解析よもやま話「線形か非線形か」
※解析よもやま話はAltairの提供でお届けいたします。
今日は、アルテアの中川です。
今回は最近経験した「線形解析と非線形解析をどこで切り分けるべきか」、というテーマで記させていただきます。
CAEによる構造解析の分野では、線形解析と非線形解析という分類がよく使われます。
線形というのは、負荷した荷重と変形量や変形形状が比例関係にある、ということです。
非線形はさらに材料非線形と幾何学的非線形に分けることができます。
材料非線形は、負荷した荷重と変形量が比例関係ではないことです。
鉄の場合であれば荷重が小さいうちは荷重と変形量は比例していますが、荷重をさらに増加させていくと塑性変形して比例関係が崩れ、非線形になります。
幾何学的非線形は、負荷した荷重と変形の仕方が比例関係ではないことです。
例えば円断面の軸をねじった場合、線形解析では節点は全て接線方向へ動きます。
荷重がごく小さければこの近似で充分ですが、荷重を大きくすると変位方向は荷重が小さい時と同じ接線方向のままで変位量だけが大きくなるので、ねじれながら軸が太くなってしまい下の図のように現実とは異なってきます。
解析対象となる実際の現象はほとんどが何かしらの非線形性を持っているので、厳密に再現しようとしたら全て非線形解析が必要になります。
しかし非線形解析は繰り返し計算が必要になるので、線形解析とは桁違いに時間がかかり非現実的です。
そこで荷重や変形量が小さい現象は線形と仮定して解析を行うのが普通です。
では、どれ位荷重や変形量が小さければ線形と言えるのでしょうか。
材料が弾性範囲で、全体寸法に対する変形量が充分小さい、ということをある程度主観を交えて判断することになりますが意外と盲点があります。
OptiStructを用いて単純なモデルで検討した例をお見せしたいと思います。
右図は200mm角で板厚0.5mmのスチール製正方形板の周囲を完全拘束して全面に圧力を負荷した場合です。
応力は弾性範囲内ですし、中心点の変位量は数mmなので線形解析で良さそうな気がしますが、線形解析の変位量は8.4mmで非線形解析の1.4mmと比べて6倍も大きくなってしまいました。
これは線形解析が間違っている訳ではなく、この問題は幾何学的非線形性が非常に強いということです。
荷重-変位グラフを見ると分かるように、荷重が小さくて変位量が0.2mm程度になるくらいまでは線形解析と非線形解析は一致しています。
しかし、その後線形解析だと直線として変位が増加するのに対して非線形解析では傾きが2.png急に小さくなって大きな違いが生じてしまいます。
これは初期状態ではシェルの曲げ剛性だけで全体剛性が決まるため剛性が低く算出されるのですが、変形が増加するとシェルの面内の単純引張成分が主体になってくるため、これを考慮できる非線形解析では変位が抑制され、初期の曲げ剛性だけで計算している線形解析では変位が大きく計算された、ということになります。
ビードを追加すると曲げ剛性が高くなるので、線形解析で1.1mmに対して非線形解析は0.8mmと両者の差は縮小します。
これは非常に単純な例ですが、車体の床面や燃料タンクの剛性を解析する時にも同じようなことが起こります。
線形か非線形かは計算結果に大きな違いをもたらす場合がありますので、どういう現象が起こっているのかよく考えながら解析を進めていくことが重要です。
※今回の線形・非線形解析に使用されている製品はOptiStructです。