製造業にお奨めしたい『付加価値額』による業績評価

製造業にお奨めしたい『付加価値額』による業績評価

皆様の会社では、業績評価においてどのような指標を重視されているでしょうか?売上高でしょうか?粗利(売上総利益)でしょうか?それとも営業利益でしょうか?いずれも正しく経年比較すべき重要な指標です。

ところで、『付加価値額』という指標をご存じでしょうか?損益計算書に記載されているわけではなく、ご存じない方も多いのではないでしょうか。ご存じだという方は、ものづくり補助金や事業再構築補助金などの申請もしくは検討をされたことがあるのではないかと思います。そうです、その『付加価値額』です。

今回は、「製造業にお奨めしたい『付加価値額』による業績評価」のポイントをお伝えしたいと思います。

 目次

1.補助金申請時に問われる『付加価値額』とは?
2.営業利益での業績評価と何が異なるのか?
3.『付加価値額』による業績評価のすすめ
4.まとめ

1.補助金申請時に問われる『付加価値額』とは?

ものづくり補助金や事業再構築補助金の申請に際しては、複数の申請要件を満たす必要がありますが 、とりわけ『付加価値額』の増加を達成する事業計画を策定することが求められます。

補助金申請時に問われる『付加価値額』を図示すると、下図のようになります。

簡単にいうと、人件費と減価償却費を差し引く前の利益額とお考えください。

2.営業利益での業績評価と何が異なるのか?

ではなぜ、損益計算書を見れば把握できる『営業利益』ではなく、少し計算の手間を要する『付加価値額』での業績評価が求められるのでしょうか?

ご存じのとおり、営業利益を算出する過程で人件費や減価償却費は差し引かれます。人件費は、従業員が増えれば一人当たり数百万円の費用増となり、減価償却費は、最新設備に更新するとやはり一機あたり数百万円の費用増となります。補助金を活用しての雇用も設備投資も、ともに会社の成長には欠かせない重要な投資なのに、 投資の効果(売上増・粗利増)が現れてくるまでは一時的には営業利益が悪化することが予想されます

補助金は、それを原資として積極的な雇用や設備投資が行われることを期待されているものです。しかし、『営業利益』を補助金事業報告の達成目標に用いてしまうと、上記の理由から積極的な雇用・設備投資を躊躇してしまうかもしれません。そのため、人件費と減価償却費の影響を排除した利益額である『付加価値額』が用いられるのです。

3.『付加価値額』による業績評価のすすめ

私は、通常行う財務諸表分析においても、この『付加価値額』による業績評価を併用しています。製造業の皆様がどれだけの新たな付加価値(利益の源泉)を生み出しているかを把握することができる指標だからです。

ある会社は、積極的な雇用・設備投資により年々『人件費』『減価償却費』が増加していました。その影響で、この会社の営業利益はここ数年減少傾向にありました。営業利益だけを見ておられた同社社長は、「業績は悪化しているのでは?」と戸惑われていました。

しかし、人件費と減価償却費の影響を排除した利益額である『付加価値額』は、営業利益とは逆に年々増加していました。つまり、積極的な投資の効果により、新たな付加価値を生み出す力は向上していたということです。

併せて、『付加価値額』を従業員数(正社員は1名、パート社員は0.*名換算)で除した『労働生産性(従業員一人あたり付加価値額)』にも着目することで、付加価値総額だけでなく質的(従業員一人あたり)にも付加価値を生み出す力が向上していることが把握できました

この結果を確認された同社社長は、「積極的な雇用・設備投資の判断は間違っていなかった」と自信を持たれていました。

4.まとめ

自社の正しい業績評価においては、売上高・粗利(売上総利益)・営業利益などの複数の指標を経年比較し、その変化の原因を分析することが重要です。

その業績評価指標に、ぜひ本日お伝えした 『付加価値額』『従業員一人あたり付加価値額』を加えてみてください。

 

氏名:田中 玄音(タナカ クロネ)
所属:(株)テクノア TECHS事業部 ソリューションサービス部


2022年 テクノア入社
2020年 中小企業診断士登録
熊本県立大学 大学院(専攻:企業会計)修了


制御系SE、学校法人(専門学校教員・経営部門)勤務を経て、中小企業診断士としてテクノアに入社しました。
管理会計のしくみ作りや、経営効率化のためのIT活用を得意としています。
財務分析を起点に、お客様の経営課題の解決を支援いたします。


株式会社テクノアは、出荷本数4000社を超える国内トップシェアの中小企業向け生産管理システム『TECHSシリーズ』を開発・販売しているソフトウェア開発企業です。「外洋帆船経営」を標榜し、情報技術【IT文明】の進歩を先取して『人々がより人間らしい、ゆとりと生きがいがある生活』を実現するため、独創的なソフトウェアと付帯サービス【ソフト文化】の開発と提供を通じて社会貢献します。