自動車業界で激化する軽量化技術の開発動向から学ぶ

自動車業界で激化する軽量化技術の開発動向から学ぶ

技術開発では、まず現行技術(製品)を知り尽くす。次の段階で検討のフィールドを広げて、組み合わせを考える、という話です。

1.軽量化技術

自動車業界では激しい低燃費競争が展開されています。

地球温暖化防止を目的とした二酸化炭素排出量の抑制は自動車業界の技術課題です。

法的規制も相まって各社の開発競争は激化してます。

 

技術開発で未達成となると市場から退場しなければならない危機感もあり不正の誘因にもなっていますが、逆に言うと大きなビジネスチャンスです。

地球にやさしい、エコなクルマというイメージは自動車メーカー各社で絶対にはずせないセールスポイントです。

低燃費対応の究極の答えはパワートレーンの電動化、電気自動車や燃料電池車です。

 

一方で、軽量化技術も注目されます。

通常のガソリン車では、車体重量1t〜1.5tの範囲で、車体重量を100kg軽量化することで1km/L程度燃費が良くなることが知られています。

(出典:『産総研TODAY』2006年1月、中村 守氏)

 

さらに車体軽量化は重心高の抑制にもつながり走行性能や操縦安定性も高まる。

走行性能や操縦安定性は電動化が進んでも追求し続けるテーマです。

また、レシプロエンジンがモーターに切り替わっても車体重量が軽ければ動力の小型化も可能となるので、ここでも軽量化の重要性は変わりません。

 

したがって、軽量化技術は自動車業界の永遠のテーマです。

さて、軽量化を実現させる技術課題は2段階で構成されます。現状採用されている材質を基準にして考えます。

例として一般的な鋼を想定します。軽量化の取り組みを2段階で下記のように表現できます。

 

第一段階 : 従来と同一材質で考える
求められる機能を維持できる鋼で最も軽い構造を設計する。

現行の加工方法を改良、あるいは新たな加工プロセスを考案して、その構造を生産できる製造技術を確立する。

具体的には鋼の薄肉化や熱処理の工夫による材料強度アップ。従来材質の性質を極限まで引き出します。

究極の加工方法を検討することになります。ここでの軽量化の水準は現行対比5%〜30%程度

 

第二段階 : 従来と異なる材質も考える
第一段階を卒業して、さらなる軽量化を模索する段階です。

ここでの軽量化の水準は従来対比30%以上。狙いは半減!、ドラスティックな成果を目指します。

柱は材料置換です。

鋼 ⇒ アルミ合金 ⇒ マグネ合金 ⇒ 樹脂(ガラス繊維、炭素繊維強化)

構造強度を確保するための製品形状に工夫が必要です。対象部材の一部分のみを材料置換するアイデアも出ます。

すると異種材料の接合技術がキーテクノロジーになってきます。

 

金属間化合物のコントロールが比較的やりやすい摩擦圧接。

金属表面を化成処理することで得られるアンカー効果による樹脂との接合。

こうした技術が開発されています。

2.軽量化第一段階:従来と同一材質で考えた軽量化

住友重機械工業は、鋼製部材で閉断面形状とフランジ付きを両立させた、製造システムを開発しました。

鋼管をプレス機の金型に入れた後、通電加熱、高圧空気注入、成形、焼き入れの順に加工するシステム。

フランジ付きの連続異形閉断面を高精度に成形加工できるので、自動車のボディーやフレームの車体部品の軽量化に寄与できます。30%の軽量化が可能です。

(出典:『日経ものづくり』2016年4月号)

3.軽量化第二段階:従来と異なる材質も考えた軽量化

トヨタ自動車のミニバン「シエンタ」の外装部品を鋼から樹脂化して35%の軽量化。

富士重工業の自動車で実用化されている耐熱性エアダクトは樹脂化によって40%の軽量化。

積水テクノ成形は発泡樹脂を開発し、従来の発砲なし樹脂品対比で30%軽量化ドアトリムを実現させました。

 

エフテックは樹脂製の枠形状部品の両側をアルミ合金板のプレス成型品で挟み込んだプレーキベダルを開発しました。従来の鋼品対比52%の軽量化です。

イズミ工業の鋼とアルミ合金の摩擦圧接で軽量化したプロペラシャフトは従来品対比で軽量化30%です。

(出典:『日経ものづくり』2016年4月号)

4.プロセス開発の経験

自動車部品を製造する工場に勤務していた時、プロセス開発を経験しました。

目的は軽量化を達成する部材の製造技術を開発すること。材質は従来のままです。従来製法対比で5%〜20%の軽量化が目標でした。

先でいうところの第一段階の軽量化です。技術を知り尽くすという視点ではとてもイイ経験をしました。

 

材質は従来のままですから、物性値が劇的に上がるわけではありません。

論点は製品の構造強度上は仕様を満たすが、量産上、「造りにくくて」薄肉化を阻害している要因です。

軽量化を阻む「造りにくさ」が注目点です。ここにおもいっきりメスをいれたプロセス開発でした。

 

そして、この「造りにくさ」を分析するために、日常的に発生する不良品や手直し品(キズ発生品)を徹底的に調査をしました。

現場には不良品の情報を生かす仕組みがありました。「負の情報」には技術開発と製品開発へのヒントが満載です。(不良品から情報を引き出すための仕組みはつくる

ここからかなりのヒントを得ることができました。

 

また、そうした進め方ができたのも現場にカイゼンの意識が定着していたからです。

多くの関係者の意見を耳することができます。議論をすることもできます。カイゼンの積み重ねがイノベーションへつながることを実感しました。(カイゼン、カイゼンでイノベーションを加速する

結局、第一段階の取り組みは既存技術を知り尽くすこと、極めることに他なりません。

 

自動車業界の軽量化に限らず、あらゆる分野での技術開発と製品開発も同様です。

 

第一段階:現行技術(製品)を知り尽くし極める。
第二段階:検討のフィールドを広げて、組み合わせる。

 

イノベーションでは第一段階を経ずして、第二段階に取り組むのは避けます。急がば回れ、じっくり攻めます。

足腰の強み、技術開発を目指します。

まとめ。

技術開発ではまず現行技術(製品)を知り尽くす。次の段階で検討のフィールドを広げて、組み合わせを考える。

出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)