分かりにくい用語とその意味(7)データ収集間隔/データ保存間隔

分かりにくい用語とその意味(7)データ収集間隔/データ保存間隔

前回はデジタル処理におけるサンプリング周波数のお話をしましたが、今回はそれと混同されることもあるデータ収集間隔について説明します。

波形データの収集間隔とは?

例えば、ポータブル振動解析システムKenjinのデータ収集装置KJ-2000Bの仕様書を見ると、波形データ収集の項目に、「データ収集間隔」として0.1秒から10秒までの時間が書いてあります。

この「データ収集間隔」とは何かを図10と図11で説明します。

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▲図10.アナログ信号とデジタル信号

 

前回、図10で説明したように、アナログ信号はサンプリング周期(⊿t)の間隔でデジタル信号に変換されますが、振動解析システムで波形やスペクトルを表示させるためのデータとしては無制限に連続してデータを取り続けるのではなく、決められた個数(N個)のデータを取っています。

サンプリング周期(⊿t)でこのN個のデータを取り込むには、⊿t×N = Tの時間がかかります。

これが図11に示すデータ取込み時間(T)になります。時間TのN個のデータのかたまりが1つの波形データということになりますが、個々の波形データを収集する間隔が「波形データ収集間隔」ということになります。

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▲図11.波形データ収集間隔とデータ取込み時間

 

なお、データ数(N)はスペクトルのライン数と関係しており、例えば、スペクトルライン数800の場合には2048個(800×2.56)のデータが必要となります。

この時、回転数3,000 rpmの25次までの解析を行おうとした場合、サンプリング周波数fs = 3,200Hz(= 50 Hz×25×2.56)、つまりその逆数のサンプリング周期は⊿t = 0.3125 msとなります。

したがって、この設定例ではデータ取込み時間T = ⊿t×N = 0.64 sとなります。

 

このように、データ取込み時間は、スペクトルライン数やスペクトルの最高周波数(または最高次数)の設定で変わりますが、波形データの収集間隔はこれとは関係なく設定される値ということになります。

トレンドデータの収集間隔とは?

上記と同様に、ポータブル振動解析システムKenjinのデータ収集装置KJ-2000Bの仕様書を見ると、トレンドデータ収集の項目にも、「収集間隔」として0.1秒から10秒までの時間が書いてあります。

これは、上記の波形データの収集間隔とは違い、サンプリング周波数fsで収集したデータから演算されたオーバーオール振幅値や0.5X、 1X、 2X、 nX等の振幅、位相など、振動波形から演算処理されたデータであるトレンドデータを収集する間隔で、図12に示すようなイメージになります。

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▲図12.トレンドデータの収集間隔

 

波形データは動的なデータ、ダイナミックデータということができますが、これに対して、その波形データから一定間隔ごとに演算処理されたトレンドデータは静的なデータ、スタティックデータということができます。

勿論、スタティックデータとはいえ、高速回転機械の状態が変化している時、例えば起動中などトレンドデータも急速に変化することがありますので、そのような場合には細かい時間間隔で収集したほうがより細かく挙動変化を見ることができます。

サンプリング周波数とデータ収集間隔の混同

さて、サンプリング周波数の逆数であるサンプリング周期と今回説明したデータ収集間隔をよく理解していないと、いずれもデータ収集に関する時間間隔であるため混同されることがあります。

例えば、波形データ収集間隔の説明の中で示したように、基本周波数50Hzの振動波形データを収集して25次までの周波数解析を行う場合、サンプリング周期⊿t は 0.3125ミリ秒(サンプリング周波数fs = 3,200Hz)でなければなりません。

これに対して、データ収集間隔は最短でも0.1秒であり、これをサンプリング周期と勘違いしてしまうと大変です。

 

仮にサンプリング周波数が0.1秒であったとすると、解析できる最高周波数は3.9Hz(0.1秒の逆数の10Hzがサンプリング周波数ということになるので、10/2.56 = 3.9Hz)ということになってしまいます。

しかし、図10〜図12で説明した通り、サンプリング周波数とデータ収集間隔とは関係ありません。

前回のサンプリング周波数と今回のデータ収集間隔の説明を理解していただければ、このような混同、勘違いをしてしまうことはないでしょう。

データ収集間隔とデータ保存間隔、データ更新間隔

上記のデータ収集間隔の例として、ポータブル振動解析システムKenjinのデータ収集装置KJ-2000Bの仕様書の表記を取り上げましたが、データ収集装置ではなく、Kenjinシステムの仕様書ではデータ収集間隔ではなく、「保存間隔」という値が示されています。

このデータ収集間隔とデータ保存間隔は基本的に同じ値なのですが、KJ-2000Bのようなデータ収集装置から見ると「データ収集間隔」または「データ収集周期」であり、そのデータを保存するPCのデータベースを含むシステムから見れば「データ保存間隔」または「データ保存周期」ということになります。

また、解析システムの表示ソフトウエア上で現在収集中のデータをリアルタイムに表示している時には「データ更新間隔」または「データ更新周期」ということができます。

出典:『技術コラム 回転機械の状態監視や解析診断』新川電機株式会社


アペルザニュース編集部です。日本の製造業、ものづくり産業の活性化を目指し、日々がんばっています。