トヨタの生産技術部(生技)と製造部(現場)との関係|元トヨタマンの目
トヨタでは生産技術部が工場の生産ライン・生産設備をすべて設計・製作し、製造部に提供する(当然経理部からの予算取りもすべて生産技術部が行なう)。
製造部はそれに要員を投入して生産活動を行なう。生産技術部がメーカーで、製造部がユーザーである。
生産技術部も現場のことを熟知していなければ生産ラインなど敷けないので、製造部との技術員の異動は頻繁に行なわれる。
生産技術部が製造部に引き渡す生産設備は、すべて現場の作業者がオペレーションできなければならない。
そのためにすべての生産設備自体が、異常が発生したら自ら感知し、自ら稼動をやめ、さらにあんどんを点灯させて作業者を呼んで処置してもらえるように工夫されている。
このあんどん情報は当然、管理・監督者も見ることができるため、彼らもすぐに該当設備に駆けつけることができる。
このことにより、不慣れな現場作業者の場合の被害拡大を阻止すると同時に、作業者から管理・監督者を信頼されるようになり労使関係が良くなる。
また生産設備・生産ラインの情報がすべて顕在化することにより、作業者が1つの設備にへばりつく必要がなくなり、多くの設備を担当できるようになる。
あるトヨタ以外の自動車メーカーの工場を見学したことがある。
長大なボデー溶接ロボットラインに顕在化している情報が1つもなかった。端的に言えば、あんどんが1つもなかった。
どうやってオペレーションしているか聞いてみると、どこかのコントロール室でモニター情報で集中管理しているそうだ。
しかし当然、まったく無人ではなく、作業者はいるであろう。作業者とコントロール室の連携はどうなるのか。ちょっと理解が及ばない。
トヨタはここが違う。
現場のどこに立っていても、天井に吊るしてある巨大なあんどんを見ればラインの状況が手に取るようにすべて分かる。すべてが現場中心だ。
違った言い方をすれば、トヨタ以外のそのメーカーは生産技術部から現場へきちっと設備を引き渡していないということだ。
このようなことをしているとモニター情報と実際の現場と食い違うということが多々発生して結局品質不良などに結びついてしまうのではないか。トヨタとこのメーカーとはボタンの付け方が最初から違うのだ。
車は人の命を乗せる。読者はどちらのメーカーの車を選択するだろうか。私はトヨタだ。
次に生産ラインの進化といった面から、生産技術を見てみたい。
トヨタも一等最初は生産技術部などというものはなく、製造部(現場)が生産活動と生産技術的なことをひっくるめて行なっていた。
しかしトヨタ生産方式の進展とともにどんどんラインが高度化していき、生産技術を製造部から切り離して生産技術部として独立させて行かざるを得なくなった。
現在でもライン化が進んでいないメーカーは、製造部が生産活動から生産技術的なこともすべて行なっている。
東証一部上場会社でも生産技術部がないところもあるぐらいだから、中小メーカーの多くはこのようなところが多いのではないか。
なんでもかんでも製造部長!といった感じになると、製造部長はいろんなことをやりたいと思っても、金も組織も人もきちっともらえず、結局何もできずに時間だけ過ぎてしまうことになる。
『さて某クライアント会社のみなさん、ここまでが本日の活動についての、私の基本的考え方です。今日打ち合わせしたことはU君が大きな紙にすべて書いて掲示してくれます。それをたたき台に今まで言いたかったことをすべて言ってみてください。
そして不完全でいいから、まず形にしてみましょう。これもトヨタ式です。
目標が見えて、みなさんがやる気で取り掛かった段階で80%はできたようなものだと思います』