連載小説『改善提案名人に挑戦!』第4話トリカエ作戦(2)トレードは野球の作戦
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第4話 トリカエ作戦
(2)トレードは野球の作戦
週末の終業近く。外の雨も少し小降りになったようだ。
「んちゃース、先輩。なに困った顔してるんスか?」
木下、お前は気楽でいいよなぁ……。改善提案もアイデアもボンボン出るときは楽しいんだけど、行き詰まると疲れるんだなぁ、これが。
「あんまり悩むと体に毒っスよ。明日は休みだし、たまにはブワッと……」
「酒か?」
「いや、オレ飲めないスから……野球でもやって汗流すといいスよ」
野球ねぇ。野球か……そうだな、たまには改善なんて忘れて体を思い切り動かすか。
「よし、今度いつ試合するんだ?」
「試合は来月からです。でも、もし明日天気なら朝9時からグラウンドで練習するんスけど、良かったら来ませんか?」
「オーケー、明日9時だな。よーし。グローブないけど貸してくれるよな」
「いいスよ。じゃ、待ってますよ」
そして翌朝の上杉君。少し大きめのジャージー姿でグラウンドにやって来た。
「うーん、いい天気だ。梅雨の晴れ間ってやつだな」
「あ、先輩、おはよぉっス。早くこっち来てくださいよぉ」
「おおぅ、今行く」
ベンチのところで木下君が手を振っている。ナインはみんなそろっているみたいだ。
「おはよぉっス」
「おはよぉっス」
「先輩、メンバー紹介しますよ、と言ってもみんな同じ工場のメンバーだから知ってますよね」
違いない、ほんとみんな顔なじみだ。おや、一人見たことない奴がいるぞ。
「あ、こいつですか?こいつは第六工場の蜂須賀です。実はキャッチャーのうまい奴がいなかったんで、トレードしたんですよ」
トレード! トレードだって!
「おはよぉっス。初めまして、蜂須賀です、よろしく」
「あ、ああ、どうも……」
トレードか……トレードね……これだよ、トレードだよ。
上杉君、練習に参加するのも忘れてニヤニヤしだした。
(続く)
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出典:『改善提案名人に挑戦!-だれもがプロジェクトXだった-』面白狩り(おもしろがり)