トヨタ工場技術員の改善への執念に脱帽|元トヨタマンの目
トヨタ生産方式の究極の目標は車が1台1台完成するのと同じタイミングで、すべての工程がそれぞれの車に必要な部品を1つ1つ造っていける状態にすることだ。
こうなれば不要な工程内在庫は1つもなくなり、生産リードタイムは最短になる。
トヨタは全員がこの理想を頭に描きながら、これに一歩でも近づけるように日々改善活動に邁進している。
またもう1つ理想を述べさせてもらうと、巨大な敷地・建屋の中にすべての生産ラインが集約できれば、それこそ本当の最短の生産リードタイムが実現できる。
しかしこれは物理的に絶対に不可能だ。
仕方なしに生産ラインが分断される。そうするとそこに「運搬」が発生し、新たに「引き取りかんばん」を製作しなければならなくなる。
このように考えてくると、運搬についてのトヨタ生産方式としての定義づけがはっきり分かると思う。
<運搬とは?>
- ラインとラインをつなぐもの(ラインと同じ性格でなければならない)
- 逆に言うと、ラインとラインをつなげば無くなってしまうもの
- 無い方がいいもの(運搬=ムダ)
ライン上を製品は1つずつ流れる。したがって、運搬も1つ1つ、ラインと同じ法則で運ぶのが理想だ。
しかしこの理想通りやっていたら、コストが膨大になってしまう。
そこである程度の数量が溜まったら運搬行為が行なわれることになる。
生産の効率を追求すれば、運搬コストがかさむ。
逆に運搬コストを削減するために大ロットで運ぼうとすると、生産効率が犠牲になる。
両者は非常に厄介な関係だ。
私がエンジン工場の生産管理課長をしている時、カムシャフトの鋳物粗材を供給してくるトヨタK工場の技術員が面会にきた。
エンジン工場の製造課長も同席した。
そこでその技術員は、カムシャフトの1かんばん当たりの収容数の縮小を提案してきた。
カムシャフトの粗材は鋳物で出来ていて製品自体が重いので、鉄パレットに大量の本数を入れてすべてフォークリフトでハンドリングや運搬が行なわれていた。
この荷姿をポリ箱に変えて、その収容数を人が運べる重さの本数に変更したいというものだ。
これが実現すれば、ポリ箱を集約したものは当然フォークリフトで運ばなければならないが、製造工程のハンドリングは人がポリ箱を1箱1箱持ち運べるので改善効果は非常に大きい。
大ロットだと受け取る方も多くの在庫を持たなければならないし、製造する方も大ロットのかんばんが流れると、かんばんが来た時と来ない時の間隔が広がり生産にムラが生じてしまう。
これが小ロットになれば、よりラインの状態に近づき、こちらもあちらもメリットは非常に大きい。
私も製造課長も同じトヨタの人間なので、その提案には大賛成だ。しかし問題は誰が実施するかということだ。
エンジン工場の加工ラインについても相当の設備改造が必要となり、それをうちの技術員に担当させる工数的余裕はない。
製造課長がそう答えると、そのK工場の技術員は「それなら私が主体でやります」と言うではないか。
それならこちらとしても何の問題もないのでお願いすることにした。
それ以来その技術員は設備改造の図面を造ったり、エンジン工場の技術員や現場と打ち合わせしたりしてどんどん進めていった。
我がT工場とその技術員のK工場は距離が50kmぐらい離れているので、そう簡単に行き来はできないが、よくその技術員は現場で見かけた。
そして2、3ヶ月後には完成させてしまった。
自分の工場の改善のためには、他工場にまで直接出向き、自分で汗をかいて実行してしまう。本当にすごい奴だと感心した。
こういう改善内容や行動力を見せつけられると、こっちも負けていられないと思う。
このいい意味の競争心が、現在のトヨタをつくってきた源泉である。