高付加価値化のカギは自律性から生まれる誇り

高付加価値化のカギは自律性から生まれる誇り

製品や仕事に「誇り」を感じるために必要なものとは何でしょうか?

1. 日系企業のアジア海外工場でも製品の高付加価値化が進む

株式会社松井製作所は、プラスチック射出成形製造現場の合理化を支援する設備を製造販売しています。

金型温度調節機、樹脂乾燥機、材料の樹脂輸送機等。

資本金2億円、連結の従業員数は1100人。

 

大阪の本社と工場に加え、海外に工場が6つあります。海外工場6つのうち、3か所では、素材加工から組み立てまでを手がけています。

全工程を手がけ、高付加価値製品への対応を可能にしているのです。

タイのMATSUI(ASIA)社は、高付加価値品の製造販売をしている海外拠点のひとつです。

スクリーンショット 2017-08-01 14.44.12

MATSUI(ASIA)社では、近年、多様な顧客ニーズへの対応が求められています。

タイの日系企業は、高品質な製品を、タイ国内で、製造しようとしています。

高性能な自動化射出成形設備が必要となってくるのです。

 

したがって、設備単品の供給では、顧客企業の要望に対応できません。

複数の装置を組み合わせた生産システムへの要求が高まってきました。

場合によっては、特注品もあります。

 

そうなると、従来からの仕事のやり方を変えなければいけません。

(出典:『日経ものづくり』2016年2月号)

2. 高付加価値化へのキーワードは“○○”

タイのMATSUI(ASIA)社は、仕事のやり方を変えることを目的にカイゼンを始めています。

第一段階として、5Sを徹底的に実施するところから始めました。

カイゼンそれ自体は、特別に珍しいことではありません。

 

タイのMATSUI(ASIA)社が、仕事のやり方を変えるために、やったことがあります。

カイゼンプロジェクトチーム・リーダー役の現地人化です。

現地のタイ人従業員にプロジェクトリーダーを任せました。

 

それまでは、多くの事例でも見かけるように、日本人がカイゼン方法を考えていました。そして、タイ人がその通りに実行します。

人に言われただけの、自分で考えていないことは、身につきません。

「このやり方では、日本人がタイ人の背中をずっと押し続けなければならない」

(MATSUI〔ASIA〕社 社長二之宮和義氏)

 

これでは、現地の従業員の能力を生かしているとはいえません。

二之宮氏は、多品種の高付加価値品を効率よく造るときに直面する問題を懸念しています。

タイ人による自律的な運営ができるようにならなければ、高付加価値品の生産は難しいのです。

 

そこで、プロジェクトを現地人に任せました。

日本人は後方支援のみ。

現地の自律性を高めるためです。

 

その結果、プロジェクトが自律的に走り続けるようになりました。

さらに、二之宮氏は、「誇り」の重要性を語っています。

 

「例えば、制御部の配線なら、日本国内の工場の作業者ならば単につなぐではなく、いかにきれいに仕上げるかを気にかける。

製品に対しての誇りがあるからだ。誇りを持ってもらってこそ、次の世代にさまざままことが伝わる。

そうでなければ、さまざまな活動が一時的にはうまく行っても、世代が変わったら衰退してしまう」

 

「指示書と添付図面に食い違いがあるとき、日本人の作業者なら必ず確認するだろう」

(出典:『日経ものづくり』2016年2月号)

3. 自律性があって初めて生まれる“誇り”

日本人の現場には志が高い人が多いなぁと感じる機会が多いです。

大きい会社や小さい会社に関わらず、どのような現場にもいわゆるベテランで「頼りになる人」がいます。

多くの現場を経験して感じることです。さらに、工場の状態に関係なく、現場には「頼りになる」べテランが存在しているのも事実です。

 

工場全体の仕組みが上手く機能している現場。工場全体の仕組みに改善の余地が多分にある現場。

そもそも仕組み自体が存在しない現場。現場の仕組みの質の如何にかかわらず、ある一定の割合で現場には必ず頼りになる方がいるものです。

このあたりはとても興味深いです。

 

ですから、中小現場には必ず頼れるベテランがいるという「事実」に注目します。

頼れるベテランの存在を前提として、現場のやる気を引き出す仕組みづくりを進めるのです。

頼れる人財と若手人財を組み合わせます。経営者の力強い右腕となるチーム作りです。現場に「化学反応」を起こせます。

 

ベテランの潜在的な(場合によってはすでに顕在化している)やる気が、若手人財へ波及伝播します。

そうして、現場からやる気が引き出されやすい状況へ至るのです。

頼りになるベテランは、「誇り」を胸に秘めています。現場の目指すべき状態を理解すれば、経営者の想いに共感し、汗をかいてくれるのです。

 

「自律性」が現場のやる気を引き出すことにつながる、と考えています。

さらに、そこから「誇り」を感じてもらえるように導くことです。

工場の存続と成長には付加価値の創出や拡大が欠かせません。

 

そのための具体的な戦略として、

  • 超短納期化
  • マス・カスタマイゼーション

があります。

 

こうした取り組みを、成功させる基盤には、イイモノを造りたいという意識が欠かせません。

つまり、二之宮氏の言う、製品への誇りです。

作業や製品への誇りがあってこそ、良い仕事が進み、成功へ至ります。そのための自律性です。

 

指示のみで、フォローと評価がない他律性の高い現場は、ヤラサレ感がタップリです。

作業自体にしか意識が向かず、落ち度なくやれば十分という考え方が定着してしまいます。

義務感しか存在しない現場へ、付加価値を高めるため生産活動を求めるのは酷です。

スクリーンショット 2017-08-01 14.45.47

どちらの方針が、中小現場を豊かな成長へと導くでしょうか?

現場の自律性を促します。そして、イイモノを造りたいと考えたくなる環境の整備を経営者が行うのです。

「誇り」を感じてもらう機会を増やします。そうした機会を生む仕組みづくりが大切です。

 

現場の自律性を促し、製品や仕事への「誇り」を感じさせる環境整備をしませんか?

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)