被害を最小化するトヨタの観点
自然災害や事故など予期せぬトラブルへの対応法がありますか?
1.原則的には起こさないことを考える
自然災害や事故など予期せぬトラブルへは、未然に防ぐ発想で対応します。
トラブルが起きてから、モグラたたきのごとくに、都度、対処療法で乗り切るやり方を続けていては現場が疲弊するからです。
コトが起きる前に手を打つ仕事で、創造性が発揮されます。
少ない経営資源から最高のパフォーマンスを引き出そうとするならば、そうした考え方が欠かせません。
事後対応ではなく、事前対応へ仕事のやり方を変えるのです。
さて、トラブルで被る被害の大きさはリスク評価額で表現できます。
リスク評価額=予想損失額×事故発生確率
予想される損失額と発生確率の掛け算です。
損失額が、大きいときと小さいとき。確率が、大きいときと小さいとき。
したがって、トラブルは、損失額と確率の大小組み合わせで4通りに分類できます。
(1)しばしば発生して、損害額が大きい
(2)しばしば発生して、損害額が小さい
(3)めったに発生しないが、損害額が大きい
(4)めったに発生しないが、損害額が小さい
トラブルを未然に防ぐのに、やるべきことを明確にしていくわけですが、ありとあらゆることへ事前に手を打つことは現実的ではありません。
上記の4つの分類に着目できます。
そして、対応コストと照らし合わせて判断します。
2.熊本地震でのトヨタ自動車グループ
トラブルへは、基本的には、未然に防ぐという考え方で対応するべきです。
ただし、めったに発生しないことへの対応は柔軟に考える必要があります。
「めったに起きないが、被害が大きいトラブルは、起きてからの被害を最小化する。」
このように考えることもできるでしょう。
地震や水害などの自然災害、工場での事故等。
めったに発生しませんが、起きるとダメージは大きいです。
2016年4月14日と16日、2度にわたり震度7の強い揺れに見舞われた熊本地震ではトヨタ自動車グループの部品メーカー工場が被災しました。
部品が滞って全国の工場で稼働を一時停止する事態に陥っています。
地震直後には、「レクサス」を生産する子会社のトヨタ自動車九州の宮田工場などトヨタ系3工場が停止しました。
その後、4月18日~23日に全国で30ある完成組み立てラインのほぼ全てが順次稼働を停止したのです。
ただし、ここからの生産再開の動きが迅速でした。
4月25日以降、「プリウス」を生産する堤工場、「アクア」を生産するトヨタ自動車東日本の工場、順次生産を再開し、5月6日には国内全ての完成車組み立てラインが稼働を再開したのです。
東日本大震災の教訓を生かして、1次部品メーカーだけではなく、そこへ部品を供給する2次部品メーカーなどを含めたさまざまな部品の供給状況と、代替生産がどこで可能なのか把握できるデータベースを構築した成果です。
(出典:日経ものづくり2016年6月号)
デンソー経理部・企画室長の大岩周志氏は次のように語っています。
緊急時にボトルネックになりそうな中核製品はできる限り生産を(複数拠点で)分散する方針だ。
リードタイムが長い製品は一定のリスク在庫も持つようにしている。
(出典:日経ものづくり2016年6月号)
3.起きてからの被害を最小化する考え方
めったに起きないが、被害が大きいトラブルについて、お金をかけて全てに手を打つのは現実的な対応ではありません。
何らかのトラブルで1ヶ月間全国の工場が停止しても出荷を可能にする程の完成品在庫を持つ……。
コトが起こった場合には確実な効果がありますが、対応策としてはありえません。
リスクは原則、完全に回避できる状態が望ましいです。
が、対応策にコストがかかるリスクへは、起きてからの被害を最小化することを考えます。
トヨタ自動車グループではサプライチェーン全体の状況を把握するデータベースを構築しました。
さらに、被害を最小化するため、コストと効果を天秤にかけながら、分散生産体制構築とリスク在庫確保を進めたわけです。
リスクへの対応策は工場の「今」を把握していることが前提となります。
自社工場の生産能力、工程、場内物流を始め、原材料、部品購入から出荷全般に渡る自社のサプライチェーン全体を把握することがスタートです。
貴社ではモノの流れを全て整理していますか?
現状を把握した上で、そのサプライチェーンが様々に寸断される状況を想定し、その時、どうするか?を考えます。
いずれにしても、現状を把握していることが出発点です。
リスクが起きてからの被害を最小化する仕組みをつくりませんか?
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