設備チョコ停・故障管理表で設備のクセと今を知る

設備チョコ停・故障管理表で設備のクセと今を知る

設備のチョコ停やトラブル(故障)の履歴と対応策の管理表を生かして、生産設備のクセと今を把握する、という話です。

1.「問題を未然に防ぐ」工場経営と設備点検管理

設備点検管理は「問題を未然に防ぐ」工場経営で重要な位置を占めています。

設備点検管理の目指すべき姿は予防保全です。

これが実践できる工場は強いです。

 

予防保全は自社工場の設備的に弱い部分を管理することに他なりません。

ですから、その部分が不幸にしてトラぶっても、そもそも「管理下」にあるわけで、収益への影響度を最小化できます。

想定外を最小化する管理手段とも言えます。

 

そこで問題が発生するリスクが高い項目では「変化」をとらえる定量的な点検が必要です。

2.問題が発生するリスクが高い項目とは

問題が発生するリスクが高い項目とは、つまり「設備的に弱い」部分のことです。

こうした箇所が発生する理由は2つあります。

 

1)原材料に価値を加える肝心な箇所であり酷使される箇所だから。

2)予測できない設計上の不具合箇所だったから。

 

当たり前ですが、設備は目的を持って稼働させます。

目的とは原材料に何らかの価値を加える(転写する)ことです。

そして、価値を加えるために、その設備は肝心な箇所を酷使します。

 

設備の性能・能力を最大限に活用し投資したお金の効率を上げようと考えるならば当然のことです。

場合によっては、設備能力120%目いっぱい状態で稼働させることも珍しくないのではないでしょうか?

上記の1)項は、こうした理由のため、“普通に”あり得る状態です。

 

このような稼働を継続した際に、起こりうるトラブルは? と考えて、肝心な箇所を洗い出します。

例えば、所定の硬度を確保するための連続熱処理炉を想定します。

入口側からワークが投入され、出口側から順にワークが出てきます。

 

すると下記のような箇所が「価値を加えるために酷使」されるとします。

・開閉のため高温雰囲気と外気にさらされる入口、出口の扉

(扉自体の変形によって、開閉動作がトラぶったり、本体とのシール性の劣化で所定の温度が保てなかったり)

 

・ワーク搬送用のチェーン

(投入するワーク重量を上限目いっぱいにして搬送続けることで摩耗、変形が予想より早く起きたり)

 

・焼き入れ用バスケット

(焼き入れのためにワークを抱いて水焼き入れする場合、ワークのみならずワークを抱いているバスケットも歪み、それが蓄積されトラぶったり)

 

・ヒーター本体

(通電しっぱなしなら、それほど劣化はしないが、土日休み24時間連続操業職場や8時間稼働職場のため、週1回あるいは毎日、ヒーターの温度を上げたり下げたりする使い方で、ヒーターの劣化が予想より早く起きたり)

等々。

 

つまり、その設備の肝心な箇所をレビューすることになります。

設備の重要管理ポイントを関係者で共有するための重要な作業でもあります。

製造プロセスに対する深い理解がなければできない作業です。

 

モノづくりの知識と経験が生かされる大切な作業です。

また、予測できない設計上の不具合箇所も、意外と出てきます。

上記の2)のケースです。

 

例えば、熱処理炉で考えた場合、所定の温度に上昇するまでの所要時間が、仕様よりも長かったようなケースです。

原因として雰囲気の炉内撹拌や炉壁の断熱材厚さが設計時に設定した数値では不十分だったことが考えられ、こうした事態は現実に起こり得ます。

対策のためには、使う側として状況を可能な限り定量的に設備メーカーへ説明することが大切であり、それを基に設備に修正を入れることになります。

 

設計上の不具合が影響して変化する計測値(先の事例では昇温時間)を継続して採取する仕組みも必要です。

設備投資して導入する設備の仕様が“挑戦的”であったり、その設備メーカーにとって“初物”であったりすると、2)項が意外と発生します。

無視していても設備自体は稼働する項目もあるので、その場合、おざなりになりがちですが、使う側としてはしっかりフォローしたい項目です。

 

設備点検管理で挙げた点検項目が、その設備にとっての問題が発生するリスクが高い項目であり、点検する上での重要ポイントです。

3.設備トラブルからその設備のクセを知り勘所を探る

設備点検管理で挙げた点検項目がその設備の重要ポイントであり、設備的に「弱い」と考えた箇所です。

ですから、予測されるトラブルへの事前対応は可能な限りしておくべきです。

予備のヒーター、チェーン、その他。

 

さらに設備を効率よく稼働させるにはその設備のクセを把握することが欠かせません。

人間同士の付き合いにも通じます。

同じ仕様の設備を1号機、2号機と称し現場で稼働させていることも多いと思います。

 

ただ、仕様が同じなのに、稼働時の振る舞いには差が発生することがしばしば。

設備の“個性”を把握するために役に立つのが、設備のチョコ停やトラブル(故障)の履歴と対応策の管理表です。

実際に発生したトラブルとそれへの対応を継続的に把握することが目的です。

 

現場の管理者は現状復帰するのに数分しかかからないチョコ停も全て把握する必要があります。

そのために、チョコ停の定義を管理者が現場へ提示します。

大きなトラブル(故障)は現場でも容易に認識されますが、チョコ停は、場合によっては、それ自体トラブルや停止と認識されていない場合もあるからです。

 

「トラブルは小さい芽のうちに摘みとれ」と言われますが、チョコ停などはその最たるものでしょう。

大きなトラブルやチョコ停の発生履歴とそれへの対応策を見える化することで、その設備の個性(弱いトコロ)が把握できます。

現場でも設備のクセを知ることで知恵を発揮することが可能です。

 

生産実績はしっかり集計している一方で、トラブルや故障といった負の情報はおざなりにされている場合が間々あります。

設備の場合、こうした負の情報にこそ、勘所が含まれています。

トラブル(故障)やチョコ停の原因は何? と探ろうとするはずだからです。

 

結果として、設備のハード面、ソフト面の理解を深めます。

設備の仕様を理解する場合、トラブル(故障)やチョコ停を活用します。

問題を解消しようにも設備の仕様を把握していないと手も足も出ないからです。

 

設備の仕様を理解し設備のクセを知ることで、知恵を使うことが可能な環境が整います。

設備のクセを現場は感覚的に把握していることが多いです。

その感覚的な把握を、確実な理解へ導いて、工夫する環境を整備します。

 

したがって現場で知恵を発揮してもらうには、状況を定量的に説明することが必要です。

a)2号機の方が1号機よりもワークつまりの頻度が多い。

b)ワークつまりが1号機は平均1回/日発生しているのに対し、2号機は平均10回/日発生しており、なぜだか、2号機のワークつまりは、稼働立上げ後の1時間以内に、集中している。

 

カイゼンを進めるにあたって、b)のように説明された現場の方が、当然、知恵をより上手く働かせることが可能でしょう。

仕事全般に言えますが、あらゆる取り組みは“今”を把握するところから始まります。

“今”という状況を把握せずに取り組みを進めても、当を得ていない取り組みになるリスクが高く、取り組みの成果を評価することもできません。

 

モノづくり工場にとって動かしてナンボである生産設備のトラブルやチョコ停の情報は“負の情報”というイメージなのか、管理者も、現場も整理していないケースが見られます。

しかしながら、カイゼンを推進しようと考えるならば、必ずなければならない情報であることにも気が付くべきです。

カイゼンの焦点をどこに当てるべきか明確にするためでもあります。

 

こうした情報がしっかりと蓄積されていることで、設備のクセを把握でき、トラブルを回避する知恵を発揮しやすくなり、その結果、高い稼働率が収益へつながっていきます。

設備のチョコ停やトラブル(故障)の履歴と対応策の管理表を生かして、生産設備のクセを把握し、工場独自の効率的な設備管理方法を構築します。

まとめ。

設備のチョコ停やトラブル(故障)の履歴と対応策の管理表を生かして、生産設備のクセと今を把握する。

 

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所

 


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)