経理の限界|元トヨタマンの目
私は大学で会計関係を勉強し、トヨタに入ってから一度税理士(法人税法)を受験したが失敗した。
本社人事部へ配属されてから、次に本社経理部資金課へ転部した。
その際、勉強してきた知識が十分に発揮できて有頂天だった。
このまま、経理マンとして一花咲かせようと張りきっていた。
そんな折、本社工場工務部原価グループへ転部命令がきた。
同じ経理関係だが、やはり工場は都落ちだ。がっくりして仕方無しに工場へ赴いた。
そしてトヨタの工場の原価管理に初めて接した。
そこで驚いたことは、経理関係の財務理論はまったく使っていないことだった。
現場が直接管理できる素材費、労務費、エネルギー費、補助材料費、消耗性工具費などを、それこそ油の銘柄一つ一つまで、前半年間の使用実績と、その油なりが関係して作り出した製品の生産数とを比較して係数を出し、当該半年間の毎月の係数と比較するのだ。
現場に提示される数字はこれだけだ。
この数字だと現場は、前半年間の平均と毎月の比較なので、実感として覚えており、赤字の場合は、なぜなぜ?で問題解決で原因を追究し、黒字の場合は創意工夫提案書から誰がどんな改善をやってくれたか突き止め、彼を褒め、更にその改善を横展する。
結局、トヨタは、現場がその数字を見てアクションを起こせるものしか現場には提示しないのだ。
生産活動の結果として、本社経理部に集められる原価数字を切ったり貼ったりして何とか率、何とか回転率などという本に書いてあるような数値を振りかざして、「俺はこんなに経理理論を知っているんだ」と自慢している人は一見かっこいい。
私も正直、それを目指したが、そんなことをしても「死亡診断書」が上手に書けるだけのことに気づいた。
現場がそんな小難しい数値を見せつけられても、それをもとに具体的なアクションがとれないではないか。
そのような財務数値でアクションがとれるのは間接部門だ。
「間接部門の原価比率が比較数社に比べてこんなに高い。すぐに業務内容を精査して不要な業務はカットして要員を減らそう」といった具合になる。
結局、私は財務知識は人一倍頭に入れてあり、財務諸表など十分理解できるが、現在の企業改善活動にはほとんど使っていない。
トヨタではいろいろな部署へ異動させてもらい、いろいろな業務を習得させてもらったが、原価、生産、人事とどの部署の業務も、本に書いてないことばかりで、非常にオリジナリテイに富んでいた。
どれもこれも、現場のトヨタ式に則ったラインづくりから派生していることに最近気づいてきた。
あらためて大野耐一氏の偉大さを思い知らされる。