経営理念は経営者の代わりに働いてくれる
創業者の想いが詰まっている「経営理念」にもしっかり仕事をしてもらいましょう、という話です。
1.経営理念が必要な3つの理由
会社の「経営理念」は仕事をしてくれていますか?
多くの経営者の方は経営理念が企業にとって大切なものであることを理解されています。
経営理念が不要だという経営者はいないと思います。
その一方で、現場に経営理念が浸透しているかどうかとなるとどうでしょう。
年に一回の創業記念日の社長あいさつの時にしか耳にしないとか、場合によっては、入社以来、目にすることがなかったという現場もあったりします。
経営者の想いとは裏腹に、まったく経営理念が現場で機能していないケースが見られます。
モッタイナイことだと思います。
経営理念が企業に必要な理由は3つあると言われています。
1)モチベーションの源となるから。
2)コミュニケーションのベースになるから。
3)仕事を進める上での判断のベースになるから。
自分が所属している組織を誇らしく思いたいという気持ちを現場の人達は持っています。
モノづくりに日々、汗を流し頑張っているのは、当然生活のためであることには間違いないですが、それだけでは決してありません。
働きがいを感じたい、やりがいを感じたい、という思いも持っています。
人はパンのみで生くるものに非ず、ということです。
会社の存在意義に賛同したがっているとも解釈できます。
多くの人達の役に立っている品物を造っているという思い。
地域に信頼され、尊敬されている会社で働いているという思い。
人々の顔を笑顔にするサービスを提供しているという思い。
等々。
仕事を通じてこんな思いを持ちたい、ついてはウチの会社って何? という気持ちです。
組織で働く人はその組織の存在意味を理念的に理解したいと考えます。
そして、自分が所属している組織の存在意味(理念)を理解した時、仕事をする上でのモチベーションが高まります。
法律に触れることをやる組織、犯罪組織のようなところで仕事へのモチベーションは上がりにくいでしょう(当たり前か……)。
地域に根差した会社であるならば、日々の会話の中に地元の話題が、また、これからグローバル進出を目指す会社であるなら世界の話題が、自然と出てくるはずです。
経営理念は存在意義を示しており標的顧客も示唆しますから、日常的に交わされる会話のベースも提供していると考えられます。
さらに、現場で仕事をしている時の判断基準にもなり得ます。
ウチは品質第一だから品質に問題があったら、私からの宿題があっても、全ての仕事を止めて最優先で対策を進めるように。
社長が自ら、毎朝繰り返し繰り返し語っていたら、現場はどう動くでしょう。
現場が異常を見つけた時、その場に社長がいようといまいと迷わず全ての仕事を止め対策を実行すると思います。
トップの言葉は重いです。
現場へ仕事のやり方を示していることにもなります。
経営理念の重要性を再認識したいです。
その会社の組織文化、組織風土を構築する土台になるからです。
2.経営理念は非常時にこそ力を発揮してくれる
経営理念の重要性は理解できます。
ただ、その一方で日々の業務をこなすうえでは直接に関係することはなさそうです。
日々の現場業務をこなすのに必要なものは作業標準書であり、作業指示書です。
「経営理念は別に意識しなくても毎日の仕事はできるよ」
たしかに、そうかもしれません。
しかし、会社の、あるいは現場の強さが発揮されるのはこうした平時ではありません。
非常時にこそ、その会社の本当の強さが発揮されます。
その強さは現場に浸透している経営理念や経営者の想いが根拠になります。
アイリスオーヤマは仙台に本社がある生活用品メーカーです。
東日本大震災の時は本社を含め、店舗やグループ企業が被災し一時的に機能がストップしました。
本社と連絡が取れない中、各店舗やグループ企業が独自の判断で行動を起こしたそうです。
気仙沼店では、寒さの中、並ぶ客に暖房用の灯油を一人10リットルまで無料で配りました。
本社との電話連絡ができない中で店長が判断したものです。
「クビになるかもしれません。それでもいいんです」と居合わせたテレビの取材に店長は語ったそうです。
また、グループ企業でも震災の翌日から独自の判断で営業を再開しました。
電池や毛布、コンロを求めて被災者が店頭に押し寄せたからです。
店員たちは店の入り口で必要な商品を聞き、停電で暗く散乱している店内から商品を探し出してきては売っていきました。
そして、手持ちの現金がない客にはノートに名前を書いてもらうだけで手渡しました。
その後、代金は全額戻ってきたそうです。
社長の大山健太郎氏は経営理念の大切さを語っています。
「緊急時の対応マニュアルを持つ会社は多い。
しかし本当の非常事態には役立たない。
書類をめくる余裕はなく、起こることはたいてい想定外。
肝心なのは、その企業の哲学が社員の体に入っているかどうかだ。
報告して指示を待つ社員も対応が遅れる。
私は以前からユーザーインという哲学を掲げ、朝礼や研修で繰り返し企業理念を暗唱させてきた。
常に相手の立場に立って考えよという意味だ。
その哲学を身に着け、自分自身で判断し動いた社員たちを誇りに思う」
(出典:『日本経済新聞』2016年3月 私の履歴書)
本気の経営者のもとでは、本物の社員が育つ、ということを感じます。
経営の本質は、“他人を通じて、自分の想いを実現すること”です。
自分の想いを実現させたかったら、なんとしてでも会社の理念に共感してもらわねばと本気の経営者は思う。
加えて、現場も感情をもつ人であるという本質的なことを素晴らしく理解している経営者の方なら、繰り返しを厭わず丁寧に語り続ける。
大山氏の文章を読んで、経営理念がどれだけ現場へ浸透しているか、その度合いが、経営者の方の本気度を示しているのだと感じました。
経営者自身がその場に居なくても、経営理念が現場へあまねく浸透していれば、経営理念が経営者の代わりに仕事をしてくれます。
これほど頼もしいパートナーはいません。
創業者の想いが詰まっている「経営理念」にもしっかり仕事をしてもらいましょう。
改めて、経営理念へ魂を注入し、現場へ語りたいです。
まとめ。
創業者の想いが詰まっている「経営理念」にもしっかり仕事をしてもらう。