生産性は上げりゃいいってモノじゃないので考える
産性を向上させる活動では、5つの正攻法と照らし合わせ、現金が増えるのか増えないのかを事前に確認する、という話です。
現場が生産性向上に取り組む時、事前に経営者が効果を確認していますか?
生産性を向上させても現金を増やすことにつながらないことがあります。生産性向上の目的を、事前にハッキリさせる必要があります。
1.生産性を向上させても現金を増やすことにつながらないことがある
生産性の向上。
モノづくりの現場なら誰でも知っている言葉です。
「セイサンセイヲ、コウジョウサセナケレバイケナイ。」
新卒で工場の現場へ配属になり、まだ右も左も分からなかった頃から、頻繁に耳にする言葉でした。
生産性は向上させるものである。
それ自体は間違ってはいません。
しかし、生産性向上自体が目的ではありません。
工場運営や工場経営の目的はお金を稼ぐことです。
従業員を豊かにしてあげたい、未来投資を実践したいという経営者の想いを実現させるために必要なのは現金(キャシュ)です。
これは、企業活動における“絶対的真理”です。
企業活動で社会貢献するにせよ、地域貢献するにせよ、雇用を確保するにせよ、
その前に、自社従業員の生活を豊かにし、しっかり税金を納め、そして未来投資ができなければ、そもそも、会社が存続し成長することができない。
キレイごとを言う前に、しっかりと必要なモノを稼ぐ。
それが現金(キャッシュ)です。
もうかり続ける工場経営では、当然、この意識を常に持っていなければなりません。
ですから、工場運営や工場経営の目的は現金を稼ぐこと以外にありません。
まず、稼げる仕組みを構築します。
そして、その現金(キャッシュ)を増やす5つの正攻法がありました。
(1)変動費から付加価値をひねり出し、直接的な利益の積み上げを図る。
(2)固定費(付加価値)から経営資源を生み出し、増産or開発力/営業力強化へ振り向ける。
(3)借金を返済して固定費(支払利息)の低減を図り、直接的な利益の積み上げを図る。
(4)運転資金(特に棚卸資産)をスリム化する。
(5)高付加価値化で単価を上げ、販路開拓で販売数量を増やして売上高を増やす。
5つの正攻法の中に「生産性の向上」という表現はありません。
ですから、現金を増やすという視点で考えた時、生産性を向上させることが、必ずしも優先度の高い業務になるとは限りません。
生産性の定義はOUTPUT÷INPUTです。
これが向上すると、投入する経営資源から生まれるアウトプットの量が増えます。
投入する経営資源当たりに生み出されるアウトプットの効率が良くなります。
基本的にはウレシイコトです。
ただし、それが、現金を増やすことにつながるのか否かは状況次第である、
ということを知る必要はあります。
現金を増やすためには、原則的に、5つの正攻法しかありません。
ですから、生産性を向上させた結果、この5つの正攻法のうちのどれにプラスの効果を
もたらすのか?ということを考えます。
場合によっては、生産性を向上させても、現金を増やすことに無関係だった、ということがあるわけです。
限られた経営資源の中で頑張っている現場としては、今ヤランデモイイノニ、モッタイナイ、ということになります。
ですから、生産性向上の取り組みを決めたら、それは5つの正攻法のどれに良い影響をもたらすのか事前に確認します。
2.生産性の定義と5つの正攻法を照らし合わせて今一度ヨク考える
生産性の定義はOUTPUT÷INPUTであり、インプットとアウトプットを何で表現するかで6通りの組み合わせがあります。
アウトプット: ○物量 ○金額
インプット :○労働量 ○原材料 ○投入資本・設備
つまり、生産性もいろいろあり、自社工場、現場の目的に合わせて効果的な定義を決めます。
ここでは、日常の工場運営で頻繁に使われる下記、2種類の生産性について生産性向上による現金増への効果の有無を確認します。
・アウトプットが物量あるいは金額でインプットが労働量の時
・アウトプットが物量あるいは金額でインプットが原材料の時
2-1 アウトプットが物量あるいは金額でインプットが労働量の時
最も頻繁に使われる定義です。
例えば、作業者が1名で組み立てる工程を仮定します。
今、1時間につき20台組み立てるペースです。この場合、生産性は20台/時と表現できます。
現在、需要が160台あったとします。
仮に8時間勤務とすれば、20台/時×8時間=160台生産可能。
ちょうど、需要分です。
ここで、もし生産性が倍になったとします。
つまり40台/時です。
生産性が100%増加しました。
これは、現金を増やすことに貢献するのでしょうか?
ケースによっていろいろな結論になります。
1)需要が160台→240台へ増えた場合。
従来の生産性ではどんな頑張っても160台しか生産できず、生産数の上乗せはできませんでした。
しかし、生産性が20台/時→40台/時へ向上したおかげで、生産能力はアップし、40台/時×8時間=320台生産可能です。
その結果、増えた需要分の80台分へも対応できます。
したがって、この場合、生産性を向上させることで、販売量増加に対応でき、販売量増加分の付加価値額だけ利益が上乗せされます。
このケースは、5つの正攻法のうちの(2)に対応します。
生産性向上が現金を増やすのに効果があるケースです。
2)需要が160台のままで不変の場合。
需要分の生産は、40台/時×4時間=160台なので、4時間で終わります。
残り4時間あります。
この時間をどうしますか?
この時間で、引き続き生産を継続して製品在庫を増やしたとします。
全て製品在庫となります。
ですから、これは現金を増やすこととは無関係です。
需要に無関係に生産した在庫で、1ヶ月以上倉庫に眠ることを考えれば在庫管理費用分がマイナスです。
さらに死蔵在庫になれば、マイナス分が拡大します。
ただし、製品在庫は戦略的な意図で積み上げることもあります。
この場合は経営者の戦略的意思決定に対応できた、という評価になります。
また、残りの4時間を、高付加価値品の開発や拡販活動に活用したら、これも(2)のケースとなり、直近の現金増にはつながりませんが、将来へ向けた開発力/営業力強化で意義あるコトになります。
つまり需要が不変で生産性を向上させる場合は、事前に経営者の狙いがハッキリしていないと、成果が無駄になる、ということです。
2-2 アウトプットが物量あるいは金額でインプットが原材料の時
通常はこの逆数をとって単位製品当たりの原材料で示します。
原単位です。
生産性の逆数ですから、原単位は小さくなれば小さくなるほどイイです。
例えば、これまで製品1台あたり10kgの原材料を使用していたと仮定します。
生産性を向上させた結果、製品1台あたり8kgの原材料で生産できるようになりました。
この場合、使用する原材料が製品1台あたり2kg減りました。
その結果、製品1台あたり2kg×原材料単価に相当する費用が削減されました。
削減された分が直接的な利益の上乗せとなります。
効果があるケースです。これは(1)に相当します。
このように、ケースによって生産性向上の効果の表れ方が異なることに留意します。
したがって、生産性の向上は現場で活動を展開する前に、必ず、その効果を評価することが重要です。
現場が、せっかく意気込んで取り組み、生産性を向上させたのに、評価すべき効果がなかった、ということは避けたいです。
まとめ。
現場が生産性向上に取り組む時、事前に経営者が効果を確認していますか?
生産性を向上させても現金を増やすことにつながらないこともある。
生産性向上の目的を事前にハッキリさせる必要がある。
生産性を向上させる活動では、5つの正攻法と照らし合わせ、現金が増えるのか
増えないのかを事前に確認する。