生産シミュレーションを知ることで、仕事の幅を広げよう!
シミュレーションを実行する価値
未来を予測する。それが当たるというメリットは計り知れません。
良い結果が得られれば、それを実現するためのアクションを積極的に取ることができます。また、悪い結果であれば、それを改善するためにどうするか考えます。
結果がどちらに転ぼうか、やるべきことが決まります。そして行動に落とし込めます。つまり、シミュレーションというツール、いや武器を身に付けることで、仕事の成果が格段に上がる可能性がもたらされます。
手探りであれこれ考えている時間も短縮されますし、結果から非常に多くの問題点が見えてきます。
こういう効果は、自分の生活環境に置き換えても理解できると思います。
しかし、人はある程度どういうものか認識しないと効果だけ聞いても納得しないでしょう。今回は、どういうものか基礎的なことを説明し、実際の業務にどう役立つかの視点で説明いたします。
シミュレーションの種類
シミュレーションとは平たく言うと、予測対象となる振る舞いの結果を,実際の物や現実の対象を用いずに、対象を真似たモデルの振る舞いから予測すると定義できるでしょう。
つまり、予測したい現実のモデルを用いないで模擬試験を行うことです。現実モデルそのものの振る舞いはシミュレーションではなく実験です。
シミュレーションでは予測したいモデルとは異なるモデルを用います。つまり実験できない対象にシミュレーションを用いることになります。
1.リアルかバーチャルか
対象を真似たモデルは、物体であっても良いのです。モックアップの模型も予測対象のモデルと言えるでしょう。しかし、ここでのモデルはコンピューター内で作成します。
2.静的か動的か
コンピューターシミュレーションと分類される物には、静的シミュレーションと動的シミュレーションがあります。
文字通り静的とは停止しているものがシミュレーションの対象です。動的とは時間的に変化をするものがシミュレーションの対象となります。
生産分野でのシミュレーション対象はワークの動きです。従いまして時間的に変化をする生産シミュレーションは動的シミュレーションとなります。
3. 連続系か離散系か
動的シミュレーションは、さらに連続系と離散系に分けられます。連続系は、予測対象となるものが、水のような流体になります。
つまり、対象の状態が時間の変化と共に絶えず変化するものです。そのため、化学プロセスでは連続系のシミュレーションを行います。一方、予測対象の状態が時間の変化に伴わず、特定の時刻で行われるものは離散系のシミュレーションを行います。
例えば、組立工程のワークの動きは、特定の機械で特定の時間に処理がなされるため離散系に該当します。ベルトコンベアーで連続的に移動をしても、ワークそのものか変化をしていません。移動の前後の工程で特定時刻にワークが組立てられて変化しますから離散系なのです。
基本的な知識として、シミュレーションの対象は物が時間的に動くものであれば、コンピューター上でモデル化できるのです。
ここが重要です。生産シミュレーションの効果を薄々分かっている方々の多くが、自分の関係する生産ラインが予測対象になるのかという疑問を持っています。
その疑問は払拭しても大丈夫です。ワークが生産ラインを動くためシミュレーションの予測対象になるのです。
生産シミュレーションの効果
前回、生産活動において生産シミュレーションは下記業務に効果があるとお伝えしました。
(1) 工程設計
(2) レイアウト設計
(3) 生産ラインの改善
(4) 構内物流
(5) 在庫管理
(6) 生産スケジュール
例えば、新たに生産ラインを構築する場合を取り上げてみましょう。
工程設計の良し悪しを評価する指標(Key performance indicators の頭文字をとってKPIと呼ばれる)の代表的なものに、生産性、リードタイム、段取り率、直行率や稼動率が有ります。
PDCAサイクルを回して新たなラインを構築する場合、工程設計を行う前に、これらKPIの目標値を定めます(PDCAのPに相当)。
次に工程設計に基づき生産を行います(PDCAのDに相当)。次にライン構築後に生産実績から実績KPIが分かり、目標KPIとの差が分かります(PDCAのCに相当)。最後に目標KPIと実績KPIの差を埋めるために改善を行います(PDCAのAに相当)。
従来のPDCAサイクルでは生産DによりKPIの予実差異が出るのを前提に改善Aというプロセスがあります。
このプロセスで、計画Pから生産Dに移る前にシミュレーションSを行えば、評価CでのKPIの予実差異の発生は非常に小さなものになり、改善Aでの活動も非常に小さなものになります。
また、改善Aの前に再度シミュレーションSを入れることにより、改善A後の実績KPIをより目標KPIに近づけることができます。
PSDCSAサイクルでは、シミュレーションSが余分に発生しますが改善Aでの活動負荷が減少し、PSDCSAサイクル全体での負荷は減少します。
工程設計をする場合、精緻な工程フロー図、作業標準書が生産シミュレーションによって記載できれば、量産の立上げも早くなります。いわゆる垂直立上げを実現できます。
量産後の需要増により生産性をさらに上げなくてはならない場合、工程設計で作成した生産シミュレーションのモデルを利用すれば、的確な改善活動もできます。
コンピューター上で作成したシミュレーションモデルは流用できるため日々の生産活動にも活かされるのです。
生産シミュレーションの効果は他にも沢山もあります。最初に導入する時の不安はもちろんありますが、“案ずるより産むが易し”と言います。
導入して生産活動業務に定着すれば、永続的に企業に恩恵をもたらすものと確信しています。
※1 : ㈱浜テクアートの島崎中小企業診断士が提唱しています。
出典:『生産シミュレーションを知ることで、仕事の幅を広げよう!』FAプロダクツ