試行錯誤でコア技術を深耕・強化させる

試行錯誤でコア技術を深耕・強化させる

丸腰で荒波を航海するようなやりかたをしていませんか?

1.試行錯誤

儲かる工場のしくみづくりは「試行錯誤」を促すしくみでもあると感じています。

コア技術の深耕と強化では、特に欠かせない論点です。

 

生産プロセス開発の管理者を担っていた頃の話です。

 

従来にはない構造のプレス機を開発し、現場へ導入することになりました。

目指す製品が出来上るプロセスを新たに考案しなければなりません。

当時、すでにCAE(コンピューターシミュレーション)が導入されていたので、それを活用することにしました。

 

そこで、構造解析、熱解析などの事前検討ツールを活用して、最適プロセスを実現する設備を検討するところから開始です。

現場リーダー、現場管理者、現場技術者、設備設計者など関係者が知恵を出し合って、新たなプロセスの技術要件を決めていきました。

 

技術要件がそろったところで、各種CAEを実施、計算上の最適なプロセスが仕上がりました。

それをもとに、設備を設計し、試作機をつくりあげます。

多くの仲間と休日も返上しながら議論を重ね、解析ツールを活用し、1年以上の時間をかけてきた取り組みの成果です。

試作機完成後、そこそこの自信を持って、トライアルへ移行しました。

 

ある程度の困難には直面するかもしれないけども、それほどの時間を要することなく、量産可能な水準にまでもっていけるのではと目論んだのですが……。

 

今振り返ると、そこから本当の苦労が始まりました。

試作をする度に、想定していなかった不具合があまた発生したのです。

さらには、メンテナンス容易性の検討が不十分だったことも判明しました。

発生している不具合を列記し、それらをひとつひとつ、地道に潰していくことになります。

 

問題解決を見通せず、かなりキツイかった時期もありました。

“技術課題”という荒波が、次から次へと押し寄せ、荒れに荒れまくっている大海原を航海しているような感じです。

混沌とした状況の中、右へ行き、左へ行き、またあるときは迷い、試行錯誤しながら、最適解を見つけていきました。

プロセスの肝となる部分は、10数回もの改良を重ねたことを覚えています。

 

幸いに、上司や仲間に恵まれ、この仕事をやり切ることができ、無事、量産へ移行できました。

試行錯誤。

このプロジェクトが成功したカギは、この試行錯誤にありました。

2.試行錯誤とは羅針盤を携えて荒波の大海原を航海すること

当時の職場には、試行錯誤を促す雰囲気やしくみがあったのです。

試行錯誤のおかげで現場も含めて、コア技術の水準が上がりました。

問題に直面したとき、複数の解決策を考えますが、最終的には、効果が認められた解決策を選択して、次へ進みます。

 

直面した問題の技術水準に応じて、

・解決策の選択肢を複数あげられること。

・選択肢の実施結果を評価できること。

 

選択作業を重ねることで、最適解が蓄積され、コア技術が深耕・強化されるのです。

 

プロジェクトをやり切れた背景には、試行錯誤を可能にするしくみがありました。

加え、このプロジェクトには大きな目的がありました。

部門長をはじめ、現場の隅々にまで、それが浸透していたので、これは絶対に成功させなければ生き残れないとの一体感があったのです。

 

試行錯誤は、右往左往とは異なります。

試行錯誤とは、羅針盤を携えて荒波の大海原を航海することです。

 

・解決策の選択肢を複数あげられること。

・選択肢の実施結果を評価できること。

 

選択肢を生かし、選択を蓄積する仕組みが羅針盤となります。

 

一方で、右往左往とは、丸腰のまま、勢いだけで荒波を乗り越えようとすることです。

 

先日、書籍で生物の進化について説明した記述を目にしました。

 

生物の進化は自然淘汰によって、つまり「選択の繰り返し」によって起きるとの主張があります。

適応力の強い個体が生き残って子孫を残すと、その中から突然変異によってさらに強みを得た個体が生まれ、その後次々と世代を重ねて進化が進むと言うのです。

生物学の世界でも、進化には選択の繰り返しが必要だとの考え方があるようです。

生物は「強い種」ではなく、「変化に適応できる種」が進化の過程で残っていくというのは有名な話ですが、言い換えると、試行錯誤ができる種が生き残るということではないでしょうか?

 

私たち、中小製造現場は技術の世界で戦っています。

したがって、コア技術の進化が企業の命脈を左右することに異論を差し挟む経営者はいないでしょう。

5年先、10年先を見通して、豊かな成長を目指すなら、現場に働きかけ、試行錯誤を促し、コア技術の継続的な進化を実現させたいのです。

 

中小製造現場の強みは、柔軟性、機動性、小回り性にあります。

そもそも、中小製造現場は、試行錯誤がしやすい環境にあるのです。

 

試行錯誤を促すしくみをつくりませんか?

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製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)