1次側安定化コンバータに巻線センス抵抗を使用すべきか?
一次側安定化(PSR)コンバータは、携帯電話の充電器やLED照明に幅広く使用されています。
これらのコンバータは出力負荷に、定電流(CC)または定電圧(CV)あるいはその両方(CCCV)を供給します。
PSRコンバータは電源の設計が簡略化されるため広く普及しています。
実際、フライバック・コンバータの場合、出力電流はトランスの1次側から制御されるため、オプトカプラやその関連回路(センス抵抗、オペアンプなど)は不要です。
出力電流は直接測定されませんが、フライバック・コンバータ自体によって生成された信号からは推定されます。
コントローラは、スイッチング・イベントに関する情報を処理し、出力電流を一定に維持するための制御変数を生成します。
したがって、正確な電流制御を行うために、コントローラに供給されるフライバック・コンバータの波形は、クリーンかつ正確であることが必要です。
寄生成分の影響を考慮し、可能な限り最小限に抑える必要があります。
より正確に言えば、センス抵抗は出力電流値を一定にするので、PSRコンバータにおける重要なパラメータです。
したがって、PSR定電流レギュレータに対して、センス抵抗の値と技術を慎重に選択しなければなりません。
巻線センス抵抗
抵抗はインダクタンスやキャパシタンスなどの寄生成分を備えています。
抵抗技術に応じてこれらの寄生成分は変化します。
さまざまな抵抗技術があります[1]。
最も一般的なものは、巻線抵抗、炭素皮膜抵抗、金属被膜抵抗、金属箔抵抗です。
それぞれの技術に長所と短所があります。
例えば、巻線抵抗は非常に厳密な許容差(0.01%)、低い温度係数を持つことができ、経時安定性を備えています。
しかし、巻線抵抗は寄生インダクタンスを有するため、センス抵抗として使用した場合は出力電流の安定化に影響を与える可能性があります。
以下、具体的なケース・スタディとしてこの寄生インダクタンスの影響を示します。
500mAの定出力電流を供給するために0.33Ωの巻線センス抵抗がケーブル接続されたNCL30082コントローラを使用した、PSRフライバック・ボードを用意しました。巻線抵抗で測定された出力電流はわずか443mAです。
ドレイン電流を測定し、それをセンス抵抗電圧÷センス抵抗値と比較した場合、一致しないことが分かります。
電流および電圧プローブを適切に較正しました。図1に実験用セットアップでキャプチャした波形を示します。
最初のカーソルでの測定値は、次のとおりです。
– Vsense = 585 mV
– Ipri = 1.547 A
測定電圧に対応する電流を計算すると、次のようになります。
注:RPCBは、センス抵抗とバルク・コンデンサ・グランド間のプリント回路基板(PCB)トラックの抵抗を表します。
この設計ではPCBトラックはかなり長くなりました。
測定された1次側電流とセンス抵抗によって変換された電流イメージの間に約100mAの差異があります。
コントローラで測定されたセンス電圧に関する問題を考慮すると、1次電流が1.547Aの場合は次のセンス電圧が得られるはずです。
これは次の概算電圧差を表します。
巻線抵抗は図2のようにモデル化することができます。
Rdcは直流抵抗、Lparは寄生インダクタンス値を表します。
通常、抵抗モデルに付随する寄生容量もありますが、出力電流の安定化に影響を与えないため、ここでは省略しています。
ネットワーク・アナライザを使用して、162V入力電圧時のコンバータのスイッチング周波数に相当する85kHz周波数に対するセンス抵抗の直列インダクタンスを測定しました。
測定したインダクタンスは110nHです。
また、ネットワーク・アナライザAP300でRsenseのインピーダンスをプロットしました。
インピーダンスの大きさと位相を図3に示します。
周波数が10 kHzから200 kHzの間にあるとき、寄生インダクタンスの変化をはっきり確認できます。
これがコンバータのスイッチング周波数範囲です。
3kHz以下では直流抵抗のみになります。
ここで、次の値でセンス抵抗モデルを更新できます。
– Rdc = 0.335 ohms
– Lpar = 110 nH.
1次側スイッチが閉じている(MOSFETが導通)ときに、センス抵抗モデルをフライバック・コンバータ(図4)に接続した場合は、Lparで次のとおりセンス電圧が変更されることが分かります。
寄生インダクタンスが人工的にセンス電圧を増加させ、コントローラが誤解釈するため、出力電流が減少します。
実際、PSRコントローラは出力電流を直接測定せず、受信する信号を通じてその値を推定します。
センス電圧には「誤差」があるため、この誤差が出力電流の設定点に伝播されます。
Lparに起因する電圧上昇をΔVsenseとすると、次式のようになります。
不連続導通モードなので、1次側電流は次のとおり記述できます。
時間に対する1次側電流の微分係数は、次のとおりです。
したがって、センス電圧差は次のように記述できます。
ネットワーク・アナライザHP4284Aを使用して、次のとおり85kHzにおけるトランスの1次側インダクタンスと漏れインダクタンスを測定します。
– Lp = 397.3 µH
– Lleak = 7 µH (補助巻線と2次側巻線を個別に短絡して測定)
ここで、162VdcでのLparに起因する理論的な電圧上昇を次のとおり計算できます。
この結果は38mVのセンス電圧差(.03)に非常に近くなります。
皮膜センス抵抗SMD
皮膜抵抗は巻線タイプのように厳密な抵抗許容差がないので、大きなTCR(抵抗の温度係数)を持っています。
しかし、それらは低コストであり、最も安定した高周波性能を提供します。
したがって、元の巻線センス抵抗は0.33-Ω SMD厚膜タイプに置き換えられます。
センス抵抗の実際の値を測定しました。
それによって、次の値が得られました。
正確にRsenseSMD = 0.331 Ωです。
Vin = 162 V dcにおける1次側電流とセンス電圧を測定しました(図5)。
次式が得られます。
– Vsense = 0.5919 V
– Iprim = 1.688 A
Rsenseで与えられた1次側電流のイメージを評価すると、次のようになります。
Rsenseで与えられる1次側電流のイメージは、測定した1次側電流に等しくなります。
162Vdcにおける出力電流値は、巻線センス抵抗を使用した場合は443mAではなく487mAです。
結論として、PSR定電流コンバータ用皮膜SMDセンス抵抗(厚膜または薄膜)を使用するのが最良です。
電源の設計者が巻線抵抗を絶対に必要とする場合、出力電流偏差の原因を理解するのに本記事が役立つはずです。
参考資料
出典:『1次側安定化コンバータに巻線センス抵抗を使用すべきか?』オン・セミコンダクター