歴史が証明しているイノベーションを生む原動力とは

歴史が証明しているイノベーションを生む原動力とは

制約条件を積極的にとらえ、克服しようと知恵をひねり出し続ければ、存続・成長へつながる、という話です。

制約条件を、知恵を絞るキッカケにしていますか?

 

人財も不足していれば、資金も潤滑にあるわけでないし、設備も古いけど。

存続と成長のきっかけを、どのように掴めばイイだろうか?

 

制約条件は、本来あまり考えたくないことですが、その制約条件をしっかり認識します。

ひとつずつ、克服しようと全員で知恵を絞ります。

経営者の想いが浸透すれば、現場も共感し人財も育ちます。

1.陸上の100m走は肉体と言う制約条件を乗り越える競技

国際陸連が初めて公認した100m走の世界記録は、1912年のストックホルムオリンピックの男子100m予選において、ドナルド・リッピンコット(アメリカ)が記録した10秒6です。

今の世界記録は、2009年にウサイン・ボルト(ジャマイカ)が記録した9秒58。

初めて公認された世界記録から、約100年経過しています。

 

人類はその間でタイムを1秒縮めたことになります。

横軸を時間軸とした世界記録の推移を示したグラフを見ると見事に右肩下がりの近似直線が描けます。

100年で1秒ですから、0.1秒/10年のペースです。

 

傾きが小さくなる傾向が、まだ見られませんから、2020年東京オリンピックの頃に9秒4秒台の世界新記録が出るのかもしれません。

さて、どこまでタイムが短縮されるのでしょう。

人類の肉体の限界を極める記録です。

 

肉体という物理的な限界のために、世界記録は、いずれある値へ収束されるはずです。

そこへ至るまでは、誰かが記録を作れば、また他の誰かがその記録を塗り替える。

こうしたことが繰り返されて、記録はドンドン高いレベルに登っていきます。

 

ボルトが今の世界新記録を出したのは2009年です。

9秒58のタイムを出した瞬間、誰一人、次の記録は誰が破るのだろう、という事は考えません。

この瞬間、世界一番です。

 

前人未到! スゴイ! 当面、誰も越えられないだろう!

と考えるのが普通です。

ところが、その一方で世界一番が出た翌日から、さっそく世界中のアスリート達がその記録を塗り替えるための挑戦を始めているのも事実です。

 

記録は破られるために存在するとは、しばしば耳にする言葉です。

スポーツは「肉体」という制約条件がある中で争われる競技です。

特に陸上競技、その中でも短距離走、中長距離走は単純に”走る”ことを競います。

 

「肉体」という制約条件がモロに響きます。

道具もなく、ひたすら地道に肉体を鍛え上げる。

人類の肉体は制約条件を乗り越えてどこまで「高度化」するのでしょうか?

2.制約条件があるからこそイノベーションが生み出される

2015年12月に発売されたプリウスは2つの制約条件がある中で開発されました。

ひとつは標準化されたプラットホーム(車台)を使わねばならなかったこと。

そして、もうひとつは設備投資を従来の半分にしなければならなかったこと。

 

制約条件があったにも関わらず、先代プリウスを超える仕様を実現させています。

当然、先代プリウスでも、当時、最高の技術を導入しています。

それでも新プリウスで、さらなる高性能な商品を作り上げられたのは、基盤技術、要素技術が、当時より高度化していたことにも寄りますが、大きいのは日常的なカイゼンの積み重ねによる成果です。

 

仮に、もし制約条件がなかったら、より良い別の結果が得られていたかもしれません。

しかし、逆にこうした制約条件があったからこそ、素晴らしい商品を開発できたとも言えます。

日本経済新聞に次のような説明がありました。

 

国が成長に向かうためには、成長の新たなエンジンを企業が作ることである。

つまりイノベーションを生むことである。

過去の実例としては、

 

・アメリカ企業であるエアビーアンドビーは、空き部屋を貸したい人を、借りたい人にインフォメーションでつなぐ事業を始めた。

創業は2008年、リーマン危機の年である。

・製造業に革命を起こした「T型フォード」が誕生したのは、米金融危機の翌年1908年だった。

・米デュポンがナイロンを開発したのは、大恐慌の1930年代だった。

(出典:『日本経済新聞』2015年12月29日)

 

逆境がイノベーションを生む歴史を繰り返しています。

制約条件があったからこそイノベーションが生まれたと歴史は語っているようです。

インドや東南アジアの新興国が生み出すイノベーションが期待されています。

 

逆境をバネにかえるエネルギーに満ちているからです。

起業家を支援する事業を展開する、あるインド企業のトップは、インドの起業家に対して「制約が多いからこそ、イノベーティブでないと勝てない。」との信念を持っています。

インドでの制約条件と言えば貧困。

 

そのインドでは心臓移植を米国の100分の5以下の価格で提供する病院グループ企業が成長しています。

つまり、よく言われることですが、制約条件や逆境をデキナイ言い訳にするのか、デキルヨウニ知恵を絞るキッカケとするのか、ということです。

3.中小製造業は制約条件を存続と成長の機会にする

成功、成長する企業は、制約条件に直面したら、それを機会と捉える。

失敗、停滞する企業は、制約条件に直面したら、それを避ける。

逆境や制約条件に出会って、それを避けた時点で勝負はつきます。

 

中小企業のモノづくり現場では、ヒト、モノ、カネの経営資源を大手並みに潤滑に所有しているトコロの方が少ないです。

その意味では、中小製造業では、すでに多くの制約条件に直面しています。

不足している経営資源をいかに補いつつ、知恵を絞ることが求められます。

 

ですから、制約条件をキッカケにできるモノづくり工場のみが、存続し成長できます。

こうした場面では、経営者の想いをしっかり現場に伝えます。

実現したい将来の姿を示し、未来の工場がいかにワクワクするモノであるか、熱く語ることで共感が得られます。

 

そこへ向けた成功のシナリオを提示すれば、ますます、現場は盛り上がり活気で満ちてきます。

こうした未来志向で前向きの雰囲気が、人財の働きがいを生み出します。

自己の成長を実感できる風土が、やる気を引き出します。

 

現場がこうした環境になれば、ドンドン頼もしい人財が育ちます。

制約条件を積極的にとらえて、克服しようと知恵をひねり出し続ければ、必ず存続・成長のキッカケになります。

前へ進めます

まとめ。

存続と成長のきっかけをどのように掴めばイイだろうか?

 

制約条件は、本来あまり考えたくないと思いますが、その制約条件をしっかり認識する。

ひとつずつ、全員で克服しようと知恵を絞ります。

経営者の想いが浸透すれば、場も共感し人財も育ちます。

 

制約条件を積極的にとらえ、克服しようと知恵をひねり出し続ければ、存続・成長へつながる。

出典:株式会社工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)