トヨタは「温室」だった|元トヨタマンの目
コンサルティングを始めて、地元の信用金庫の紹介である自動車部品の3次下請け会社を訪問したことがある。
現場を見せてもらったが、外国人の方が半分ぐらいいて、トヨタの目から見ると非常にゆっくりとした調子で作業していた。
見学が終ったあと、いろいろ気がついた改善すべき点を会長さんと社長さんにお話しした。
「機械が動いている間ずっとそれを見ていますが、問題が起きたら機械が感知するようにして、作業者が機械を離れられるようにしたらどうでしょうか」
「ちょっと機械配置を変更して1人の作業者でできるようにしたらどうでしょうか」
トヨタ生産方式のイロハの部分で、私の指摘に間違いはない。しかし、その回答に私は非常にショックを受けた。
「そんなことしたら外国人はすぐに来なくなってしまいますよ」
トヨタの現場は日本人だけで外国人は1人もいない。トヨタマンは外国人の雇用環境については白痴状態だ。
そこでそのことを詳しく教えてもらった。浜松、豊橋地区での外国人の雇用環境は次のようなランクだった。
1. トヨタではない自動車メーカーや一流自動車部品メーカー
賃金は非常に高いので金が欲しい人は行く。しかし仕事はきつい。
2. この3次下請け自動車部品の町工場
油にまみれて汚い。賃金はまあまあ。結局楽だから来てくれる。
3. お菓子メーカー
仕事は楽だが、賃金は安い。しかし仕事場がきれいで、お菓子もくれる。
このように彼らはいろいろな中小企業から大企業までを選別しているのだ。
この町工場でも、定着率はとても低く、せっかく仕事を教えてもすぐにやめてしまうケースも多々あるそうだ。
かといって、日本人など働いてくれないので、彼らに頼らざるを得ない。もう中小企業の経営者は泣きそうだ。
こんなような状態では、要員の質の面からトヨタ生産方式の導入はおろか、日常の改善活動すらままならない。
やはり大企業はいろいろな意味で恵まれすぎているのだ。トヨタでは生産の理想の体制を学ばせてもらった。
これからはコンサルティングを通じて、社会全体の実態を学ぶ番だ。
自分の頭の中で、トヨタの理想の生産ラインと目の前の現実の生産現場を対峙させて、その差異を認識し、それをいかに縮めていくか、という手法でいくしかない。