解析よもやま話「高張力鋼で剛性向上?」
※解析よもやま話はAltairの提供でお届けいたします。
こんにちは、Altairの中川です。
皆さんゴールデンウィークは楽しまれましたでしょうか。
私は混んでいるところが嫌いなので、本を読んだりジョギングやサイクリングをしたりと、自宅周辺でのんびりしていました。そこで自動車雑誌を読んでいたら、相変わらずな間違った表現が使われており気になったのでちょっと一言。
それは「高張力鋼板の使用量を増やして車体剛性を従来型より30%向上した」というような内容です。
自動車メーカーの人は分かっているのでこんなことは言わないはずですが、分かっていない雑誌編集者が勝手に解釈して書いたのでしょう。
高張力鋼も普通の軟鋼もヤング率(材料の剛性を表す数値)は変わらないので、材料を変更しただけでは車体剛性は変わりません。
剛性が向上したのは構造を工夫したからです。ではなぜ高張力鋼を使うかというと、それは衝突安全性のためです。
高張力鋼は軟鋼と比較して降伏応力が高い(永久変形し始める荷重が大きい)のが特長です。
例えば側面衝突の時には車体側面と乗員の間の距離が短いので、車体が大変形するとすぐに乗員とぶつかってしまい大きな傷害を受けることになります。
そこでセンターピラー(車体中央を上下につなぐ部材)周辺の部材が大変形しにくいようにしたいわけですが、軟鋼を使用すると板厚を厚くする必要があり重くなってしまいます。
高張力鋼を使用して薄い板厚のまま大変形を防ぐような設計としているわけです。
「高張力鋼板を使用して、重量増加を抑えながら衝突安全性を向上した」が正しい表現で、高張力鋼は剛性向上とは関係ないのです。
学生フォーミュラに取り組んでいる皆さんには当たり前の内容だったかもしれませんが、以前から自動車雑誌や新聞の記事で気になっていたので書かせていただきました。
※2015年5月に書かれた記事です。