研修後の気休めのアンケートは問題!

研修後の気休めのアンケートは問題!

J社で企業内アンケ-トを取り、将来計画に役立ててゆくための計画に対し、Yさんに相談がなされた内容を紹介することにします。

J社が作成したアンケートには、項目がたくさん並び、

「いろいろな解析を進めるため」という説明でした。

 

しかし、Yさんが話を聞くうちに、J社の関係者は、果して経営改善にどの様に役立つかが疑問になっていったそうです。

企業では、時々、実態調査の名目でアンケ-トを取ることが時々ありますが、果して、経営改善にどの様に役立てているのでしょうか?

では、YさんがJ社に話をした内容をここに紹介することにします。

 

「今度、企業でアンケ-トを取ることになったわけですが、その内容が良いか否か? Y先生、見ていただけますか?」

「はい、お役に立てるのであれば」

と言うことでYさんはアンケート拝見となったわけですが、J社のアンケ-トは「企業革新のために何をすべきか?」を問うものでした。

 

また、テーマは5段階で各種、技術革新項目に対して、今どのレベルにいて、何が出来るか? その事例までを問う内容で、項目は200項目、詳細に手法とその適用、レベルをアンケートしたものでした。

「大がかりなアンケートですね?」

「ハイ、このアンケートで現在の状況をつかみ、これからの体質改善計画をつくる予定です。当社にとってはとても大切な内容です。コメントをお願いします」

 

「そうですね、アンケ-トの趣旨はわかりました。しかし少し、質問をしてからコメントをさせていただきたいと思います。

この項目でアンケートされるわけですが、まず、アンケートの項目で5段階目の最高レベルの内容にまず質問をさせていただきたいと思います。

品質関係の最高レベルですが、不良発見をしたら、その場ですぐ対策するというのがありますね」

 

「ハイ、3現場主義の実践です」

「それは良い策ですが、いかがでしょうか? 問題が発生してから対策する。それはそれで重要な対策手段ですが、問題発生を認めるシステムではないでしょうか?」

「そう言われれば、そうなります」

 

▼ハインリッヒの法則に見る問題発生原理

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「問題解決の見方ですが、不良の場合、顕在化した問題が不良。これは、図に示すように基準線を越えた砂山の一部です。

その下にはヒヤットが、不良:ヒヤット=1:29の状況で存在します。

したがって、このヒヤット対策を最初からする条件が整えば、不良の発生は未然に防げるはずです。

 

また、ヒヤットの下には、砂山で言うと不安という裾野があるわけで、出来れば、そのような不安事項を無くせば砂山は下から崩れ、やがてはヒヤットも減り、不良はゼロになるのではないかと思います。

このように、もし、不良が発生しても、氷山の下を攻める対策に移行するのでなければ、不良発生を認めるだけの行動となり、3現主義は身についても、そこから先の進歩はないのでは無いでしょうか?

このアンケートでは、最高位にある内容は、不良発生を認め、レベルアップを示唆しない内容です。いかがでしょうか? この項目はレベルを5段階の最高位から3程度に落とされては?」

 

「なるほど、不良を認めるシステムか? これは、反省だ! 早速、修正しなくては……」

「次の質問ですが、このアンケートのレベルを聞くときにどのようになさいますか?」

「私もかつてアンケートをとったとき、単に、“このレベルを達成していますか?”と質問を行う方式のアンケート取りを行ったことがありました。しかしアンケート結果は“知っている。だから○”という答えばかりでした。

 

要は、知識はあるが、それだけ。実行していない状況で上のランクに○をつけてくる例です。

このため、アンケートを見て、“当社の社員の成績は優秀!”と関係者は考えたのですが、実際には、経営効果は何も発揮されておらず、工場における重要課題は何も解決が進まない状況でした。

そこで、“そのレベルを達成しているのなら、事例を示しなさい”というように変更しました。すると、アンケートの内容は、“研修すれども効果出ず!”という状況となりました。御社のアンケートもその危険が感じられますがいかがですか?」

 

「正にその種の懸念があります。今回は生産技術のレベルアップが目的ですから、私はその方法に変更すべきだと思います。ありがとうございます。

早速、単なる知識レベルを問うのではなく、実施事例を 1番に、また、実行計画の有無や内容をその下のランクにして、このアンケートの聞き方を改善したいと思います。

また、単に、知識として知っているだけの内容は意味がないので、実施すべきテーマや対象を記載願い、知識を活用する対象を明確にして行く方式にしたいと思います」

 

「それは良い改善です」

「そうですか! Y先生のお話をお聞きし、アンケートとは、アンケートを書く方に教育する意味を持つことに気づいたからです」

「私の意図をくみ取っていただき、ありがとうございます。それを狙いにすることは重要です。

 

アンケートには、調査機関が行う『現状把握』を目的とした方式もあります。

しかし企業内で関係者に時間を取っていただき行うアンケートは、その種の目的に加え、

 

①企業がアンケートを基に何を狙いにしたいか? を知っていただく

②関係者がアンケートを書きながら、何をすべきか? という点に気づきを与える

さらには、

③今まで知識として持っている内容を、どのような切り口で手をつけるべきかを整理していただく……といった目的を持っています。」

 

「しかし、アンケートですよね? 現状把握だけで十分役目は果たすのではないでしょうか?」

「ハイ、まずは現状把握です。では、アンケートを取って何をしたいのですか?」

「そうか! アンケートを取ってから解析するが、その前に何をすべきか先に決めるべきなのか?」

 

「そうです。企業はトップ方針や企業が持つ目標や目的を実現する方向が、必ず背景にあります。

従って、その種の用件に対して、アンケートを利用して何をすべきか?

また、したいか? を同時に問うべきではないでしょうか?」

 

「なるほど!」

「具体的な記述内容としては、アンケートにあるこの技術については、ここまでこうすべきだ!

そのためには○○が欲しい、と書いていただく方式を適用するわけです。せっかくの調査ですから、この種のアンケートを“単なる実態調査で済ますのは惜しい”と思います。

 

私は、企業におけるアンケートは実態調査の目的以外に、技術波及や技術進展のための意見、手法の適用事例調査、更には、技術知見を利用して良い点を波及、伸ばす対策に使うべきであるとして利用してきました。

したがって、アンケートを関係者に投げた場合、その球を関係者が感謝すべき内容を盛り込ませた形でまとめ、御礼という形で返す作戦が盛り込まれるべきではないか? と思います」

 

「前の2つはわかりました。もう一つ、最後の投げた球を返す、と言う意味を教えて下さい」

「そう、これだけの説明では、説明不足ですね。失礼しました。では、もう少し説明を加えることにします。

要は、アンケートをする関係者から、アンケートを通して企業側がベクトルを合わせて行うべき要求を数値の大きさと要求内容のウエイトという形で取ります。

そして、大きな改善内容に対しては、その要求を果たすことによる投資や、必要工数の見積もりと、効果を記載してもらうわけです。

 

その種の用件に対する正確さはアンケートでは問いません。

もし、その内容に意味があるなら、アンケートの解析後に、再度の調査・検討すれば良いわけです。

そうすれば、今回のアンケートの結果は、全体の形も、誰が、何をやりたいかという企画書のような内容になります。

 

私は、この種のアンケートは企画書の簡単なものの提案、企画にご参加いただく行為と考えています。

従って、今回200項目ありますが、全てを問うのではなく、30項目程度にしぼることをお薦めします。

あとは、企業の方針や中期の経営目標と照らし合わせて、物事を見て行けば良いわけです。

 

また、今回のアンケートは重要な内容を技術者に問う内容であり、今後の工場革新に大きな意味を持った内容です。

そこで、集めた側の皆様が、この様にアンケートの取り扱いを考えて、作成し、判別して行くという方式はいかがでしょうか?

そうすれば、企業として進めるべき課題と共に、アンケートを出した個々の方々の希望が一致する助けになるはずです。

 

今回のような工場革新に関するテーマへの問い合わせをする場合、生産技術のレベル向上と共に、何をどのようにあげるべきか?

また、何を具体的テーマとして進め、何を参考にすることが、その効率的な内容や有効性発揮につながるか? をアンケートとしてまとめれば、個々の技術課題とレベルアップ内容と本人の希望が、効果的に融合する環境づくりに役立つのではないでしょうか?」

 

「なるほど、それで、投げた球を返す作戦となるわけですか? Yさんのご趣旨がわかりました。」

「そうです。新聞や雑誌、白書にあるような統計をつくることより、仕事としてどのようにアンケートを具体的な技術改善に活かすか? が企業内アンケート実施面で異なる内容です。

また、全員の参画をどのようにしてつくって行くか? も、今回のようなアンケート実施の目的ですから、出した方々にも、また、集めた方々にも、そのような内容に役立つ具体的な内容と行動につながる内容が提示されないと、アンケートは役に立たないように思います」

 

「やっぱり、Y先生に相談して良かった。今回も良いお考え方をお聞きしました。その発想でアンケートの内容を見直して行きたいと考えます」

「世の中には市場調査というものがあります。

これは、アルバイトを活用して、製品の購入可能性を探る方式ですが、統計的な解析をして、そこにある傾向やニーズの推移を見て、的確な判断を進めて行く題材にするという方式です。

 

しかし、この種のアンケートの注意点は、アンケートに答えた人が、本当に新規に開発、改良した製品を購入してくれるか?

単なるアンケートへの参加だけなのか? を、よく見ておく必要がある点にあります。次ページの図中の表をご覧下さい。

これは、今回の対象ではなく、市場調査を目的としたものですが、このような目的を持つものに、これだけ種類があります。

 

要は、一般的な市場調査でも目的によってアンケート手法に工夫を加えている状況です。

従って、今回のアンケートは目的と得るもの、すなわち、アウトプットと今後の展開を明確にして行うべきことをお薦めします」

「なるほど、納得です……」

 

「余談ですが、この前、テレビを見ていたら、売れない店を売れる店にする指導をテレビ局が手伝って実施していた事がありました。

今回の生産技術の向上対策とは対象が異なりますが、アンケートを実務へ活かし、成果を挙げた実例です。

参考にしていただける内容ではないかと思います」

 

「興味あるお話です。生産技術向上の対策に平行して、実は、顧客、いや、うちでは販売店の営業率向上対策が容易されつつありますが、そこへ役立てる内容があるかも知れません」

「そうですか、では、そのテレビで指導されていたコンサルタントの方の取り組みを紹介することにします。

この指導は、実に実務的でした。当初、駅の近く、人通りも結構多いのに、その店で購入する顧客はたった10名ほどでした。

 

このような状況の中で調査が始まったわけですが、1週間、通路に誰が通るか?

年齢と男女の関連、買い物の状況を調べたわけでした。

具体的な調査は、買い物をする方の中から、その店の商品に近い方々にお聞きし、何を買われるか? また、どの様な店の印象であれば入って購入
するか?

 

時には、親切な回答者には購入した品物や希望のようなものも聞いておられました。いよいよ店の模様替えです。

模様替えの後までテレビはフォローしていましたが、何と、何も特別なイベントはしないのに、翌日から200名ものお客様が入る盛況ぶりです。

また、その1ヶ月後の状況もテレビで放映していました。その後も、特別増える傾向ではないが、顧客は250名程度と安定していて、店も繁盛しているという内容でした。いかがでしょうか?」

 

「すごい分析ですね!」

「そう思います。私は、最初、担当されたコンサルタントの方がムード的な店の改善を指導するのではないか? と思って見ていました。

この種の一発狙い、勘に頼る取り組みは案外に多いものです。コンサルタントのノウハウと言って、経験に基づく対策です。

 

しかし、テレビの内容は違っていました。私はアンケートを取る姿勢に、まず、感銘を受けました。

顧客が本当に買っているものに興味を持った調査をされていたからです。このような指導をされたコンサルタントはプロ中のプロだと思います。

この点を見習って、では、次に、御社のアンケートの項目を見直してみたいと思います。よろしいでしょうか?」

 

「是非!」

「ここに“出勤率を挙げるには”とあり、その数値が出ていますね?」

「ハイ」

 

「これはどのような内容でしょうか?」

「出勤率をあげれば、モチベーションが高いということになると思いまして……」

 

「それは、一つの考え方ですが、この項目は結果でしょ! 生産技術のアンケートは原因系で取るべきです。原因系の項目なら対策を考えるのは容易です。

出勤率を挙げる対策への関心度などが、出勤率にどの様に関与するか? といった内容です。出勤率をあげることに対して昇給やペナルテイがどの様に関与しているか?

関知の程度、効果があがる手段を要因との関係で示すなどして、5段階にされ、アンケートする方法に変更をお願いしたいと思います。そうすれば、一つのアンケートの項目となるでしょう。しかし、わたしなら、この項目は削除します」

 

「どうしてですか?」

「生産技術の向上対策でしょ、テーマがそれならば、多能化、スキルアップの項目をアンケートします。

出勤率自体は、ある程度の出勤率をあげても、それ以上の向上を期待することが難しいからです。また、この方が生産体制をフレキシブルに出来、出勤率の問題の吸収を図れるからです。

 

このように、アンケートの項目は原因系でとることが大切です。

加えて、経営へのインパクト、すなわち、アウトプットを見た内容でないと、項目を定める意味が薄い様に思います。

一例ですがアンケートの項目はこのような観点で整理し、関係者にはアンケートによる意見聴取と共に、アウトプットの大切さを訴えることが大切です。

 

企業では、まず、経営効果を考えて行動することが大切です。また、インプットを減らし、アウトプットを高める方式は効率化の基本です。

したがって、経営方針や企業における改善ターゲットを見て、その目的、目標を高めるために、アンケートの項目がどの様になっているか? を、まず、チェックするわけです。

アンケートを取った後のイメージは使用目的との関係で明確になっていなければなりません。そうしないと、せいぜいレーダーチャートで傾向分析し、このような状態である。

 

この面を強くすべきだ、という評論やマクロ的なデータ分析に終わる恐れが出るからです。

この手の分析は世の中に沢山あります。しかし、この種のデータを見て、“それなら、具体的に何をするのですか?”と聞かれたとき、マクロな答えはできても、5W1Hで仕事のアウトプットにつながる答えがすぐに出てこない状況です。

具体的な活動につながる答えは、想定でなく、アンケートという個々の記述内容の中にあります。

 

先程の話のように、球をどこに、どの程度戻せば、数値が予算に形で見積もれるか? という方式でないと、よく見る○○団体が行うアンケート調査と同じになってしまいます。

今回は傾向分析をやることが目的でなく、生産技術を具体的に高めることが目的です。

そうなると、まず、項目に対しては、経営的センス中核に項目を見直す。そして、原因系を攻める行動が取れるように仕組むことが必要ではないでしょうか?」

 

「そうか、弊社では、そこまで深くアンケートの内容を審議してはいませんでした」

「今回は、少し、厳しい内容になってしまいましたが、やはり、アンケートを企業の中で生産技術の向上のために使うのであれば、ここまで考えてアンケートすべきではないかと思います」

「すべて、ご指摘の通りだと思います。今回は、貴重なご指導、どうもありがとうございました」

 

この話はここで終了です。

 

J社では、早速、Yさんの指摘内容を基にアンケートの中身の見直しがなされ、作業工程や生産・製造技術を見直す形でアンケ-トがなされました。

また、その内容は個人から収集する方式ではなく、アンケートを基に、また、アンケートをチェックリストのように扱い、各所で現場の状況を診断し、中期の革新計画を具体的に練り、提案する一助として活用されていきました。

確かに、ここまでに紹介したようなアンケート形態は産業界ではあまり報告例がありません。

 

しかしJ社の中期計画策定には有効な内容だと考えます。

その理由は、皆の意見や知見が集積される形で、現状の見直しと改善内容、他社一流企業の取り組みの研究などをそこに加えていく活動がなされ
ていくからです。

最近、企業内では、いろいろなアンケートが取られます。時々は、その内容が今後の展開に本当に役立っていて、未来の目標達成に貢献する内容や企画があるか? という見直しが必要です。

コメント

ここまでYさんのJ社指導談を紹介しました。

また、この内容は、対象は違いますが、かつて、筆者が生産管理システムを構築、具体化する段階に入った時の苦労談で得た内容と同じだったため、ここに紹介させていただくことにしました。

企業支援をさせていただく我々にとって、ある意味、この種の方式は一般的と見るべき内容です。

 

では、筆者の体験も紹介することにします。

これはN社での支援でであった内容ですが、当時、N社では、中期生産革新はあったのですが計画通り進まない状況でした。

このため、N社の上層部は外部の機関を利用して体質診断や現場教育を繰り返してきました。

 

特に、その中で重要なテーマは生産管理システムのIT化がありましたが、この種の内容には、システムを実際に使う職長が、十分に現場の事情や意見を出しシステムに反映させるか否かがネックになっていました。

だが、対策してきた内容は、計画を示し、教育を進めるというものであり、受ける側が受け身になっていて、実際に起きるであろうという問題に対しては他人事になっていたわけでした。

このため、生産実績を現場の方々に入れていただく程度のことが、なぜうまく行かないのであろうか? と、スタッフ一同が頭を悩ませていたわけでした。

 

また、この時、生産管理システムを協力会社に波及する。

将来を担う若者の育成も進めるということで、実習を兼ね、協力会社に入社したばかりの新人2名をかかえつつのシステム開発でした。

関係者にとって、この種のトップ要請は解るのですが、プロジェクトの進行内容としては、問題が山積していました。

 

筆者はこのような条件も抱えたプロジェクト・チームを支援することとなったわけでしたが、まず、「現場の状況を知らないで、現場参画型のコンピュータ・システムの構築を具体化するのは大変にまずい!」と考えました。

そこで、先の2名の新人も投入して、現場実習をしながら、コンピュータのインプット側からシステムを見直すことを考え、簡単なアンケート項目を持っていただき、現場実習しながら現場の意見を聞いていただく策をお願いすることにしました。

IT化は未だ実施されていません。

 

しかし、もし、生産管理システムを実施したとき現場の作業の変化がどうなるか?また、現状で、個々の実績把握や管理資料がどのように作られ、使われているか?

工程間の連絡や指示などがどのようになされ、何が問題であり、IT化することによって何をして行けば良いか? について、この2名を教育した後、アンケートを現場に持って出ていただき、現場実習をしながら現場関係者から意見を聞くことを実施しました。

また、この種の用件の詳細は、この2名の配属現場関係者に教育を進め、“本音”という形で、実習生には、仕事を見ながら現場で意見を集めていただく方式としました。

 

生産管理システム実習は各工程3日程度、3週間の日程でした。

 

実際にインプットをしていただく模擬的な演出という仕事(現場のお手伝い)もお願いしましたが、その結果、現場の方々は

「ややこしいマニュアルを覚えるのはイヤである」ことや、「端末は仕事が忙しい部門の近くにおくべき!」

「インプット時間は規制しないで欲しい」「待ちの時に自由にインプットし、物と情報の一体化が図れれば問題がないではないか?」

 

また、「作業日報と生産計画・指示書を一体化させ、現在別のノ-トに連絡をまた書くというダブり作業を無くすべきである?」と言った、具体的な意見を現場から集めてきていただきました。

 

現場の方々は、時々、2名に

「この様な意見を生産管理システム関係者に言うと叱られるぞ!」

と言っていたそうですが、生産管理システムを構築する関係者が、どのように机上の討論を繰り返しても、また、職制を通して集めただけではとても集められない貴重な意見を、この2名の方々が集めてきてくれました。

 

このため、私としては感謝感激の内容となりました。

このため、この二人にも早速お礼を述べつつの取り組みでした。

なお、いただいた内容は全て我々に対する批判ではなく創造的な提案だったため、また、この二人は現場の実情と共に、管理間接部門と現場の実情を学ぶという効果もあり、

 

「自分が企業に帰ってから、将来の幹部候補生だった」という内容だったため、

「大変に役立つ内容です!」という意欲的取り組みに終始されました。

以上の取り組みで、生産管理システム具体化は、問題と対策が実務的に検討できる情報収集、検討が大きく作用し、急速に進みました。

 

なお、この対処では、意見をいただいた職場に、生産管理システム開発部門の担当者が、即座に訪問し、詳しく提案内容を具体化する討論を現場で行ったわけですが、これが、また、生産管理システム関係者と現場関係者の密着した問題解決策を練る討論となりました。

時には、現場に関係者を集め討論する方式も実施しました。

この行動も、具体的な内容として、「我々現場のためを考えている行動である」という現場の方々のご理解が得られ、システムの改善、理解につながったわけでした。

 

その結果、この展開は藁を燃やすスピ-ドに似た内容で事が進みました。

この種の活動は、スタッフ陣が勝手に作戦を組んで行った取り組みや、アンケートを取り、「現場の意見はこうなっている」ということで、ITシステムを押し切ることにアンケートを利用する利用形態でも無かったわけです。

 

要は、アンケートの項目は同じでも、

①意見を聞く
②生産管理システムの内容を知っていただく
③改善に必要な項目をクローズアップする

という運用面の希望やアイデアを、実習生を通し、現場討論でじっくり行う対処になったわけです。

 

実施の結果、喜ばしいことに、現場参画、現場のためになるシステムが全員参画の形で完成へ向けることとなりました。

また、その結果、モデル工場におけるこの取り組みが成功したため、この内容は、今後、全社展開するシステム構築・適用のモデルとなりました。

YさんがJ社を指導した内容と、この話は多少、対象や形態が異なります。

 

しかし、「アンケートは何のため行うか?」を考えると、形より、その機能が明確になるはずです。

要は、アンケートの活用とは、未来をつくる題材を集める仕事です。

そこに、運用の妙味という形で、関係者が持つ意見や知恵を集めるという協業を加えることが企業内で行う活用法というわけです。

 

事後談ですが、2名の実習生の実習報告には学ぶべき点が多かった内容が具体例と共に記載されていました。

特に「現場参画はこのようなアンケ-トの取り方がなければ成功しない!」という感想文は、彼らの活動の努力と今回のアンケート運用の意義を示しているように思います。

当然のことながら、その後、お二人の企業でもコンピュ-タ化は予想以上に早く進んだわけでしたが、このお二人の活躍はそこに大きく貢献しました。

 

しかし、感謝を述べたいのは私の方です。

このケースでわかることだが、なぜ、私たちが職制を通して行った教育と意見聴取がうまく行かなかったのであろうか? という疑問です。

だが、その答えは実に簡単でした。

 

生産管理システム構築を図るリーダーが本社から転勤してきたばかりであり、工場転勤以前から、職・班長教育の講師を全社的におおせつかって来たため、現場関係者としては、本音が言えなかったそうです。

この管理者は個人的には皆と親しくしてきたつもりでした。

また、人柄が良い信頼のおける方であることを現場関係者はよく知っていました。

 

だが、日が浅い状況(転勤後3カ月)では、まだ、警戒心があったそうです。

アンケートには、このような人間的な背景も関係することがあります。

以上、今回の経験から、筆者は、

 

①製造現場のアンケートは目的を持って取ること

②本音でとり

③実際のアウトプットにつなげる内容でないと意味がない!

という考えを持ったわけですが、この点はJ社を指導されたYさんの話と共通していると考えています。

 

また、筆者だけが、アンケートにこのような扱いをしてきたと思っていたわけですが、Yさんの話をお聞きし、我々のような仕事では当たり前の方式であるように思います。

そこで、ここにYさんの取り組みと共に筆者談を紹介させていただくことにした次第です。

先般、筆者は、ジャック・ウエルチ氏がGE社を改革する時、現場でタウン・ミーティングを開催した話、星野リゾートを改革する会長である星野氏の取り組みをテレビと著書で学みましたが、形態は異なるが似た取り組みがなされてきたことを知りました。

 

要は、アンケートには、現状把握以外に、多くの要件を戦略的に検討した展開が必要であることを再認識したわけです。

この種の内容を含め、読者の皆様には『情報の共有化』という局面の向上に、この内容が役立つことを願う次第です。


昭和45年から平成2年まで、日立金属㈱にて、全社CIM構築、各工場レイアウト新設・改善プロジェクトリーダー、新製品開発パテントMAP手法開発に従事。うち3年は米国AAP St-Mary社に赴任する。平成2年、一般社団法人日本能率協会専任講師、TP賞審査委員を担当を歴任する。(有)QCD革新研究所を開設して活動(2016年有限会社はクローズ、業務はそのままQCD革新研究所へ移行)。 http://www.qcd.jp/