現場改善でIEを学ぶ意義は全体最適の視点にある
全体があっての部分であり、全体なき部分のみの改善活動は趣味的な活動になってしまう。改善活動ではまず工場目標を掲げる。全体最適の視点を得るために体系化されたIEを学ぶ、という話です。
1.現場の改善活動に必要な前提条件
小グループ活動、QCサークル、改善活動などの生産性向上や品質向上を目的とした取り組みが行われている現場は多いです。
ただし、それらが効果的な活動になっているかどうかは、また別の問題です。
つまり、せっかく貴重な時間をかけて取り組むのであるならば実のある活動、具体的には、会社方針、工場方針等、その年度での目標に沿った成果が得られるような継続性を重視した活動にしたいです。
そのためには鳥の目で見た、工場が目指すべき姿、全体最適の姿が提示された上での現場活動であることが求められます。
事前に目指すべき状態が現場へ提示されているならば、現場リーダーや各工程のキーパーソンが工場全体への貢献度を事前に見積もることも容易になります。
加えて、工場全体への貢献度が理解できる取り組みの方が、活動メンバーのモベーションも高まりやすいのではないでしょうか?
こうした活動を展開していること自体にのみ価値を感じているなら、会社方針、工場方針等、全体最適の姿を現場へ事前に提示することは不要でしょう。
ただし、活動が形骸化し、しょせん現場もノルマ達成のための小遣い稼ぎ程度の認識に留まり、せっかくの現場のノウハウも貴重な情報的経営資源として蓄積されない懸念が大です。
提案賞金は手に入るけども、肝心の仕事の成果が、そもそも工場全体の利益へどのように役立っているのか不明なので、仕事の達成感は今一つとなるからです。
やる気を引き出す要因を考えると現場活動を、ただ実施すればイイというわけではないということです。
実のある活動にするためには前提条件があるということです。
以前にお客様であった板金組み立て工場でも熱心に現場改善活動が行われていました。
改善を実施すれば、一人1件○○円支給という制度があったようなので、現場にとってはまぁ、若干なりとも動機づけになっていたかもしれません。
ただし、そこの工場では年度初めの工場目標が示されておらず、そもそも生産指標も設定されていなかったので、工場全体で何を目指すのか定量的にわかりにくい状態でした。
ですから、例えば、こんなことがありました。
その工場は見込生産の生産形態で、先々の需要予測に沿って生産計画が立てられていましたが、工場全体の在庫数と工場スペースの両者を関連させた管理ができていなかったので、いつも現場に製品があふれていました。
当然にこうした状況にあって、まず、やるべきことは場内物流の見直しであり、場内在庫量の見直しなど、場内全体を見通した取り組みです。
その現場では製品在庫の問題を痛い程に感じているわけですが、現場自体ではどうしようもない。
こうした現場にあって、たとえばその工場の塗装工程では、「塗装ハンガーの引っ掛かり防止による生産性向上」というテーマを掲げていました。
製品在庫が積まれているのに、なぜ生産性を上げるの?という疑問がわきます。
つまり、工場全体が目指すべき姿を明確にしていないと、現場改善の成果が何に役立っているのか、その貢献度を感じることができないということです。
現場個別の取り組み自体は間違っていません。
生産性を向上させること自体はコストを下げる常套手段ですから正しいです。
しかし、そうした成果も各工場の現状を踏まえていないと収益への貢献度が不明となってしまいます。
現場は頑張っているのに、結果としては全体への寄与度が不明な趣味的な成果に留まる。
会社や工場の役に立ちたいという気持ちは、現場であるなら必ず持っているので、こうした気持ちを生かしてこそ工場オペレーションが効率よく機能することに注目したいです。
そのために、まず工場全体が目指す姿、全体最適の姿を現場へ事前に提示することが欠かせません。
ですから現場リーダー、現場管理者は事前に工場全体が目指す姿を描く、それも定量的に描く必要があります。
これが、小グループ活動、QCサークル、改善活動などの生産性向上や品質向上を目的とした取り組みを現場で展開する際の前提条件です。
こうした前提条件なしで改善活動を行っても成果は限定的です。
2.改善活動の手法
小グループ活動、QCサークル、改善活動などの生産性向上や品質向上を目的とした取り組みで、自社工場での手法はありますか?
こうした手法は、IE(インダストリアル・エンジニアリング)として体系化されています。
体系化された手法を工場の生産性向上や品質向上の適応することで、全体最適的な視点を身に着けることができます。
「体系化」されたノウハウは一般的にシステム全体を対象にしおり、そのシステム全体で成果を出すこことを狙っているからです。
ちなみに、当社がご提供しているコンサルティングメニューも「体系化」されたパッケージングとなっています。
これは、ご依頼いただいた経営者様の工場全体を対象にして、(業種にかかわらず)その工場全体としてお金を生み出すことを狙ているからです。
つまり、改善活動の手法であるIEもこんな感じです。
さて、そもそも、IEの定義とはどのようなものでしょうか?
IEとは、最適ワーク・システムを志向するエンジニア・アプローチである。
すなわち、人間・機械・ものおよび情報を総合し、最適(再経済)なワーク・システムを設計・確立することである。
(出典:IEの基礎 藤田彰久)
ここでの定義で、ワーク(仕事)とは、人間の目的活動や努力を指しています。
ワーク・システムは、仕事に必要な諸要素の複合体であり、直接的には人間、
機械、ものおよび情報から構成される。
(出典:IEの基礎 藤田彰久)
つまり、IEは望ましい生産現場を設計・確立するための手法です。
ですから、常に望ましい全体像がないと、そもそも設計できないわけで、改善活動自体が小手先に終わり、生かされないケースもあるので要注意です。
全体があっての部分です。
全体なき部分のみの活動は、趣味的な活動になってしまいます。
また、対象には「人間」も入っているところに注目します。
IoTがどんどん現場へ導入され、AI(人口知能)が活用されたロボットが人間に替わって現場で作業するようになっても、現場での人間の役割の重要性は今後も変わらないと考えています。
情報通信技術や人工知能の発達によって、モノづくり現場で人の仕事が「無くなる」のではなく、「変わる」のです。
作業のみの現場は不要となり、現場もいかに付加価値を生み出す仕事をするかということです。
全体最適の視点を持ってIEのような体系化された手法を繰り出して、新たな価値を生み出す能力を持った現場を創出する。
これがモノづくり現場が目指すひとつの姿ではないでしょうか。
ですから、こうした手法を学んだ現場が、鳥の目で見た工場が目指すべき姿、全体最適の姿を理解した上で、改善活動を展開できれば極めて効果的な活動になることが期待できないでしょうか?
手法を学んで、全体をとらえる訓練をすることを通じ、現場は筋道立てて考える能力を高めます。
体系化されたノウハウのイイところは全体最適の視点を身に着けることができるところです。
まず、こうした手法を現場が学び、身に着け、その後、工場独自のやり方を構築していくことで模倣困難な強みが出来上がります。
その意味においてIEの手法は大いに学ぶ価値があると考えています。
まとめ。
全体があっての部分であり、全体なき部分のみの改善活動は趣味的な活動になってしまう。
改善活動ではまず工場目標を掲げる。
全体最適の視点を得るために体系化されたIEを学ぶ。
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