研究開発現場マネジメントの羅針盤「メッセージングだけで伝えた気になっていないか」
前回は、メッセージングの重要性についてお話しました。今回はそれに加え、日々のコミュニケーションの大切さについて述べてみます。
ディシジョン(意思決定)すること、メッセージングすること
権限がある人、責任ある立場にいる人間の仕事のひとつは、ディシジョン・メイキング(戦略等の意思決定)とそのメッセージング(伝達)です。
この2つについては、その立場でふだんから実践されている人には至極当たり前の話かと思います。しかし実際には、上位マネジメントの一部には、下からの報告を聞いて「良い・悪い」だけの批評・判断をしているような”裁判官”のような役割しかしていない人がいるように思います。
自分が組織を引っ張っていく、望ましい方向に導いていくというリーダーの側面のマネジメントの役割を認識すべきだとつくづく思います。
ディシジョンしメッセージングすることは次のようなことです。
- 理念、方針、ビジョンなどを策定する ・戦略、目標、計画等を策定する
- 組織を設計する(再編する)
- 規則をつくる、変える、廃止する
- 仕組みをつくる
これらは、細かく見ると悩ましいことは多々あるでしょうが、責任ある立場の人間として、「大局観に立ち、信念を持って、決めて、伝える」ということに尽きると思います。
メッセージの補完としてのコミュニケーション
良い意思決定とその発信の重要性を認識するうえで、加えてもうひとつ重要なことがあります。
意思決定の内容がどんなに良いものであっても、また、そのメッセージ発信がどんなにすばらしいものであったとしても、メッセージの受手側全員が正しく理解し、皆がすぐに望まれる行動を起こすとは限りません。
いや、多くの人は、一度二度聞いたぐらいでは、正しく理解して望まれている行動・姿勢に改められるものではないと考えたほうが現実的な解釈です。
上位マネジメントの方と話をしているときに、「これについては、一度説明会をしたので、伝わっているはずだ」というようなことを聞きます。
そう思いたく(信じたくなる)気持ちはわかりますが、逆の立場になって考えてみてください。
自分が担当者だったとき、上の人のメッセージを一度聞いただけで、すぐに十分に理解できたでしょうか。内容の理解もさることながら、メッセージに内容に”本気さ”を覚えたでしょうか。
人は、一度話を聞いたぐらいで、伝え手側の真意や本気度を感じ取れるものではありません。
まれに衝撃を覚えるぐらいの感動的なメッセージングがあることは否定しませんが、やはり例外的に珍しいことです。
多くのメッセージの内容は、1、2回話しただけでは伝わりません。
ならば、マネジメントが”日常”行うべきことは、メッセージしたことを繰り返し丁寧にわかりやすく説明し続けることです。
それが、日々のコミュニケーションということに他なりません。
ときどき「趣旨が正しく伝わっていない。誤解されている」と嘆かれている上位マネジメントの人に出会います。
相手(部下・関係者)の理解力のなさ(低さ)がその原因のひとつだということを否定するつもりはありませんが、相手の理解力が低いと思うならば、それこそ何度も何度も丁寧に説明を繰り返して正しい理解につなげるほかありません。
厳しく言えば、「誤解されている」という状況は、「丁寧に説明していない」ということなのです。原因はメッセージ発信者の丁寧さ不足にあると認識すべきです。
また、各種の意思決定の内容は(組織設計、仕組み、目標設定など)は、よく考えられたとしても、(程度の差こそあれ)何らかの弱点があるものです。
世の中に”完璧な”戦略も仕組みなどもないと考えたほうが賢明です。
それぞれ何らかの”弱点”があるものです。その弱点を補う方法が日々のコミュニケーションなのです。
上位マネジメントは、上意下達ということではなく、ひとりの人間として、部下・関係者の人間と向き合って対話をすることが重要です。
繰り返し説くことです。命令伝達でなく、諭す、説くことです。そして、場合によっては厳しく叱る。
ときに”怒る”ことも、人間としてあっていいと思います。また、良き姿勢・行動に対しては、ほめる、感謝することも重要でしょう。
部下の良き行動には、一緒になって喜ぶというのも人間の心の表れだと思います。
コミュニケーションは、ひとりの人間として、「相手を信じて、真心をもって、話をする」ことに尽きます。
そして、説明・コミュニケーションを繰り返すことで、コミュニケーションの仕方(どういう例で説明するといいのか、ネタのチョイスなど)も上手になっていくものです。コミュニケーションも、場数(ばかず)が重要だとつくづく思います。