため自動化がうまく進展していく。
また現場の改善がなくなってしまうということはあり得ない。
私がいた機械加工ラインは、粗材を初工程に投入すれば8時間後に完成するという自動ラインだった。
1分に1個完成するため、すべての加工機械は加工時間は1分に設定されており、1分たったらその機械の加工が終了し、次の機械へ自動搬送される。
したがって自動搬送がやたらに多いわけだ。この自動搬送が曲者で、結構ちょこちょこ停止してしまう(チョコ停という)。
作業者はチョ停に出くわすと、なぜ止まってしまったのか、その真因をなぜ? なぜ? なぜ?……と5回繰り返し追求し、対策をうちスムーズに流れるように努力する。
その繰り返しで自動化ラインはスムーズに流れるようになる。
GMも以前、人がまったくいらない完全オートメーション工場にトライしたそうだが完璧に失敗したそうだ。
やはりトヨタのように「自働化」の思想から入って、人作業と自動化の進展を一歩一歩着実に進めていかなければだめなのだ。
トヨタは設備メーカーから機械設備を購入するが、すべての機械設備について、トラブルが発生したら稼動を自動的に停止し、あんどんを点灯するという「自働化」の機能を、トヨタ内製で付加する。
こうすることにより、その機械設備は完璧にトヨタの管理化に置くことができるし、メンテナンスなどは朝飯前の状態にする。
その先進の機械設備をトヨタがつくれと言われたら無理だが、「自働化機能を付加せよ」「メンテナンス技術を修得せよ」というようなことなら出来ないはずがないではないか。
しかし日本国内なら優秀なトヨタマンがうようよしていて、どんな不具合も一瞬のうち?に直してしまうが、海外ではそうはいかない。
自動搬送はなるべくなくして、人が運搬するようにしているし、なるべくシンプルな機械設備にしてメンテナンス性を追求している。
そのため完全自働搬送ラインの素晴らしい点がすべて失われてしまっているように思う。
トヨタ退職後、ある国内自動車メーカーの工場を見学した。その工場には「あんどん」が一つもなかった。
ボデー工場にはおびただしい数の溶接ロボット群があったが、あんどんがまったくないためどのようなオペレーションをしているのか分からず質問してみた。
そうするとコンピュータ室で集中管理しているとのこと。
トヨタにも同様の溶接ロボット群があるが、すべてにあんどんが設置されており、ロボットの状況はそのあんどんに表示される。
そのあんどんが作業者に来て欲しい場合にはランプが点灯するようになっている。
作業者でも管理者でも、現場に居合わせた人にはすべてそのあんどんが見えるため、その情報は全員が共有できる。