新たな資本主義の形が地域から生まれてくるのかも
ビジネスで社会貢献をすることで、地域問題を解決するサービスを継続的に提供できる、という話です。
社会貢献をビジネスにするのは、決して“人の不幸を食い物にしている”わけではありません。
本気で人の役に立ちたいと決心したら、まずはその人は、経済的に自立せにゃイカン、ということです。
そうした仕事は、現場の働きがいを高めます。
1.「共有価値の創造」「共通価値の創造」
CSVと呼ばれる、地域の問題を自社の事業を通じて解決していくビジネスモデルが注目されています。
「Creating Shared Value」の略で、「共有価値の創造」「共通価値の創造」と訳されます。
2014年版中小企業白書では、社会価値と企業価値の両立は、中小企業・小規模事業者でも実践し得るし、むしろ、古くから地域に根ざして事業を行ってきた中小企業・小規模事業者にとって、直面する地域特有の課題にこそ、新しいビジネスの可能性、生きる道があるのではないか。
と提言しています。
小企業・小規模事業者が地域課題の解決に自らの事業として取り組むことは、課題解決による地域活性化と、それによる企業利益の増大という好循環を生み出すことが期待されています。
2.地域での少子化、高齢化、人口減少
少子化、高齢化に加えて、人口減少の波も、確実に地域に広がっています。
既に日本は人口減少モードへ突入しています。
平成27年度の国勢調査の速報によれば、我が国の人口は1億2711万人、前回調査の平成22年から94万7千人減少、0.7%減、年平均0.15%減、大正9年の調査開始以来、初めて前回調査対比で減少した数値が得られたようです。
前回調査対比で人口が増加した都道府県は8つです。
東京、神奈川、愛知、埼玉、沖縄、福岡、千葉、滋賀。
人口増加数が多い順に並べています。
人の流れが関東圏へ集中していることが明らかです。
10人にひとりが東京の人であり、さらに4人にひとりは東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)です。
裏返して言うと地方、地域の人口がドンドン減っているということ。
こうした状況に少子化、高齢化の問題が加わります。
3.地域で中小企業工場に期待される役割はますます大きくなる
今後、地域に密着して事業活動を続けている中小モノづくり工場に期待される役割は、ますます大きくなると思います。
日本各地の地域は少子化と高齢化の問題に加え、人口減少問題に直面しています。
中でも雇用の場を維持確保することは、地域の活性化に欠かせません。
次世代を担う若手人財の働く場が地域になければ、他の地域へ移らざるを得ません。
多くの中小モノづくり工場が立地している地域でも同様なはずです。
どうしても、モノづくり工場の存続と成長を実現しなければなりません。
そして、付加価値を拡大させる事業展開が欠かせません。
その中で、少子化、高齢化、人口減少等の外部環境の変化をビジネスチャンスと考えるのがCSVです。
中小企業白書では下記のような企業を事例として取り上げています。
・地域活動を通じて社員も地域も幸せにする企業
・歩行困難者が自由に移動できる手段を提供する企業
・社長の子どもの頃の夢を通して、地域に貢献しているバス運営会社
・地域資源を活用し、地域に価値を還元する企業
地域社会への貢献を通じて企業も発展し従業員も幸せになるビジネス、地域社会から信頼され尊敬されるビジネス、こうした事業で地域を活性化したい志を持った経営者が活躍する時代になりつつあるのかもしれません。
4.「新たな資本主義」では中小企業製造業も主役になるかも
日経新聞に「新たな資本主義の形」について考える記事がありました。
(出典:『日本経済新聞』2016年2月23日)
2016年1月に株式をインド市場に上場したインドの病院チェーンがあります。
ナラヤナ・ヘルス病院グループです。
業務の効率化によりアメリカの3%強の料金で心臓移植をして、貧しい人達にも手術を受ける機会を創出しています。
「桁違いの目標」を掲げて、その夢を実現させています。
インドの一人あたりの国民所得は2013年時点で日本の4%に過ぎない貧しい国であるので、多くのインド国民に手術を受けてもらいたいと考えたら、手術費を「桁違い」に下げねばなりませんでした。
これを事業展開する上での貧しい国であることを、制約条件ではなく、機会としてとらえた考え方が素晴らしいと思いました。
ただ、ここで重要なのは事業が慈善事業ではなく、ビジネスであるということ。
「世界で最も深刻な問題は、最大のビジネスチャンスにもなる」という趣旨のプレートが創業者のデビ・シェティ氏の執務室に飾ってあるそうです。
そのシェティ氏は次のように語っています。
「事前事業は資金が尽きれば終わるが、ビジネスは拡張が可能だ」
社会貢献は継続性が重要であることを強調しています。
5.ビジネスで社会貢献する
社会貢献には様々な形がありますが、対象とする人たちのことを思い、継続的な活動を地道に続けようとしたら、ボランティア活動では限界があるということだと思います。
社会貢献をビジネスにするのは、決して“人の不幸を食い物にしている”わけではありません。
本気で人の役に立ちたいと決心したらまずはその人は経済的に自立せにゃイカン、ということです。
ボランティア精神は素晴らしい想いです。
ただし、その想いを一時的ではなく、継続的に果たしたかったら、収益も確保するビジネスモデルが必要になるということです。
自分が幸せにならないことには、他人を幸せにする仕事に本気で打ち込むことはできないでしょう。
米ハーバード大学がデビ・シェティ氏のナラヤナ・ヘルス病院グループのビジネスモデルを教材に取り上げているそうです。
講義の名前は「新興国の社会的、経済的な問題を起業家の発想で解決する」。
リーマンショック直前に全盛を迎えた「米国型資本主義」に変わり、社会への貢献にこそ収益の機会があると考える「社会」をキーワードとした新たな資本主義の登場が期待できそうです。
日本も平成バブルが崩壊した90年代前半以降、確実に産業構造は変化しています。
造れば売れる時代は終わりました。
売れているモノを造っても長続きしません。
消費者の嗜好の多様化もありますが、少子化、高齢化、人口減少という避けられない外部環境の変化が、地域で起きているからです。
事業を成長させるための発想も変えねばならない時と感じます。
「社会」をキーワードにすると、それまで見えなかったビジネスチャンス、ビジネスモデルが浮かぶかもしれません。
社会に貢献していることを実感できるモノづくり工場の現場には、仕事のやりがいが満ち溢れるはずです。
工場が提供している「コト」に喜びを感じた顧客からのお礼のメッセージを目にして、張り切らない人はいませんから。
会社も工場も成長し、雇用の場を創出し続けると共に、社会問題も解決するビジネスモデルを大いに考えたいです。
新たな資本主義の形が地域からどんどん生まれてくるのかもしれません。
まとめ。
社会貢献をビジネスにするのは、決して“人の不幸を食い物にしている”わけではない。
本気で人に役に立ちたいと決心したらまずはその人は経済的に自立せにゃイカン、ということ。
そうした仕事は現場の働きがいを高める。
ビジネスで社会貢献をすることで、地域問題を解決するサービスを継続的に提供できる。