振動解析と診断 vol.11 ポータブル振動解析システムKenjin
前回のドラッグ&ドロップ機能、グラフ表示切替タブ機能、タイル表示、複数パラメータの重ね描き等の説明に続き、今回はポータブル振動解析システムKenjinに関して説明したいと思います。
ポータブル振動解析システム Kenjin
今回は、infiSYS RV-200の高度なデータ解析機能や使いやすい操作性、描画機能等の特長をそのまま継承しながら、小型・軽量で機動性に優れたポータブル振動解析システムKenjinを紹介します。
2013年1月号でも軽く触れていますが、ポータブル振動解析システムKenjinは、振動監視システム(振動モニタ)までは設置されていても、振動解析システムまでは設置されていないような大型回転機械設備において、異常発生時の振動解析実施や、スタートアップ/シャットダウン時のトランジェントデータ収集が可能な多チャンネルのシステムです。
チャンネル数は、フェーズマーカ(位相基準)と振動チャンネルを合わせて最大24CHで、いずれも4CH/ボードとなっていますので、例えば、フェーズマーカボード1枚実装してフェーズマーカ4CHまでとすると、振動チャンネルは20CHまで実装することが可能です。
図25に示すように小型のデータ収集装置とノートパソコンというシンプルな構成のため、機動性に優れ、容易にセットアップして、その場で即データ収集と解析を行なうことが可能です。
図25.Kenjin システム構成例
ポータブル振動解析システムKenjinは、基本的なソフトウエアの機能や操作性に関して常設型の振動解析システムinfiSYS RV-200とほぼ同じであり、前回までのコラムで説明してきた「高度なデータ解析と多様なグラフ」および「ユーザーフレンドリーな操作性と描画機能」といったinfiSYS RV-200と同じ特長を持っています。
それに加えてKenjinは下記の特長を有しています。
▪️小型・軽量で機動性抜群
寸法:96(W)×224(H)×163(D)mm 質量:2.6kg
▪️素早くセットアップ・その場でデータ解析を実現
シンプルなシステム構成とユーザフレンドリーな操作性が高い機動性を実現
▪️高速データ収集(※)
最短データ収集間隔 トレンドデータ 0.1秒、波形データ 0.1秒
※最短データ収集間隔はスペクトルライン数やチャンネル数によって変わります。
さて、新川電機では上記に述べたKenjinの機動性を生かして、新川電機の振動診断技術者によるデータ収集と解析診断サービスを実施しています。
そこで収集した解析データの一例を図37と図38に示します。
図37. トレンドグラフ(ラビング発生時)
これは蒸気タービンの軸振動が周期的な変動を繰り返すということで、原因調査のためのデータ収集を実施したもので、図37のトレンドグラフにより、OA振幅と1X振幅がおよそ1時間周期で増減を繰り返していることと、1X位相も同様な周期で変動を繰り返していることが判明。
このデータをポーラ線図で展開したところ、図38のように振動ベクトルがポーラ線図上で周期的に旋回していることが分かり、シール部分のラビング(接触)の可能性が高いとの診断を行った実機データ例を示したものです。
回転数5,300rpmで運転状態は一定にも関わらず、振動ベクトルが時間とともに旋回しており、ラビングの特徴的な現象を示した。
図38. ポーラ線図(ラビング発生時)
おわりに
ここまで述べたように、infiSYS RV-200のような回転機械の振動解析診断システムは高度な解析機能の搭載や操作性の著しい進化とともに、新規プラントにおける採用だけでなく、既設プラントへの適用など、多くのプラントにおいて導入が進んできています。
また、予算的な制約等で常設システムの導入までには至らないプラントにおいてもポータブルシステムのKenjinの導入や、Kenjinを用いたデータ収集・解析診断サービスの利用なども広まりつつあります。
振動解析と診断に関しては、途中でお休みもいただきましたが、ほぼ1年、11回に及ぶ長いシリーズになってしまいました。読んで頂いた方にとって多少なりとも興味を持っていただき、お役に立つ点があったとすれば幸いです。
次回からは、分かりにくい用語や、振動以外のアプリケーションなどもピックアップして説明していきたいと思います。
出典:『技術コラム 回転機械の状態監視や解析診断』新川電機株式会社