組立ラインの生みの苦しみ
ある小型食品機械を製造している中小企業にコンサルに入った。
そこでは、多少精度の出ない部品があっても、組立熟練工が自分ですべて調整して、素晴らしい品質の機械を組み立てていた。
その組立熟練工は、1人で何時間もかけて1台すべて組み立ててしまうのだ。
そんな企業が、中国へ進出した。
中国人の組立熟練工を養成するのには、時間がかかり過ぎるし、退社されてしまうのも怖い。
そこでやはり分業化を志向した。
そして組立ラインを成立させることにした。
全員でいろいろ努力して、素晴らしい組立ラインができた。
しかし思ったように台数が出ない。
その理由は、組立作業者が、精度の悪い加工部品をヤスリで削ったりして調整しながら組み付けているため、非常に時間がかかるためだ。
このことは、日本では”熟練技術”という美名のもとに、問題化されてこなかったことが、中国にきて顕在化してきた。
また外注部品もすべて中国の企業で作られていて、品質が非常に悪い。
やはり、図面だけでなく作業手順書などによるきちっとした指示をしていないことがその主因だった。
このことが中国での問題を一層深刻にしていた。
そこで組立ラインの外観だけはなんとかできたので、今度は機械加工工程や外注部品メーカーへ改善の対象を移した。
やはりそこが本丸だ。
「組立ラインでは切粉を出さない」というスローガンのもと、機械加工工程での精度向上に着手した。
しかし機械加工工程は一から改善を進めなければならない状態だったので非常に大変だった。
私はその会社のコンサルを降りたため、現在は彼ら自身でその改善を進めている。
今から50年以上前の、昭和32年(1957年)刊行の新郷重夫著「工場改善の具体化と実例」という本に、次のようなことが書いてあった。
Sエンジン工場で、せっかく機械加工の済んだものを、組立工がさらにヤスリやスクレーパーを使って合わせているので、なんとかしてこれを追放したいと考えた。
そして3ヶ月の準備期間を置いて、組立工から一切ヤスリとスクレーパーを取り上げて、悪いものは全部機械工場へ返してしまうということを実行した。
そして2ヶ月あまりで「スパナとドライバー」だけで組立ができるようになったという。
またHタービン工場でも、「精度の出ていないものは、すべて機械工場へ返送する」というようにして、25%の工数低減を達成したそうだ。
やはりこのようなことは、「幹部の決心、一つ」にかかっているようだ。
このような努力があったからこそ、トヨタの組立ラインなどは標準作業通りの動きができるようになり、1〜2分で1台が完成するという驚異的なことが可能になったのだ。
中国のF社の皆さん、誰もが通ってきた道を、今あなた方は通っているのです。
中国への進出で、50年も遅れてしまったけれど、初めて諸問題が顕在化してきました。
これを千載一遇のチャンスと捉えて積極的に取り組んで下さい。