未然に防ぐ視点と起きてから迅速に対応する視点

未然に防ぐ視点と起きてから迅速に対応する視点

未然に防ぐ視点と起きてから迅速に対応する視点で余分なコストが発生するのを防ぐ、という話です。

1. リスク管理の視点

工場運営、工場経営で“仕組み”の構築は絶対です。

仕組みなくして運営、経営はあり得ない。

さらに、下記の2つの視点を持つことが欠かせません。

 

1)問題が発生するのは、現時点の“仕組み”が最適ではないからである。

原因は人ではなく、仕事のやりかたにある

 

2)問題は仕組みを通じて未然に防ぐものである。

問題は発生してから対応するモノではなく、防止するモノ

 

失敗(不良品)によって負うことになるコストの大小関係が下記だからです。

予防 < 検査 < 内部失敗 < 外部失敗

 

コトが起きてからでは、現状復帰に要するエネルギーは大きいのが一般的。

可能な限り“起こさない”ようにした方が精神衛生上もヨロシイです。

こうした事実に基づけば、経営資源に制約がある中小製造業こそ予防策の検討に時間をかけて知恵を絞ります。

 

失敗を(問題)を未然に防ぐ仕組みをドンドン構築していく。

そうして、モノづくりに、本業に、専念する環境を整える。

これが目指す方向のひとつです。

 

しかしながら、あらゆる失敗(問題)を完全に予防することはできません。

また、それは現実的な対応でもありません。

さらに、自社で発生する問題が外部要因による場合もあります。

 

したがって、問題が発生したことを想定することも必要です。

起きてしまった場合に備え、迅速に対応策を打てるようにしておきます。

リスク管理の視点です。

2. トヨタグループでの対応

2016年1月8日にトヨタグループの愛知製鋼の知多工場(愛知県)で爆発事故があり、2月8〜13日の6日間、国内車両組立全ラインの稼働が停止する事態になりました。

愛知製鋼が生産する鋼材はトヨタ自動車が生産する多くの車種に広範囲に使われていたので、その時点で約8万台の減産要因が生じました。

工場が復旧したのが3月21日ですから、2ケ月以上、出荷が停止しました。

 

そこで、代替材への対応が迫られました。

問題を発生させた愛知製鋼では、代替生産を頼めるメーカーを全国各地で選んであらかじめリスト化していました。

それにより、迅速に委託先を見つけることができました。

 

部品と材料は完成車メーカーと部品メーカーが初期段階から共同開発するので、材料の貴重なノウハウを事前に手渡すことになります。

事故発生の前段階で具体的な事まで詰めてはいませんでしたが、それでも、リスト化しておいたお陰で委託先を早く見つけられた。

時間勝負となる対策検討時点で、威力を発揮したことは十分に理解できます。

 

一方、材料を使用する側のトヨタ自動車では、代替材を厳しくチェックする体制を敷いていました。

2009年から2010年にかけてトヨタ自動車では北米や日本などで行われた大規模なリコールを経験していることもあり、代替材の品質管理に神経を使っています。

そうした経緯もあり、トヨタ自動車の品質保証部や各工場の品質管理部門は代替品を厳しくチェックする体制を構築しています。

(出典:『日経ものづくり』2016年3月号)

 

愛知製鋼は上記の委託先リスト化に加えて、1ケ月分の在庫を確保していました。

愛知製鋼はリスト化と在庫確保のお陰で、トヨタ国内車両組み立て全ラインの稼働停止を6日間に抑えることができたともいえます。

もし、リストがなく、適正な在庫も確保していなければ停止期間の長期化が避けられなかった。

 

販売機会損失による業績への影響もまだまだ大きかったことは想像できます。

3. 未然に防ぐ視点と起きてから迅速に対応する視点

生産活動にはトラブル、問題はつきもの。

ですから、想定しうるトラブル、問題は可能な限り未然に防ぎたい。

一方で、起こりうる事態を想定し、起きてしまった時点で迫られる対応策を事前に打っておきたい。

 

トラブル、問題に関連したコストが概ね、

予防 < 検査 < 内部失敗 < 外部失敗

になることを目安として、当然、外部失敗コストを睨み、手を打つ。

 

予期せぬ(予期せぬ事態の存在を許してはいけないですが……)事態に陥った時、現場はバタバタします。

管理者は冷静に判断し、的確かつ迅速に対応策を指示する必要があります。

判断に時間を要する重要事項は事前に想定して標準化すると、その時に極めて効果的です。

 

しかしながら、事前に手を打つ有用性は頭でわかっていても、なかなか実行に移せません。

日常が忙しすぎる事情もあります。

ですから、時間をかけます。積み上げるように進めます。

 

この業務に完璧を求める必要はありません。

また納期を設定することもありません。

やればやった分だけ「安心」を獲得できる業務です。

 

一方、想定したトラブルが起きないこともあり、当然、仕組みを構築しても活用する場面が無いこともあります。

それはそれでイイのですが、したがって、無駄になると考える向きもあります。

ですが、決してそのようなことはありません。

 

現場の「今」を知ることになります。現状のキモを把握することになります。

極めて有益な仕事です。

未然に防ぐ視点と起きてから迅速に対応する視点の2つをバランスよく持ちます。

まとめ

未然に防ぐ視点と起きてから迅速に対応する視点で余分なコストが発生するのを防ぐ。

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)