トヨタ式問題解決手法は人生観をも変える|元トヨタマンの目
トヨタでは全社員にトヨタ式問題解決手法を、入社したその日から徹底的に教育する。
そのやり方はこうだ。
新入社員一人に対し一人の職場先輩がつく。
そしてその職場先輩から「問題解決すべきテーマ」が与えられる。
それを半年ぐらいかけて新入社員が汗をかいて動き回り解決させ、最終的にA3用紙1枚に決められた様式でまとめて役員の前で発表しなければならない。
当然、仕事を一から覚えながら実行しつつ、さらに問題解決テーマをやらなければならない。
それでは問題解決のために自分のとった行動をどのようにまとめるかを説明したい。
1. 問題発見(職場先輩から与えられる)
2. 目標設定
3. 要因解析
4. 対策立案
5. 対策実施
6. 効果の確認(設定した目標に届けばこれで終わり、届かなければ次にいく)
7. 問題の再発見
8. 目標設定
9. 要因解析
10. 対策立案
11. ……
12. ……(設定した目標を達成するまで何回でもこのサークルを繰り返す)
トヨタは50年以上かけてトヨタ生産方式「城」を構築してきた。
地盤を固め、石垣を築き、堅牢な天守閣を建築した。
このような磐石の体制があるため、その体制から少しでも相違するものをすべて「問題」と認識する。
具体的にいえば、このお城を見学するとすべての細かい箇所にも「標準作業票」「手持ち在庫数」などという立て札がかかげてある。
見学者はその立て札に書いてある内容と実態とを見比べる。そしてそこに相違があれば、即それが「問題」なのだ。
またトヨタは一般には知られていないが、世界で唯一(だと思います)、労務費の変動予算管理を実施している。
トヨタ生産方式の第一の目的は労務費を変動費にできるようなライン作りをすることだといえる。
そしてトヨタは全世界的にそれを実現させており、その労務費についても予算管理を実施し、問題点が毎月わかるようにしている。
具体的には各組単位でそこで製造するすべての製品について、1個つくるのに何工数かかったかというデータを作りこんでいる。
そのデータがあれば、生産量が増減した場合、各組がどれだけの工数を投入していいのかの指標(労務費予算)を提示することができる。
トヨタはここまで磐石な体制を構築した上で、そこから明らかになるいろいろな問題について、「人間」に「それが発生する真の原因をつかんで対策を打ち解決していってもらう」という活動をしてもらうことを期待しているわけだ。
以上がトヨタが「1.問題発見」という項目から始めている理由だ。
ゆえにトヨタのような堅牢なお城のような体制を築けていない会社は、トヨタのように問題の発見から入るなどということはできない。
そのような会社の場合、経営者が
「地盤を固める必要があるのでその固め方についてその方法などを研究・検討しなさい」
「石垣を積まなければならないのでのその方法を学習しなさい」
というような方向性を示した上で、「人間」に期待することになる。
結局、世間一般でいわれる「PLAN」「DO」「CHECK」「ACTION」というやり方で進めていくしかない。
しかし実際には経営者がそのような明確な方向性を示している場合は少ないようだ。
そうなるとすべてを「人間」に期待されてしまう。期待されても人は何をどのようにやっていいのよく分からない。
人が勝手に判断してとにかくやり出すが、何か忙しいばかりで成果らしきものはまったく出てこない。
そのうち過剰な要求が出されて人がパンクしてしまう。
トヨタでは新入社員に問題解決の「洗礼」を受けさせてからは、OJTでゴリゴリ絞られる。
「この問題の捉え方は純技術的な思考しか入っていない。もっと広く管理の面からも考えなくちゃあだめだ」
「この目標の設定した考え方は何だ」
「こんな筋の通らん作文で決裁がとれると思っているのか」
「こんな甘い掘り下げ方ではだめだ。もっと現場を観察してなぜなぜって100回やってこい」
「こんな効果でいいと思っとるのか。もう1回、管理のサークルを繰り返せ」
こんな調子で上司から仕事を通して教育されていく。
そして20代半ばに「中堅社員基礎研修」、30代に入って「中堅社員特別研修」という集合教育があって係長昇格となる。
これらの集合教育の先生はすべて古参係長か新任課長クラスのトヨタマンが行う。
トヨタでは係長以上の職制はすべて問題解決手法の免許皆伝者なのだ。
私も特別研修の先生をやったが、度重なる合宿研修や、その際出されるすべてのレポートを採点し、コメントを書かなければならず非常に大変だった。
さて、この問題解決の手順の中で特筆すべきことが「目標設定」についての次のようなトヨタ独特の考え方だ。
目標を設定する場合は次のことに注意が必要だ。
①目標は必要性からズバリと決める
- できるかできないかの可能性を先に考えるのではなく、必要性からズバリ目標を決めて、その後で可能性を考えよ(豊田喜一郎氏の教え)
- 他社、他部署と同類の目標(不良率・災害率など)はAクラスを狙うこと。達成してもBクラスという目標はだめ
- 大事なことは高い目標を掲げて、その目標達成のために何をしなければならないかを真剣に考え、知恵を振り絞ること
②表現は具体的に分かりやすく
- 目標は誰にでも分かる分かりやすいものにし、できるだけ具体的に、数量的に表現します
- そのためには「何を」「いつまでに」「どれだけ」といった条件を明らかにすることが必要
- 定量化できるものを、定性的表現に留めないことはもちろん、スタッフ部門で具体的に表現しにくい場合でも、できるだけ数量化する
- 例えば、教育の目標で「80%の人が○(=効果があった)といえばよい」といった決め方でもよい
③上位方針を確認
- 組織、職場には必ず方針がある。部長方針・目標・実施事項、課長方針・目標・実施事項をしっかり理解しておくこと、そして上司と十分話し合い、これらを十分理解、確認して目標設定を行なうことが重要
私はトヨタで26年働いたが、毎日毎日がいろいろな問題点を解決する連続だったように思うし、常に自分の設定した目標に対して現状の進捗状況が気になった。
そのような生活をしていたある日、テレビで癌をわずらい死期を宣告された患者さんが残された人生を周りの人達の協力で非常に充実した生活をおくり遂には亡くなっていく放送を見た。
この方は自らの意思に反して余命を宣告された。いわゆる目標の納期を最悪な形ではあるが突きつけられたわけだ。そしてその死に向かって通常では考えられない濃密な生活・人生を送られた。
不謹慎かもしれないが、私は次のように考えた。
「そうだ、自分自身で自分の死を宣告すればよい。目標設定を自分の強い意思でするのだ。元旦に、俺はあと1年で死ぬ、と自分に宣告しよう」
あと1年しかないと思うと、人生でやり残してあったさまざまなことが実施しなければならない事項として頭に浮んでくる。
たとえば、ピアノだ。ずっと弾きたかったが、やろうとはしなかった。この世に生を受けて、ピアノを弾けないまま死ぬのはもったいない。
せっかく40才ぐらいから、楽譜の読み方を勉強して読めるようになったんだからやるしかないな、ということで50才からピアノを始めた。
するとどうであろう、今52才だがユーミンの「春よ、来い」まで弾けるようになってしまった。
本も出したいな。
トヨタで人生を過ごしてきて、ものすごいことを教えてもらったんだから、それをほっとくてはないな、ということで本も出版してしまった。
さらにそれが高じて経営コンサルタントとして独立してしまった。
現在は、朝起きると「今日の夜、俺は死ぬ。今日の夜死ぬ時(実は寝る時)悔いのないようにきょう1日を行動するぞ!」というところまでいってしまった。
でも実際に50才を過ぎると、結構多くの幼なじみや同級生が亡くなってきている。自分だって本当にいつまで生きられるか分からない。
このように自分で自分の納期を設定しつつ生きていけば、もしも万一自分の意思に反して納期設定されるような場面に遭遇した場合でも、悔恨のダメージが少なくてすむような気がする。
要は50才を過ぎたら常に緊張して生きようということかなあ。