製造業での商売繁盛のキモは今も昔も○○視点だった
昨今、市場は成熟化を迎えているが、モノづくりの本質は今も昔も変わらず価値をお客様に届けることにあると考え知恵を絞り続ける、という話です。
1. モノを造れば売れる時代は過ぎ去り今は成熟化の時代
価格比較サイトを運営する株式会社カカクコムの田中実社長は、消費者の価格志向は2極化しており、今はこだわり消費の時代であることを指摘しています。
そして、明星大学の関満博教授は、1985年〜1992年を境にして製造業の現場は劇的に変化し、製造業の現場が直面する外部環境としてグローバル化、成熟化、人口減少、少子高齢化の4つを指摘されています。
また、製造業の現場の変化を下記のように表現されています。
「一つ前の時代の“現場”では、まだ若い経営者は顔を真っ赤にして“未来”を語ってくれたが、92年以降は“未来”を語る経営者に出会うことは少ない。
一つ前の時代の人々は若く、豊かさに向けて拡大を信じ、目標を米国と見定めて必死に向かっていった。
“身体の汗”の量が成功につながった。
当時を振り返って、成功した70歳代の中小企業経営者は『あのころは頑張れば誰でも成功できた』と語っている。
“頑張る”“身体に汗”が基本の単純な“一元一次方程式”の時代であった。
(出典:『日経新聞』2016年2月18日)
昨今は市場も複雑化し、顧客のニーズも多様化しているので、需要を見極めるのも工夫が必要です。
平成バブル崩壊後、従来のやり方で頑張って長い時間汗をかいても、成功するとは限りません。
今後は直面する外部環境の変化へ対応するには知恵が必要です。モノを造れば売れる時代は過ぎ去り、今は成熟化の時代です。
2. 昔はずーっとイイ時代だったのか
「モノを造れば売れる時代は過ぎ去り、今は成熟化の時代である」
平成バブル崩壊以降の市場を言い表しています。
事実、国内総生産(GDP)の推移を見ると1990年前後を境にその変化率(成長率)は明らかに低下しています。傾きが小さくなっているのがハッキリと見て取れます。
今後は、解くべき多次元方程式を自ら造り上げ、知恵で市場を、顧客を創出する姿勢こそが、付加価値を拡大させ存続と成長につながります。
従来と同じことを、同じようにやっている企業には市場から退場宣告が出される時代であり、モノづくり工場も大変に厳しい時代を迎えたと言えます。
現在、こうした状況にあることは間違いありません。
では、それ以前は、イイ時代だったのでしょうか?
1990年以前は、戦後ずーっとバラ色の時代が続いて、モノづくり企業も皆、安泰だったのでしょうか?
決してそんなことはありませんでした。
特に1970年代の石油危機では世界的な経済混乱があり多くの企業が文字通り存続の危機にさらされました。
国内ではトイレットペーパー騒動に象徴される物資の買い占め騒動も多発しました。
こうした出来事を境に、モノづくりの考え方を変えるべきであるとの提言は多数ありました。
『トヨタ生産方式』を著した大野耐一氏は、まえがきで次のように述べています。
「私どものトヨタ生産方式が注目され出したのは、昭和48年秋のオイル・ショックがきっかけでした。
その後の低成長経済のなかでトヨタ自工の業績が他に比べて相対的によく不況に対する抵抗力が強いことが改めて認識されたからだと思います。
トヨタ生産方式なるものは、戦後、日本の自動車工業が背負った宿命、つまり多品種少量生産という市場の制約の中から生まれてきたものです。
欧米ですでに確立していた自動車工業の大量生産に対抗し、生き残るため、永年にわたって試行錯誤をくりかえしたすえに、なんとか目途のついた生産方式ならびに生産管理方式です」
(出典:『トヨタ生産方式』大野耐一)
石油危機以降の時代を、すでに「低成長時代」と認識していました。
さらにトヨタ生産方式を生み出すアイデアは、戦争が終わって自動車産業を本格的に国内で立上げようとしていた時点にすでにあったことにも驚きます。
大野氏は優れた経営者としてのセンスを持っていた。欧米の大量生産とは異なる、多品種少量を標榜して工場でのモノづくりを進めた先見性はスゴイです。
大野氏の『トヨタ生産方式』が出版されたのは1978年です。
当時の実質GDPは250兆円程度です。今の半分以下の時代です。
その時代に出版された『トヨタ生産方式』の副題が「脱規模の経営をめざして」です。
こうした先輩経営者の方々が積み重ねた努力が、今の2兆円を超える利益に結実しています。
トヨタはモノづくりの王道を進んでいます。
さて、『カイゼン』を著した今井正明氏は石油危機前後の状況を次のように説明しています。
「石油危機に先立つ20年前間、世界経済は未曾有の成長を享受し、テクノロジーと新製品に対する飽くなき需要を経験した。(中略)……急成長と高利益をベースに成功をおさめた。
成功したのは以下の状況が存在したからである。
- 急速に拡大する市場
- 質より量を志向しうる消費者
- 豊富で安価な資源
- 伝統的事業の業績不振は革新的製品の相殺で切るという信念
- コスト削減よりは売り上げの増大に関心を寄せる経営者
こうした時代は、すでに過去のものとなった。
1970年代の石油危機は、国際的なビジネス環境を大きく、かつ後戻りできないまでに一変させた。
この新しい状況を特色づけるのは、次のような点である。
- 原材料、エネルギー、労働各コストの急激な上昇
- 生産設備の過剰能力
- 飽和した市場もしくは縮小する市場での、企業間競争の激化
- 消費者の価値観の変化と、より厳しい品質に対する要求
- 新製品をより早く開発する必然性
- 損益分岐点を引き下げる必要性」
(出典:『カイゼン』今井正明)
『カイゼン』が出版されたのは1986年です。
この時点で、すでに上記のような見解を示されていた。
今井氏が1970年代の石油危機以降の状況を特徴づける点としてあげた6点全て、「今」にも当てはまります。
まさに「今」は、そうした時代なので、モノづくり工場も仕事のやり方を変えねばならないと認識しているわけですが、実は昔も事情はオナジダッタ……。
当時と今を比べると、技術水準を始め、さまざまな状況で差があるので、当然、当時と今と同様に解釈ができないトコロはあります。
しかしながら、直面している外部環境の変化項目に多くの共通点が見られるのはとても興味深いです。
3. モノづくりはタイヘンだけどヤリガイがある
今は成熟時代であるとの認識がある一方で、『トヨタ生産方式』の生みの親である大野氏は石油危機が起きた1970年代時点で低成長時代であるとの認識を示していました。
さらに、戦後直後から自動車産業は「少量多品種」であるとの考えも持っていました。
また、『カイゼン』の今井氏は、石油危機当時に、「今」にも全く通じる企業が以後迫られるとした経営環境を挙げていました。
両氏に共通するのは顧客視点です。
ですから戦後の日本では今も昔もモノづくりの本質は同じであったと考えます。
資源に乏しい日本です。顧客視点での付加価値の高い、質を問う製品開発が欠かせなかった。そのためには独自性が重要であった。
たしかに、売れているモノを基準に同様な製品を造って儲かる時期もあった。
しかし、そうした量を追うモノづくりのみに始終していた企業は存続できなかった。
景気の良い悪いにかかわらず消えていく企業もあれば、繁栄を続ける企業も存在しているのが証左です。
つまり、製造業は自らの手で付加価値を生み出す機会が多いのが、小売業やサービス業と異なるところであり、知恵を使って付加価値を生み出すことに意義を感じる仕事です。
お客様が望んでいる価値をお客様のところへ届けてこそ意義のある仕事。
モノづくりで商売を繁栄させようとするならば、顧客視点は絶対に欠かせない。結局、顧客視点、消費者視点、お客様視点につきます。
これは今も昔も変わっていません。
つまり、今も昔もモノづくりのキモは変わっていない、と考えます。
モノづくりは昔からタイヘンですがヤリガイのある仕事。
当然のように知恵を絞り続けます。
お客様の声に耳を傾けながら。
まとめ
昨今、市場は成熟化を迎えているが、モノづくりの本質は今も昔も変わらず価値をお客様に届けることにあると考え知恵を絞り続ける。