連載小説『改善提案名人に挑戦!』第4話トリカエ作戦(6)現状はまだまだベストではない
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第4話 トリカエ作戦
(6)現状はまだまだベストではない
改善は体でやるもの。試行錯誤と実験をくり返してみることが大切だ。
でも、少しばかり頭を使ってナクス・ナガラ・トリカエという改善の基本を利用してみよう。
これだけでかなりの効果が得られる。
上杉君のラインは、なんと1人省人化できてしまった!
つまり、ナガラとトリカエの結果、最終工程で中途半端になっていた作業を他の工程に組み込んでしまったわけだ。
「やったじゃないか、上杉。機械化もしないで省人化できたなんて、工場長賞もんだな」
武田課長も絶賛だ。もちろん悪い気はしない。が、
「いやぁ……実は、あまり苦労したっていう気がしないんです。
つまり、もともと改善すべき点が沢山あったのに、今まで放ったらかだったからじゃないかって思うんですよ。
考えてみれば、ナクス作戦もナガラ作戦もトリカエも、みんな当たり前のことですよね。こんな簡単なことでこれだけの効果が出るなんて、どこか間違ってますよ」
ほんとにそうだろうか?
上杉君のラインは、いわゆる量産型の流れ生産で、一見したところムダがあるようには見えないラインだった。その点でいくと、工程ごとに何個かまとめて作るダンゴ生産や、生産ロットの小さい個別生産型のラインと比べたら、かなり洗練されたラインであるとも言える。
それでも基本に立ち返って見直すとまだまだ改善の余地はあったということだ。
「現状はベターかもしれないが、決してベストではない、ということだね」
「はいそうです」
「いいぞ、そういうふうに考えることが大事だ。上杉も最初の頃と比べてだいぶ変わったな。もうそろそろ、アドバイスされる立場からアドバイスする側に立つ必要があるかもな」
武田課長はこう言いながら、こちらに近づいてくる木下君に目をやった。
「ちょっと待って下さい。まだ、織田課長から基本その4を教えてもらってないんですよ」
「ん? そうか、基本その4ね……」
「んちゃース、すいません。上杉さん、明日また練習あるんスけど、どうします?」
「なんだ、上杉、最近野球やってんのか」
「はっきり言って上杉さん、頭の使いすぎっスよ。だから、たまには汗でもかいてもらって、頭の中整理してもらわなくっちゃ、ね」
「そう、いつもと違うことをすると見方が変わって、簡単なヒントに気付くんですよね」
武田課長、大声で笑い出して、
「それが、基本その4さ」
「え?」
(続く)
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出典:『改善提案名人に挑戦!-だれもがプロジェクトXだった-』面白狩り(おもしろがり)