誠意と根性|元トヨタマンの目

誠意と根性|元トヨタマンの目

かんばんには部品納入サイクルが決めてある。

納入サイクル 1-4-3

その意味
1日にトヨタへ4便の納入があるとする。
かんばんが振り出された便から、3便後にそのかんばんと部品を納入する。
例えば、その日の1便でかんばんが振り出されたら、その日の4便で部品を納入するということになる。

納入ができない場合の事務処理
部品メーカーの都合で、どうしても指定された納入便では納入できない場合はトヨタ生産管理の担当者へ連絡する。
連絡を受けた担当者は、現場へ行ってその部品の在庫数を確認し、次の定期便の挽回でもラインストップにならないのか、それともそれでは間に合わないのででき次第、特別便を走らせて挽回してもらわなければならないのかを判断し、問題があった場合のみ部品メーカーへ連絡する。

 

トヨタ担当者はこの未納連絡を受けることを非常に恐れていた。

なぜならただでさえ忙しいのに、さらに工数のかかる仕事を一方的に言いつけられるのと同じだからだ。

忙しいからと、台帳だけ見て「大丈夫だろう」と思って調査しないままにしておいて、実際にその部品が欠品してラインストップが発生したら、責任は全てトヨタ担当者にくることになる。

 

私が本社工場の生産管理の担当者だった頃、T製作所という部品メーカーがこの部品未納連絡を頻繁に連絡してきた。

クランプなどの小物部品を多数幅広く扱い、自社のみならず多くの2次下請け、3次下請けを持ち、納入管理が非常に大変であることはわかるが、それにしても未納件数が多すぎる。

 

「T製作所のYですが、すいません。未納連絡なんですが」
「Yさん、もういいかげんにしてくださいよ。こっちだって忙しいんだから」
「すいません」
「もう、あなたのおかげで昨日も残業ですよ。今日も残業させる気ですか」
「すいません」
「トヨタでの御社の管理責任は購買部(調達部)にあるから、購買部に言って御社の生産管理体制を抜本的に立て直してもらいますから」
「すいません」

 

私も若かったので、いろいろなことを言っていた。しかし結局、現場調査に行かざるを得ない。

また翌日

 

「すいません。T製作所のYですが、青木さんですか」
「ああ、Yさん、昨日本当に購買部へ言っといたから、連絡あった?」
「はい、ありました。今、課長が対応してます。ところで未納連絡なんですが」
「……」

 

もし私がこのYさんならきっと胃でも悪くしているのではないかと思う。しかしYさんからの電話は毎日くる。

ちょうどその頃、他の部品メーカーが未納連絡をせずにラインストップが発生したことが複数回あった。

トヨタではラインストップなどのトラブルが発生するとその原因が徹底的に調査されるので、それらが判明した。

 

それらのメーカーは常平生は未納はほとんどない。しかし今回未納が発生したのに連絡して来なかったのだ。

トヨタマンは根が馬鹿がつくほど正直なので、このような行為には我慢することができない。

現場も生産管理も大爆発だ。

 

もし未納連絡を入れてくれていたら、事前に対策を打つことができるので、ラインストップによる何百人、いや何千人のムダな労務費の発生をくい止めることができたはずだ。

まさかその部品メーカーにムダ労務費の分を請求できるわけでもないのだ。

またトヨタは世界で唯一、労務費の変動予算管理を行なっている。部品メーカーの不誠実のおかげで、このムダの部分ははっきり数字に出てくる。

 

そして製造部長が工場長に怒られる。

「何をやっていたんだ。部品メーカーまで指導に行って、原因を追求させ、必ず再発防止までさせてこい」

購買部にT製作所のことをチクッた後は、購買部から毎月、T製作所の未納状況をレポートするように要請があった。そして私は次のようにコメントしてしまった。

 

「相変わらず未納は多いので、やはり生産管理のしくみから抜本的に建て直す必要がある。
その際は、工場生産管理も協力する。
しかしダンマリ未納をやっている部品メーカーも結構あり、たまにラインストップが発生して大混乱させられる。
しかしT製作所は、われわれからどんな悪態をつかれてもめげずに、毎日毎日漏れなく未納を連絡してくる。
われわれとしたも、その対応が大変だが、ダンマリ未納されるよりよい。
最近は、このT製作所のまじめな態度に、逆に信頼が持てると思うようになった。
われわれトヨタも見習うべきものがある」

 

ほどなくT製作所の幹部から連絡があった。

 

「青木さんのコメント、購買部で回覧になって、購買部のいろんな人から誉められちゃいましたよ。ありがとうございました」
「ついうっかり、僕も書かなくてもいいことを書いちゃいました。それにしてもYさんばっかりに頼っていてはだめですよ。抜本的に改革してうまく回るようにして下さいよ」

 

私がトヨタを退社する少し前に何十年ぶりかにYさんに田原工場であった。

Yさんは立派な課長さんになっていた。

元トヨタマンの目
トヨタ生産コンサルティング株式会社


豊田生産コンサルティング株式会社代表取締役社長◎略歴 昭和30年(1955) 愛知県豊橋市生まれ 昭和53年(1978) 早稲田大学商学部卒業トヨタ自動車工業株式会社(現トヨタ自動車)入社 平成16年(2004) トヨタの基幹職チャレンジ・キャリヤ制度(他社への転出支援制度)によりトヨタを退職(退職時資格は課長級) オーエスジー株式会社オーエスジープロダクションシステム推進本部副本部長就任 消耗性工具(ドリル・タップ・エンドミル)専門メーカーで自動車関連以外の業種の現場改善活動に従事。 平成19年(2007) 豊田生産コンサルティング株式会社設立◎トヨタでの職歴(26年)人事部人事課海外関係人事 3年/財務部経理課輸出入経理、国内債権債務管理 3年/本社工場工務部原価グループ鍛造工場能率・製造予算管理、工場棚卸総括 3年/本社工場工務部生産管理室車体・塗装・組立工場生産管理 4年/米州事業部原価企画グループ北米事業体原価管理、北米生産車原価企画 3年/田原工場工務部原価グループ成形工場能率・製造予算管理、トヨタ生産方式部課長自主研 2年/田原工場工務部生産管理室エンジン・鋳物工場生産管理、トヨタ生産方式部課長自主研 8年◎本社部門(人事・財務・原価企画)9年、工場部門(本社工場・田原工場)17年と本社機能、工場機能のそれぞれを幅広く経験。特に工場では生産管理と原価管理という「石垣」づくりとトヨタ生産方式自主研メンバーとして「天守閣」づくりの両方に長年従事。