生産技術がダントツ化している会社は競争力がある(2)
第2、3回ではインダストリー4.0の良い要素も活かしつつ、日本の「強み」を活かしていくことが大切であると述べた。とくに第3回の生産技術力の中ではコンカレント・エンジニアリングについて触れ、日本の「強み」である組織力を活かすことを述べた。
今回は生産技術部門の本丸、生産技術開発について、“生産技術者の未来”アンケートと関連づけながら考えていきたい。
生産技術部門として「生産技術開発」はやはり重要
アンケートのモデル図(下図)から、「社内認知度が高い生産技術部門」は、「コンカレント・エンジニアリング(CE)」「シミュレーションやIT・バーチャル技術」「生産技術開発(工法・設備)に積極的に取り組む」という「新三種の神器」があるとしたが、この中でも寄与度が高かったのは、「生産技術開発(工法・設備)にも積極的に取り組む」であった。
最初に簡単に関連因子を紹介すると、「生産技術開発(工法・設備)に積極的に取り組む」会社は生産設備の内製化比率が高く、知的財産戦略を重要視している。
それらの会社は、自らの技術的競争力が高いと思っており、その生産技術を上げるためは社員を挑戦させて育成しているという構造である。
どの生産技術を開発するか?
アンケートからのモデルを述べる前に、生産技術開発をする際に「どの生産技術を開発するのか」という対象決めが大切なことを述べておきたい。
生産技術開発は生産技術部門独りよがりで開発対象を決めるのではなく、製品技術と相関を持ちながら、いわば戦略的に開発対象設定する必要があり、会社としての技術戦略の1つとなっていることが大切である。
生産技術の開発の際は、まず製品技術としてコア技術の部分を選定の対象にする。
製品技術としてのコア技術は、その製品の商品性や性能、そして競争力を決める部分(完成品の一部分・部品・モジュール・デバイス)であり、これらを選定して、それを生産する技術として生産技術開発を行うことである。
その生産技術開発においても、コア製品のコスト・品質や競争力を決める部分や、模倣を防止する際にキーとなる工程に絞り込むことが重要である。
コンサルティングにおいて、意外に認識されていないのは製品および生産技術のコア技術を認識されていないことや、コア技術でありレベルが高いと思っているが汎用的だったりすることである。
いずれにしても、製造業のものづくりにおいて競争力を上げていこうとすると、このコア技術づくりが大切になってくる。このコアに集中し技術をつくり込み、長期にわたり技術的に競争優位とするためには、知的財産として守ることが重要となる。
この守るということも多くの生産技術部門で無頓着なことが多くみられる。なお、この知財については次回で述べる。
生産技術開発を推進している会社は設備の内製化比率が高い
生産技術開発を推進している会社の生産設備の内製化比率が高いということは、当たり前であるがその工法を実現する設備が一般販売されていないから内製化していると理解する。
また、「内製化」の定義であるが、これはアンケート時にしっかり定義していなかったので、少し幅広く考えてよい。たとえば、汎用設備を購入して改造したり、独自性あるデバイスや治工具を付加したりすることも、本アンケートでは内製化に含まれている。
いずれにしても、汎用設備や設備メーカーの導入した設備をそのまま使用するのではなく、自社の独自の工夫を入れて使用していることと理解してよい。
今回のアンケート結果から、やはり内製化比率が高いと独自の生産技術を生み出すことができ、競争力が高くできるという方程式が見えてくる。
昨今、コンサルティングの現場で思うことは、生産技術の仕事の定義が変わっていることに驚く。
たとえば、汎用設備や設備メーカー推奨の設備を導入し、流れの良いレイアウトに配置して立ち上げることが生産技術の仕事と思っている会社が増殖し、付加価値が出せず、競争力をなくしていることを散見する。
確かに生産準備を行い、量産を滞りなく迎えることも大切であるが、他社も買うことができる設備をそのまま使用し、競争力が上がるだろうか?
答えはノーだ。たとえば、汎用設備を購入するのであれば、その加工・動作スピードを格段に上昇させるなど、チューンナップした状態で活用しないと競争力がないのである。
生産事業で競争していない事業体では、このようなことを行う必要はないが、生産事業で競争している場合は必要である。
とある会社でこのようなことを述べると、「設備メーカーの保証がなくなってしまうが、大丈夫だろうか?」と生産技術課長が質問してきた。
「限界を超える運転をして壊れなくするのが「技術」である」と返答したら、キョトンとされたことがある。
これらは競争力がなくなっている生産技術部門によくある話だ。
仕事の内容が設備メーカーの言いなりになり、設備を手配する「カタログ・エンジニア」の人口シェアが増えてくると、生産技術部門の価値が下がってくるのである。
逆に自社で設備開発を行い、生産性で何倍もの差をつけている会社を見ていると、とくにコア技術については工夫していない設備は一切ないことが多い。
生産技術として設備をいかにレベル高く使っていくか、技術のイノベーションを自ら起こしいかにダントツの競争力を生むか――生産技術の仕事の価値について見直してみてはいかがだろうか?
生産技術開発における技術の創造と深耕
生産技術の開発には「創造」行為と「深耕」行為がある。コンサルティングの現場で生産技術の開発力を分析する際に、この2つに着目している。
創造とは新たな工法で目的の加工を行うことであり、深耕とは同じ工法でハイサイクル化や品質向上など極めていくことである。
生産技術の開発は双方大切であり進めていく必要があるが、大きな効果が出るのは工法の方式を変えた際に多い。
コンサルティングの中でこの分析を行うと、「創造」ができていない会社が多いことがわかる。
こうした会社の多くは、次なる新工法をそもそも考えていないこと、工法開発の目標が低いこと、工法を機能から考えた場合の代替え工法を考える力がないこと、などの特性を持ち、筆者の経験からもこれらが創造できない三大原因であると言える。
難しいことであるが、同一方式の深耕に加え、新たな工法を生む活動を加えることでイノベーションが起こせるため、失敗も許容しながら新工法を創造していくことが大切だ。
今回述べてきた生産技術開発は、生産事業においてダントツの競争力を得るための重要なテーマであるため、ぜひご自身の会社で生産技術の開発力について振り返りをお願いしたい。「カタログ・エンジニア」がこれ以上増加しないように。