連載小説『改善提案名人に挑戦!』第2話ナクス作戦(5)初心に帰って
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第2話 ナクス作戦
(5)初心に帰って
竹中さんはこのところノイローゼ気味。なにしろ、仕事を教えるたびに「なぜ?」と「ほんと?」の質問攻めなのだ。
でも、クロちゃんは竹中さんを困らせようとして質問しているわけでは決してないんです。
早くみんなと同じように一人前になろうと一生懸命なんです。だから、わからないことやおかしいなと感じたことは、なんでも聞いているんだな。
しかしついに、竹中さんは耐え切れなくなってリーダーの上杉君のところに相談にきた。
「わたし、もうガマンできません。こんな調子では、きちんと仕事ができません」
「うーん……いや、実はボクもあの子の『なぜ・ほんと』には参っていたんだ、ただ……」
上杉君、ちょっと間をあけたあとは説得口調だ。表情だけは一人前のリーダーになってきたぞ。
「竹中さんも一年前のことを思い出してほしいんだ。右も左もわからないままラインに配属されて、きっと困ったんじゃない?」
「もちろん困りました。困りましたけど、質問して先輩の仕事に文句を言うなんて失礼です。私はクロちゃんみたいに仕事のじゃまになるほどの質問なんてしませんでしたよ。先輩の動きをまねしながら自然に仕事を覚えていったんです」
「ボクもそうだったんだ。なぜだろうと思ったことでも黙って先輩の言う通りにやっていたんだ。そして仕事に慣れるにつれてそう思うことも少なくなってきた。でも、それは問題がホントになくなったからかなぁ」
「……」
「だって、黒田さんの『なぜ・ほんと』はかなり痛いところを突いてくるだろう? 僕らが気が付かない問題がやっぱりあるんだよ。いや、ほんとは気が付いているのに無意識に忘れよう、無視しようとしているんだ。だから、竹中さんも黒田さんの質問をむげにしないで、一緒になって考えてみたらどうだろうか」
しかし、竹中さんは不満顔。
「そんなこと言ったって……そんなこと絶対ムリです。そんなことしてたら製品を作れなくなってしまいます」
「……ははは、そ、そうなんだよなぁ。いちいち黒田さんに付き合っていたら、時間がいくらあっても足りないからなぁ。そこが困ったところなんだよなぁ・・・わかった、彼女には質問もほどほどにしなさいと言っておくよ」
あー、あっさり引き下がっちゃった。まだまだ上杉君はわかっていないようだ。
(続く)
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出典:『改善提案名人に挑戦!-だれもがプロジェクトXだった-』面白狩り(おもしろがり)