4つの外部環境変化と存続と成長のための4つの課題
貴社では外部環境に適応するため、適切な経営課題を設定していますか?
1. 4つの外部環境と4つの課題
日本の製造業の基底を形成している中小企業は現在、大きな構造転換の中にあります。
地域産業・中小企業論が専門の一橋大学名誉教授で明星大学教授の関満博氏の指摘です。
外部環境の基本的な構造条件は次の4つ。
①グローバル化
②成熟化
③人口減少
④少子高齢化
そして、今後の課題は次の4つ。
1)開発も加工も際立った、先端の領域を視野に入れる
2)幅広い機能を身につけ、サービス機能を高める
3)オープンイノベーション
4)世界で稼ぐ
これらが、関教授が指摘される4つの外部環境変化と付加価値を拡大させる4つの課題です。
(出典:『日本経済新聞』2016年2月18日)
2. 開発も加工も際立った先端の領域を視野に入れる
ウチは、“先端分野”とはあまり関係がない。
このように思い込んでいる経営者がいます。
“先端分野” イコール 先進技術。エレクトロニクス分野や医療分野、IT分野、航空宇宙分野。
こうした分野に携わっていないと“先端分野”と無関係と考えてしまう。そう思い込んでいないでしょうか?
貴社のコア技術が、従来からの基盤技術、切削加工、鋳造加工等でも、先端分野を視野に入れられます。
何かを組み合わせればいいのです。
従来技術 + 先端技術 = 付加価値の創出
この考え方で、コア技術をブラシュアップさせます。
コア技術を強化すれば、付加価値を新たに生み出すことができるのです。
先端分野の技術を、自社のコア技術に組み込みます。
コア技術の中で、先端分野の技術を活用すればいいのです。
例えば、AIロボットやICTを活用したIOTの生産現場への導入がそれです。
中小製造業で付加価値を創出する方向性は2つです。
マス・カスタマイゼーションと超短納期。顧客嗜好の多様化で、今後は、何をつくるか? が問われます。
ただ、一方で、どのようにつくるか? でも付加価値を生みだすのです。
コアの製品から派生的な多品種製品が生まれても、生産性を落とさずに造り切る現場力。
突発だろうがなんだろうが、業界が驚くほどの短納期で造り切る現場力。
これらは、今後も武器になります。
自社工場のコア技術を、AIロボットやICTを活用したIOTで磨き上げる戦略です。
工場の“今”を知り尽くしていなければ採用できない戦略です。
3. 幅広い機能を身につけサービス機能を高める
モノづくりに加えて、何を顧客に提供できるか? を考えます。
造れば売れる時代は終焉を迎え、こだわり消費時代を迎えました。
高付加価値化で欠かせないのは、お客様視点です。「コト」に着目します。
医療用検査機器メーカー、シスメックの家次恒社長は次のように語っています。
「製品の提供と価値(サービス)の提供が持続的な成長の源泉だ」
自社製品 + 「 」 = 潜在的な顧客ニーズへの対応
これが、今後、中小製造業でも成立させたい式です。
下請け型の事業形態から脱却し、自ら、値付けの決定権を持ちます。
製造業は、自社製品に自らの考えで付加価値を加えられます。小売業やサービス業と比べて、独自性を出しやすいです。
自社製品の強みをより一層強化するサービスを創出します。顧客の利便性を高めます。
これは新たな市場を創出することと同じです。
4. オープンイノベーション
開発といえばマル秘のイメージがありませんか?
自社内で、シコシコと取り組むものと考えられてきました。
開発の進め方も変わりつつあります。今は外部の知恵も、積極的に生かすのです。
3Dプリンティング業界では、オープンソース化の流れが生まれています。
自社で開発した製品の形状データなどを、インターネット上で公開します。
そして、それを基に世界中の人に試作してもらい、評価してもらうのです。
3Dプリンターが普及し、可能になりました。技術イノベーションは仕事の在り方を変えます。
YOKOITO(本社:神奈川県茅ケ崎市)はトイカメラレンズを発売しています。
一眼レフカメラなどに装着できる製品です。同社では、オープンソース化の取り組みを展開しています。
資金的、人的リソースの制約条件を解消すること。
これが、オープンソース化の理由です。
限られた経営資源で、製品のバリエーションを増やせられます。
ユーザーを含めた、多くの人との共同作業が可能です。
メーカーだけでは思いつかないバリエーションも見つかることが期待できます。
(出典:『日経ものづくり』2015年8月号)
オープンイノベーション。
経営資源上の制約条件を補完する手段とします。
こうした仕事の仕方が定着していくと、中小でも大手に負けない開発力を手にするのです。
5. 世界で稼ぐ
言うは易し、行うは難し。
国内市場は成熟期を迎え、今後、その規模は縮小するのは避けられないことです。
ただし、一般的にいわれるようにアジア、アフリカの国々には、まだまだ成長の余地があります。グローバルに見れば需要はあるのです。
ということは理屈で分かっているけれど、海外進出は……。
中小製造業界全体の動きを次に示します。
下図は直接輸出を実施している中小製造業、および小規模製造業の企業数とその割合の推移です。
中小製造業では約6,000社です。また、中小製造業全体に占める割合は3%程度になっています。
(出典:経済産業省『工業統計表』、総務省・経済産業省『平成24年経済センサス-活動調査』再編加工)
中小企業白書では上図を次のように説明しています。
「直接輸出を実施している企業の推移を見たものであるが、2002年以降、中小企業の製造業で直接輸出を行っている企業の数、および中小製造業全体に占める割合は増加基調にあることが分かる。
また、小規模事業者について見ても、同様に増加基調にあることが見て取れる」
(出典:『中小企業白書』2014年版)
また、輸出企業の7割は、輸出展開が売上増に寄与した、6割が利益増に寄与した、と回答しています。
中小企業庁委託『中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査』
(2013年12月、損保ジャパン日本興亜リスクマネジメント株式会社)
海外進出は挑戦する価値がおおいにあります。
成長の機会となるケースが多いです。
6. 自ら新たな方程式をつくる
関教授は、4つの課題を、自ら新たな方程式を作り上げる「問題発見能力」とも表現しています。
造れば売れる時代は、量を追いかける規模の経済でした。
概ね造るべきモノは分かっていた。市場を見れば、需要があるけれども供給が追いつかないモノが自然とわかる。
ところが、成熟した国内市場は、産業構造を大きく変えました。
消費者も気が付いていない潜在的なニーズを探ることが、商品開発、製品開発で重要になっています。
自ら方程式を立てなければなりません。
4つの外部環境変化と4つの課題。
これらに対応できる仕組み、人財力、モノづくり力があるでしょうか?
まず、自社工場の「今」を把握するところからです。
外部環境の変化に適応した貴社の経営課題を設定しませんか?