製造業労働生産性の国際比較

製造業労働生産性の国際比較

1.「労働生産性の国際比較2019」

日本生産性本部では毎年12月にOECDや世界銀行などのデータに基づいて世界各国の労働生産性を公表しています。2020年12月に「労働生産性の国際比較2019」が公表されました。

●2019年日本の時間当たり労働生産性は47.9ドル。OECD加盟37カ国中21位。
2018年22位、2017年21位、2016年20位、2015年20位、2014年20位。時間当たり労働生産性は1970年代から順位では20位前後で推移しています。

GDPの規模は小さくないのにもかかわらず、時間当たりの労働生産性はずっと低いままということです。2019年トップはアイルランドの108.2ドル、2位はルクセンブルクの107.4ドル。米国は8位で77.0ドル。日本はトップ水準の半分以下、米国の6割程度になっています。

●2019年国内の製造業労働生産性は98,795 ドル。OECD加盟主要31カ国中16位。
2018年16位、2017年14位、2016年15位、2015年16位、2014年15位。直近は15位前後で推移しています。

1990年代~2010年代前半までは上位常連国でした。1995年1位、2000年1位、2005年9位、2010位11位です。2000年になってから他国に抜かれ始めました。

2019年トップはアイルランドの542,457ドル、2位はスイスの196,108、3位はデンマークの151,410ドル。

アイルランドが突出しているのは政策上の理由です。1990年代後半から法人税率を低く設定しています。その結果、グローバル企業の欧州本部や本社機能を誘致することに成功しました。

欧州であげられた利益が本社に計上されます。本社の従業員数は現場程には多くないので、高い労働生産性水準を達成しています。製造業の間接業務で稼いでいる国ということです。

スイスにはご存じのように時計に代表される精密機械や、医薬品、食品などのグローバル企業があります。時計を生産するロレックスや医薬品産業のノバルティス、食品産業のネスレ 、エンジニアリングのアセア・ブラウン・ボベリ (ABB)等のグローバル企業です。

高い付加価値の源泉となるブランドや、高度な知識・技術が国に蓄積されています。スイスにはこうした企業を中心とする産業クラスターを軸とした経済構造が構築され高い労働生産性水準につながっているのです。

デンマークは、労働者の質は高く、補聴器や高級オーディオ、風力発電機などのニッチで高付加価値な領域で高い競争力を持っています。労働生産性が高くなる背景です。

さらに国家戦略として情報通信技術(ICT)やバイオテクノロジー、医療機器などの知識集約型産業を政策的にサポートいています。これも労働生産性を高める一因です。
(出典:「労働生産性の国際比較2019」日本生産性本部)

 

2.人時生産性を高める骨太モノづくり戦略

国内製造業の労働生産性が1990年代~2010年代前半までは上位常連国であったことを憶えておきたいです。今は15位前後に甘んじているわけですが……。

グローバルに儲ける構造が変わったということではないでしょうか?効率優先のモノづくりだけでは労働生産性向上も限界です。

トップのアイルランドは政策上の事情ですが、スイスとデンマークは付加価値額生産性を高める王道を歩んでいます。ブランド、技術、知識で付加価値額を積み上げています。

コスト削減、ムダ取り、分母の削減だけでは、この水準にまで高められません。

中小製造企業で利益アップ、給料アップを目指すには人時生産性向上しかありません。分母の削減も大切ですが、それ以上に重要なのは分子を積み上げる観点です。

納期遵守だけではもはや儲かりません。現場には競合と同じ事をやっていても儲からないことを教えます。人時生産性を3,000円、4,000円、5,000円、6,000円……と向上させるのです。

大手製造企業の中央値は6,000円台ですから、まずはこの水準を目指したいのです。

具体課題は「スイス」、「デンマーク」スタイルのイイどこ取り。ブランド、技術、知識で付加価値額を積み上げたいのです。コア技術を活かします。貴社独自の人時生産性を高める骨太モノづくり戦略です。

 


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)