方針、かけ声、理屈だけで、体質革新運動は発進しない! 飲む日を決めて改善スタ-ト!
改善の進め方には、グループ、進め方、担当と期限を強制的に割り当てて進める方法があります。
しかし、この方法は、改善担当の事務局や管理部門にとっては扱いが簡単かもしれませんが、意外に効果があがりません。
たとえ「改善は自分たちのため」という高尚な理屈があったとしても、言われただけのことをやって「役割を果たした!」としてしまうからです。
また、順番に改善発表を決めながら進める方法は、トランプのババ抜きゲ-ムに似ていて、輪番で改善を進め、企業が本来行う活動とは別の活動になる可能性が発生します。
以上、マンネリを招く方法の一例です。
では、WさんがP社から打開策の相談を受け、指導した例を示すことにしましょう。
P社に対するWさんの対応例
WさんがP社に訪問した時、改善の指導に行っても、まずは雰囲気づくりからスタートしなければならず、改善ができない言い訳をさんざん聞かされ、社内の人心の高揚から手をつけなければなりませんでした。
このような企業では、もしWさんが頑張って有効な提案を出しても、否定活動が始まるだけです。
すなわち、本音は「当社の事情を知らない者が何を言うか?」といった調子で、事が進まないのです。
そこで、このような企業にお邪魔したときは、指導の経験が深いWさん、
「やる気のない部門とはあまり話さず、やる気のある人を見つけ、まずはその方の職場の改善を重点的に手伝って実績をあげ、(相手に実力を見せてから)改善の論述に入ることにしている」
と、筆者にノウハウを紹介されました。
また、「ですが」と言われ、
「やる気の無い、議論の多い会社には『論より実践方式』が最適です。
理屈よりこっちの方が、説得性が高いからです。
一般に、改善の士気が落ち、過去の改善負担に悩む現場では、3〜4ヶ月はムードづくりというダミーのような時間を過ごさなければなりません。
さらに、私が行く前に、名前は言えませんが、あまり良くない指導者が指導していた場合、先の方のコンサルタントに対する不信感まで手伝って、信頼を得るまで大変に手間がかかります。
くわえて、その企業のトップと部下の方の信頼関係がシックリいっていない時には“この企業を手伝って良いものだろうか?”とさえ思うこともあります。
当然、こちらにも企業を選ぶ権利があります。
したがって、このような場合には、“皆様、優秀です。外部の意見や指導より自主的な改善をお望みです”と言って、短期間に喜ばれることだけをやって、失礼の無い形で早急に退散します。
P社がこのような状況でした。
ですが、企業の方々は自分の会社を何とかしたい、という思いに満ちていました。
そこで、“私が成果を見せつけると信頼され、正しい理論だと理解してもらえる”という法則を用いました。
つぎに、今まで改善面で冷や飯を食っていた実力を持つ方を探し、味方にする策を展開します。
なお、トップと従業員の方々の調整役(行司役)を努める形で事を進めていく方式も併用します。
いずれにしても、この対策で改善ムードをつくります。
これが成功して3ヶ月も経つと、関係者達の雰囲気は変わります。
企業トップが“支援してほしい”というお墨付きを得ても、外部の者はやはり外部、しかも関係者の給与の査定権を持つわけではないので、人間関係が重要です。
たとえ“○○先生”と呼ばれても、その分野に多少なりの経験を持つ程度です。
今までモノづくりに真剣に取り組んできた方々に信頼を得なければ、どのように良い話や資料を出しても使っていただけません。
外部の私のような者は“関係者からテストを受けている”と考えて対処すべきです。
でも、このような努力で、こちらの実力や発言が認められ、改善のテーマ・アップがなされ、後は、実行あるのみ! という環境になると、改善ムードが出てきます。
そこで、すかさず企業が抱えている問題を総ざらいする仕事に入ります。
そして、一人一人自分のテーマを持っていただき、会社と仲間を良くするために、自分は何をすべきか? について考えてもらいます。
また、個々に面接という形で指導をします。
個人が個々で実力を発揮してもらい、自分の将来像を明確にして取り組む目標の管理をするためです。
失敗は許されません。
そこで、あげた課題を総点検し、個々の従業員の希望と実力を確かめながら、目標と期限、貢献値を明確化し、どのような小さい改善でも良いから、早く成果があがる対策を実施願う段階に入ります。
仲間と共に誰がやったのかわからない活動や、お付き合い的な輪番ノルマ式改善から離れる対策を進めるわけです。
このためには、活動の一覧表が必要なので作成します。
さらに、1件の改善が終わるとすぐに次の課題に入っていただくようにもします。
下図の手順に示したような方式で『目で見て改善と経営への貢献度がわかる図』を示すわけです」
「このような対応と、改善による個々人の変化を得ると、企業文化とやる気、良い意味での相互競争関係が関係者間に出来上がってきます。
よく、企業から『やる気教育』の相談が来ます。
ですが、取り組む課題がなければ、やる気は目的の無い燃焼となります。
活性化とは、仕事と改善を通して人が育つ原理の活用だと思います。
課題の有無が、人材育成とやる気づくりの題材です。
したがって、いろいろな切り口や手法を示しながら改善すべき課題を全てあげた後、“このテーマを放置してきたムダを早く無くそう”と話します。
この意識がないと、何がムダで何がムダでないのかがわからず、誰かがやらなければならない問題がいつまでも残ります。
私は今でも多くの企業から、やる気づくりの教育を頼まれることがあります。
そんな時は、“テーマのない『やる気教育』は何のために必要なのですか?」と話します。
ですが、これでご納得いただけない時は、
“今のところ私には理解する能力がないので、この場合は私以上の力を持った、他の講師にこのテーマを委託するように関係者にお願いしていただけないでしょうか?”
とお願いしてきました」
以上がWさんのお話です。
対策後、P社はたった200名で、3,000件もの改善テーマが出され、改善競争のような形で改善がスタートしたそうです。
なお、一人ではできないテーマが出てきたため、相互にチームを組むという状況も自然発生しました。
これこそ真の小集団活動です。最初にチームありきの方式を適用をしたことが、改善を大きく進めました。
個々には小さな改善だったそうです。ですが、急速に改善は進み、4ヶ月で黒字変換しました。
そこで、Wさんが取り組んだご苦心と、投入された手法の価値が示された良い例であると考え、ここに紹介しました。
コメント
筆者がWさんの話をお聞きした時、企業が訴える問題を直接攻めるのではなく、相手を尊重しながら真剣にさせることや、改善チームの運用の前にテーマを抽出することの大切さを痛感しました。
その理由は、筆者にも似たような企業指導をした経験があったためです。
では、筆者が取り組んだ事例を紹介することにします。ご紹介するのは、赤字だけれど、燃える小集団を持つ企業における、少し変わった改善アプローチです。
鍛造製品を作る工場に対する筆者の対応例
この話は、鍛造製品を作る雪深い北の地にある工場体質の改善をしたときのものです。
改善をスタートしたのはある年の9月の末でした。
ただ、改善を担当する前に私に与えられた課題は、「もし改善に努力しても見込みがないなら、いつまでも操業を続けている意思はないのでその見極めもしたい」という社長のお願いでした。
このような状況だったため、知り合いの民宿を安く借用することで経費節減をしつつ、畳の部屋に民宿の食事に使う個人のお膳を用いて、研修会はスタートしました。
なお、この工場は多少の投資を行って数カ月前から各種改善が開始されてきました。
しかし、最終的に鍛造製品を製造するという基本は変わらず、人の仕事の仕方、小さな改善の積み重ねで品質や製品の歩留りが左右されていました。
収益計算上、もう一歩のところは従業員一人一人の努力にかかっていることがわかっていました。
このような状況であるということは、従業員もよく知っていました。
そして、「自分の会社を何とかしたい」という雰囲気で、筆者が担当する研修がスタートしました。
なお、研修といっても改善の中で使える簡単な手法を教えるだけで、ムダの見方と考え方を1時間程度講義し、改善とは「安全・確実で楽で早い仕事づくり」であることを学んでいただき、その後、2時間の実務課題を使った演習をするというものです。
テキストは5ページ程度だったと記憶しています。
実務問題では、個人の技量が関与する職場だったので、ノウハウを相互に公開し合っていただき、皆がその企業のNo.1技術で仕事ができるようにするためのまとめと、職場間の問題を本音で出し合って、対策案を研修の場でつくり実施してゆくための討論をしていただきました。
翌日は2時から、各職場間でもんだ課題の発表です。
不況とはいえ皆明るく、研修会も2年ほどやっていないということで、工場を止めて、現場も事務所も主だった方々(工場の1/4近くの30名が一堂に会する)で、盛り上がる研修でした。
また、北国独特の慣習なのか、数件の方からお酒や御馳走の差し入れがあることも、今回の改善対策実務研修会への期待が大きいことを示していました。
再度、研修の内容を記載します。
1日目は1時間程度改善の基本を勉強し、その後テーマの討論をしました。
2日目はフルで実務課題でしたが、数ヶ月後に発表会を計画しており、それまでに祝杯となるか? 1年後に涙のお別れ会になるか? という研修会でした。
1日目の講義は無事終了しました。
ですが、2時間の実務演習に入った途端、否定的な意見や対立が発生しました。
そこで筆者が、
「誰が会社を救うのですか? 今、話をしているは会社の問題です。
ボールは投げていい。ですが、誰が受け取るかをはっきりさせてほしい!
企業では自分が一流かもしれません。
しかし実際は赤字であり、お客様からもワースト3の烙印を押されています。
これが今の対立の理由だと思います。
一流選手なら、球を受け取ってください!」
と話しました。
ここで、皆の雰囲気が変わりました。
ですが、1日目はこの程度で、やがて宴会へ移りました。
いろいろな話が出ました。本音の討論です。
私も大分飲みました。
「温泉地なので飲んでも汗をかけば大丈夫!」ということも関係して、宴会は大盛り上がり。結局は明け方4時に就寝しました。
この時、「今回の研修の成果発表を6月にやろう!」という話になりました。
また、「研修をただの刺激で終わらせるのは、数年前なら許される。
けれど今回は真剣勝負! 成果の無いグル-プはお互いに良くない!」などの話がしきりに出ました。
しかし実際この時、経営計算ではかなりの改善を行ってもようやく赤字脱出程度かな? という状況でした。
話は前後しますが、
研修に来る前に、各グループが担当する改善テーマは既に決まっていました。
また、研修の環境は民宿の大部屋とはいえ、詰め込み教室のようでした。
しかし、チームワークは抜群でした。
そこで、私は「この方々ならやれるかもしれない。何か計算以外のことが起きるかもしれない!」と直感しました。
ですが、これは単なる私のヤマ勘です。
酒の勢いもあり、私は、
「6月の中旬に発表会をやらないか?
午前中発表会、午後は全員工場の脇にある川でバーベキューパーティーをやろう!
町の代行タクシ-は今から予約し、酒代は社長さんから私がもらってこよう!
ただしだよ、成果をあげないグループは酒もまずいし、出席してもカッコ悪いので頑張ってほしい」
と言いました。
すると、
「面白い、これから雪の季節に入るが、今晩の燃える雰囲気が雪を溶かして改善を進めるかもしれない」
「良い話だ、改善が進めば会社は良くなる。良いことをして良い酒を飲むのは、今日の先生の教えに一致している!」
「ですが、一つ問題がある。天気だ!梅雨の時期、外での会合は大丈夫かな?」
「……」
ここで、私もとんでもないことを言ったものだと、今も思うわけですが、
「心配するな、必ず晴れさせる!今まで数回この地を訪れたが一度も雨や雪にあったことがない私だ、晴れ男の私が約束するから」
と言って、代行タクシ-を今から予約、労働組合にもこのことを話し、全員一致で楽しく、
「6月のパーティー+発表会をやってはどうか? 家族参加OK! ただし、一人1000円の会費制、私は酒と軍資金を持参するからやろう、どうだ! 雪解け=問題解きのお祝いを兼ねてさ!」
と大盛り上がりで予定をたてました。
今も、偶然だと思いますが、この地を訪れる時には全て晴れと言ったので、この約束はこの会の皆には大きく効いたようでした。
これで、「飲む日を決めて改善スタート! きついが、遅れなし!」と決まりました。
とはいえ、言った私も半信半疑、決めた皆も半信半疑でした。
ですが、「理屈はともかくやる以外の道は無い!」ということで、改善発表は6月18日(土)と決まり、その間数回の訪問と体質改善や改善グループの相談をすることになりました。
翌日は8:30から研修開始です。しかし、二日酔いなしで、真剣に各テーマの具体的な進め方が討論されました。
全員が実務テーマを真剣に話し、やるべき課題を決め、他の職場に関与するテーマは調整するなど、意欲的な検討と発表討論会が行われました。
これで研修は終了です。
社長も発表を聞き、「皆が本気だ! 中村さん、今回は本物、こいつらもしかしたら化けるかもしれない。酒の提供などは安いものです。ありがとう」
という話で実務研修は終了しました。
この研修の後、発表会まで筆者は数回この企業を訪れました。
「前日に大雪だった」という話は聞きましたが、不思議なことに、私の訪問日は全て晴天でした(神様のお助けか、今も北国を訪れると、私が帰った後は「不思議なことに中村さんが来る時は晴れですね?」ということが、その後も10年ほど続きました)。
私がこの企業を訪れるごとに晴天が手伝い、日を追うごとに盛り上がりました。
「あの話が出てから、改善テーマの進行が行きづまると、発表会当日は雨になるのでは? という疑いが出ました。
しかし、あなたが来ると晴れでしょ、しかも、まわりのグループは熱心に改善に取り組んでいるとなると、我がグループも頑張ろう! ……良い酒を飲みたい! となるわけです。
大丈夫、発表会、たとえ雨でも成果をあげておきます! 研修会であげたテーマは全て終わり、既に次のテーマをやっているグループが出始めましたよ」
というように、翌年の3月には状況が大きく変わっていました。
すでに、余裕を持って黒字変換状態を維持していたからです。
いよいよ発表会当日です。
私は、工場の技術改善の検討を含めて前日の午後あたりからお邪魔しました。
心配した天候は晴れ!
何と、労働組合の委員長と工場管理者の数名は前日に休暇を取り、川の水を用水に引き込み、イワナやヤマメを釣ってきたという話もありました。
当然のことながら、早い改善の進捗が、未だ設備投資を行っていないのに会社を黒字変換させていました。
かつて、恥ずかしいことですが、この工場は自動車部品メーカーの中では品質、納期ともワースト5にランクされていました。
ですが、改善が進んでからは、難度は高いが付加価値の高い製品の注文が来るようになっていました。
しかも、この時点でベスト3にランクされていました。
やはり、改善と共に進めた実力向上がお客様の評価になったわけです。
そして、成果発表会は抜群でした。
これも手伝い、その後のパーティーは盛り上がり、美酒に酔って研修の思い出を話しながら川辺で美味しい食事と北国の景色と共に楽しい話に沸いたことは、筆者にとっても一生の思い出です。
端的に言って、今まで研修をしてきた他社で行うような高級、丁寧、長時間で系統的なものではなかったです。
しかも、研修は1回きり、環境も寺小屋教育といった風でした。研修の時、多分、誰もが狭く苦しかったと思います。
ですが、真剣に自分達の会社を良くしよう! 自分も良くなろう! と皆が努力された結果が、改善を進め、顧客の信頼を得て、品質・納期ベスト1の評価を得たわけでした(その後も継続)。
その後、3年ほど経過してから、この時に中心となって改善の指導に当たった工場スタッフの方の結婚式に招待されました。
この時、会社は更に良くなり、結婚式では「飲む日を決めて、改善研修の中村さん」のご紹介で祝辞をさせていただく機会があり、また楽しい思い出話に花が咲きました。
この対策は、筆者が企業に在勤していた30年も前の話です。
筆者はその後、イベントに頼る研修会を行ったことはありません。
ですが、今、この時のことをまとめてみると、現在も昔も変わらず、企業活動の支援と改善基盤の構築を繰り返しています。
下図のように、また、Wさんのお話にあったように、「テーマを決めて改善着手、チーム編成はテーマに応じて」という前提は、工場における自主改善の基本です。
そこで、古い話で恐縮でしたが、ここに筆者の体験談を紹介させていただいた次第です。