『アグリゲーター 知られざる職種—5年後に主役になる働き方』で働き方と人財について考える」
最後に勤めた会社では7年間、人材育成に携わっていた。
ビジネス環境の変化から新たな人材が求められている、ということは実感していた。
どんな人かというと、目的のために必要なリソースを集め、組み合わせ、調整し、目的を達成できる人である。プロデューサー、という呼称が一番近い。
こういった人は、視野が広く、一つの専門に特化せずに複数の専門性を持ち、しかも、市場を見ることができ、まわりを納得させられるコミュニケーション能力にも長けていることが求められる。
現代のスーパーマンである。
このような資質は、IDEOのような会社で働くイノベーションを起こせる人たちや、今はやりのデータサイエンティストにもあてはまる。
要するに、もう10年以上前から求められてきた人材像である。
そして、どう育成するか(そもそも育成できるのか)が大きな課題になっているのが実態である。
一方、働き方にも変化が求められている。
こちらは、『ワークシフト』に代表されるような多くの書籍で提案されている。
ひとつの組織に所属するのではなく、目的に応じて働き方、働く場所を自由に変えられるというものである。
『アグリゲーター 知られざる職種—5年後に主役になる働き方』(柴沼俊一、瀬川明秀、日経BP社)は、アグリケーターという言葉に惹かれて読んでみた。
本書で主張しようとしたことは、これまで別々に論じられてきた「これからの人材像」と「これからの働き方」を一緒に考えるというものであろう。
これは意味のあることである。
本書でアグリゲーターと呼ばれる人財は、最初に述べたプロデューサーと違いがあるとは思えない。
10年以上前からどこでも求めていた人財なので、企業によって呼称が違うだけ、と認識した。
働き方についても、『ワークシフト』で述べられている以上のことが述べられているとは思えない。
例に挙げられている席を固定しないフリーアクセスのオフィスなども大企業では10年近く前から実施されていることである(それでもビジネスに大きな変化が起きたようには見えないが)。
それで、両者を結びつけてどう論じられるのか、と期待したのだが、最後まで将来をイメージすることができなかった。
アグリゲーターの例として孫正義氏などの経営者が何人か挙げられているが、経営者なら目的に向かって必要なリソースを集めることができるだろうと想像できるものの、一般の人がアグリゲーターになってどう行動すれば目的が達成できるのか、がイメージできないのである。
新しい働き方との結びつきも具体的なイメージが得られない。だれからどうやって仕事を得て、利益はどう配分されるのか、とそこまで考えてしまう。
これまでもアグリゲーター的な思考を持った人には出会ったことがあるが、思いだけはあるものの組織を動かすだけの行動には結びつかなかった。
こういった人たちをどうマネジメントすればよいのだろうか。
むしろこれから必要なのは、一握りのアグリゲーター(多分経営者に近い)と、多くのスペシャリスト(彼らは流動的に働く場を変えられる)と、それらをマネジメントする組織の三者ではないだろうか。
多くのスペシャリストの中から一握りのアグリゲーターが生まれる、あるいは育てられる。
いずれにしても、雇用、人材育成にかかわるマネジメント組織は必要である。
※2013年10月に書かれた記事です。