適応型音声アルゴリズムの開発
当社の仕事は、競争の激しい今日の補聴器市場のニーズを満たすための一連の要件を顧客(補聴器メーカー)と協力して決定する、製品マーケティングから始まります。これが開発の起点です。
その要件に基づき、アルゴリズム開発者は、技術仕様書を作成し、それが各音声アルゴリズムを実現する青写真の役割を果たします。
次に、各アルゴリズムが仕様に合致することを検証するための一連のテストが作成されます。
仕様書が作成されたら、導入後の動作をモデリングするツールMATLAB®を使用してシミュレーションを開始します。
テストを中心に据えた開発手法を実施するということは、開発者がアルゴリズムの完成に伴い、各コンポーネントがテストをパスするように一連の検証テストを構築する必要があることを意味しています。
これらのテストは、後に行われるリグレッションテストにも役に立ちます。
アルゴリズムを構築して、それを組み合わせていく際、今まで正しく機能していた動作が何かを新たに追加したことで誤作動することは避けたいものです。
それを検証するために、定期的な一連の夜間テストが社内のビルドサーバーから実行されます。
アルゴリズムのプロトタイプが出来上がり、シミュレーションで立証されると、ハードウェア、つまり当社のケースでは専用の超低消費電力デジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)に実装できます。
超低消費電力の制約があるため、最高の性能をハードウェアに組み込むために、アルゴリズムは機械語に近いアセンブリ言語で書かれています。
当社の専用のDSPは、CFX、汎用DSPシステム、プログラマブル・フィルタ・エンジン、HEARアクセラレータという複数の主機能ブロックで構成されています。
通常、当社にとって「最高の性能をハードウェアに組み込む」とは、それぞれ独自のプログラミング言語を持つこれらの機能ブロック・コアに対して、アルゴリズム処理を配置することを意味し、これには絶妙なバランスを取る必要があります。
既にシミュレーションが済んだアルゴリズムを高い精度で正確に実装するために、当社の検証ステップにはデジタルテストが追加されています。
このテストは、データの各処理フレームと通してDSPを動作させる自動化ツールを用いて、シミュレーションとファームウェア間での、インプット、アウトプット、およびステートの比較が含まれています。そして、超低消費電力DSPから最大限の機能を引き出すために、アルゴリズムは再度プロファイリングおよび最適化されます。
アルゴリズムが正しく機能していることを確認するために、音響テストや電気テストの組み合わせを使用することもできます。ノイズ削減または客観的な音響計測の場合、アルゴリズムが臨床仕様に沿って正確に作動することを検証するための主観的な評価が含まれます。
通常、主観的な評価は、当社のEzairo® 7150 SLベースの耳かけ型(behind-the-ear、BTE)補聴器のリファレンス設計または当社の顧客が市場に投入するハードウェアを生で聞くという形を取ります。
Audio Precision社の測定機器、ヘッド・アンド・トルソ・シミュレータ(HATS)、および音響テスト室は、すべてこのプロセスに含まれています。
ほとんどの補聴器は聴力低下を補うために、ある種の広ダイナミック・レンジ圧縮(Wide Dynamic Range Compression、WDRC)を使用することになります。
補聴器のWDRCアルゴリズムの最も重要な要件の1つは、臨床の処方に合わせて制限値および限界値を音響的に示す必要があることです。
それを達成するために、マイクおよび受信機の感度を含めた複数の要因に基づいて内部の限界値を調整する必要があります。
また、システムの反応を正確にモデリングする必要があり、これは内部圧縮チャネルの効果を組み込むことを意味します。
そのために、単なるファームウェアに止まらず、優れたソフトウェア・ライブラリを構築する必要があります。
この開発を迅速化するために、当社はMATLAB Coder™を使用しています。
このツールを使用することにより、先述の複雑な効果を処理できるプログラムを記述し、他のソフトウェア・ライブラリと統合できるソースコードを簡単に生成することができます。
補聴器市場のニーズに合った柔軟で強力な音響ソリューションの提供は、オン・セミコンダクターのアルゴリズム開発チームがお客様と密接に協力し改善を続けることによって提供できる、たいへん特徴的な分野です。
出典:『適応型音声アルゴリズムの開発』オン・セミコンダクター