連載小説『改善提案名人に挑戦!』第3話ナガラ作戦(5)バランス感覚を忘れるな
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第3話 ナガラ作戦
(5)バランス感覚を忘れるな
上杉君の提出した改善提案は、大体のところ採用可の回答が返ってきた。
なにが効を奏しているかというと、改善の効果を金額換算して示していることが大きい。チリツモ作戦で武田課長から学んだアドバイスを忠実に守っているのだ。
それは別に問題ではない。
ただ、チリツモでは一つ一つの改善規模がきわめて小さいために、金額換算してもさほど大きなインパクトにならなかったのが、ナクス作戦やナガラ作戦だと一筋縄ではいかない金額になってきているのは確かだ。
現に改善提案を出し始めて半年になるが、この時点で上杉君の提案による改善金額は年間で200万円を超えている。大したもんだ。……しかし。
「なるほど、ナガラ作戦か。そういえば、そんな提案を出していたな」
「そうですよ、提案用紙にちゃんと課長の印もありますよ」
「どれ、もう一度見せてみろ」
上杉君は提案用紙を手渡した。
「うーむ、そうか、こりゃまずいなあ。オレとしたことが大事なことを見落としていた」
「え、な、なんですか?」
「バランス感覚だよ」
「ばらんすカンカクゥ?」
「そう。それは改善を行う上で決して忘れてはならない感覚なんだ」
ちょっと難しそうな話だ。
「ナガラは良い発想だよ。改善の4つの基本というのがあってな。その1つなんだ」
「あ、それ織田課長に教えてもらいました。まだ、2つまでしか教えてもらってないんですけど」
「そうか、上杉の参謀に生産技術の織田君がついていたのか、はっはっは、それじゃ、よく提案が出てくるはずだ」
「ただな、上杉。4つの基本を使うにしてもだ。その前提として考えておかなければならんことがいくつかあるんだ。バランス感覚はその中でも特に大事なことだな」
基本のそのまたさらに前提なんていうものがあるのか。そんなこと考えてもみなかったなあ。
「上杉はこの提案を出す前にライン全体を眺めてみたか?」
「……いえ、でも1つの工程だけを見てても、いろいろ改善すべき点が出てくるものですから……」
そう。1つの工程、1つの作業をじっと見ているだけで沢山の問題点が見えてくる。そこは改善の宝庫だ。
このように考えることも前提の1つで、この点については上杉君もいつの間にか身に着けているようだ。
(続く)
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出典:『改善提案名人に挑戦!-だれもがプロジェクトXだった-』面白狩り(おもしろがり)