現場力を発揮できるよう経営者は現場を後押しする

現場力を発揮できるよう経営者は現場を後押しする

現場力を発揮できるよう、経営者は現場を後押ししていますか?

1.受注情報の変更で現場とすったもんだ

多品種化へ柔軟に対応できる現場力は、競争優位性を高めます。

黙っていても顧客に選んでもらえる製品を実現できるのです。柔軟性は差別化の要因となります。

 

今は、同一製品を100個販売するより、10種類の製品を10個づつの方が、売りやすい時代です。

営業部隊にとっても、多品種化へ柔軟に対応してくれる現場の方が、心強く感じるでしょう。

ロット生産がベースの生産現場は、とにかく、受注情報の変化に弱いです。

今は、顧客の要求が、受注後に変更されることも、しばしば起きます。

 

板金加工製品の生産管理を担当していたときの話です。

生産管理が仕組みとして、まだ定着していない現場でした。したがって、複数の生産管理担当者が属人的な工夫で対応していました。

そうした生産管理は、個別案件の部分最適化にとどまります。

全体最適化を前提にした仕事を進めるのは難しいです。したがって、生産計画自体に柔軟性がありません。

 

現場も、複数の生産管理担当者から、次々と降りてくる生産指示を処理するだけで手一杯。

いきおい、無難に仕事を処理したいと考えるようになります。

これが、柔軟性を低下させる要因です。現場に落ち度があるわけではなく、仕組みが存在していないことが根本的な問題でした。

 

ですから、受注後、顧客の要求が変更になったとき、その対応にはエネルギーを要しました。

すでに、生産計画を確定させ、現場もそれに沿って日程を決めています。

特に、数量増への対応は、たいへんでした。一度組んだ計画を、組みなおさねばなりません。現場とすったもんだしながら対応していました。

 

生産管理の仕組みがない現場では、同種類の製品や部材を少しでもまとめて生産しようとします。

ロット生産は機械稼働の視点から見れば効率がいいからです。無難に対応したいという現場の自然の考えによります。

残念ながら、こうした現場は柔軟性が高いとは言えません。

 

売れやすい、顧客に選ばれやすい製品を揃えるならば、生産ロットを小さくする必要があります。

多品種少量、変種変量の生産体制です。そして行きつくところは、1個流し生産となります。

中小製造企業が、今後、めざしたいモノづくり戦略のひとつです。マスカスタマイゼーションです。

 

2.IHIの「1基流し生産」

1個流しの発想は、すでにトヨタ生産方式でも展開されています。

ジャストインシステムです。必要なものしか造りません。

今後は、多くの企業で、1個流しに挑戦することが推測されます。

IHIはそうしたメーカーのひとつです。

 

日経ものづくり2017年7月号に、IHIでの1個流しの取り組みが報告されていました。

 

IHIの航空・宇宙事業では、「スループットを3年で2倍にする」という目標を掲げ、「IQファクトリー」と呼ぶ工場強化のための新しい仕組みづくりを進めている。

航空・宇宙分野は今後の成長が期待されており、同社は設備を新設するなどグループを挙げて競争力の向上に力を入れている。

(中略)

IHIがスループット向上のために目指す目標の1つが「1個流し生産をノンストップで実現すること」である。

(出典:日経ものづくり2017年7月号)

 

多種多様なエンジン1基を単位とした1基流し生産に挑戦したのです。

エンジン1つには、5種類のブレードが必要です。

従来は、エンジン複数基分の同一種類のブレードを加工してから、次のブレードに切り替えていました。

一般的にみられるロット加工です。

ロットで流動するので、全種類のブレードの加工が終わらないと、組み立て工程に移行できません。

そこで、1基分のブレードの加工が完了したら、次のブレードの加工へ移るようにしたのです。

そうすれば、1基づつ組み立てられます。

その結果、生産リードタイムが短縮されるのです。しかし、段取り回数は増えます。

 

そこで、IHIはどうしたか。次のように説明しています。

 

段取り替えに必要な治具や砥石などをキット化して可動化式の棚に載せ、作業者がライン内を移動して作業する。

2人1組でてきぱきと作業する様子は、さながらF1レースのピットクルーだ。

もちろん、キット化しただけでは十分な効率化には至らない。

段取り替えのタイミングを設備情報の見える化で通知するといった取り組みに加えて、個々の段取り替え作業の時間短縮に向けた改善活動も進めている。

(出典:日経ものづくり2017年7月号)

 

キット化+設備情報の見える化+改善活動。

この組み合わせで、IHIの現場は、1基流し生産を実現させたわけです。

 

現場の知恵と工夫で、新たなことを実現させています。

IHIが大手企業だから、1基流し生産を成功させたわけではありません。

現場が意欲的に知恵を絞ったから実現できたのです。

 

3.現場力を発揮できるよう、経営者が後押しをする

1個流し生産は難しい、複雑で対応は無理だ、と言う前に中小現場でもやってみます。

IHIの現場で成功した背景には、大手ならではの対応があったかもしれません。

が、取り組みの主役は、現場であったことは事実です。

このエンジン1基流し生産が成功したのは、IHIが大手企業であったからではなく、部門トップが掲げた目標が明確だったからとも推測できます。

「スループットを3年で2倍にする」

 

会社の規模に関係なく現場は一生懸命です。

ですから、現場のポテンシャルを引き出すか否かは、トップ次第です。

経営者から期待され、数値で目標を明確に示された現場は、頑張りたくなります。

 

マスカスタマイゼーションは、中小製造企業も挑戦したいモノづくり戦略のひとつです。

従来のロット生産から小ロット生産、1個流し生産へと体制を強化します。

ここで、直面するのが、増える段取り替え作業への対応です。現場力が発揮されるテーマです。

 

どこの現場にも、1個流し生産へ挑戦するだけの意欲やノウハウはあると考えています。

そして、大切なのは、現場力を発揮できるよう、経営者が、現場の後押しをすることです。

数値目標は現場に響きやすいです。経営者の想いが浸透しやすいのです。

大きな目的を現場へ明示することで、現場のポテンシャルを高め、やる気を引き出します。

 

1個流し生産の実現へ向け、現場へ大きな目的や目標を掲げませんか?

 

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出典:株式会社 工場経営研究所 伊藤哉技術士事務所


製造業専門の工場経営コンサルタント。金属工学の専門家で製造/生産技術、生産管理、IEにも詳しい。エンジニアの視点で課題を設定して結果を出し、工場で儲ける仕組みを定着させることを得意とする。コア技術の見極めに重点を置いている。 大手特殊鋼メーカーで20年近く、一貫して工場勤務。その間、エンジニア、管理者としての腕を磨く。売上高数十億円規模の新規事業の柱となる新技術、新製品開発を主導し成功させる。技術開発の集大成として多数の特許を取得した。 その後、家族の事情で転職し、6年間にわたり複数の中小ものづくり現場の管理者を実地で経験した。 大手企業と中小現場の違いを肌で理解しているのが強み、人財育成の重要性も強調する技術系コンサルタントである。 技術立国日本と地域のために、前向きで活力ある中小製造企業を増やしたいとの一念で、中小製造業専門の指導機関・株式会社工場経営研究所を設立。現在、同社代表取締役社長。1964年生まれ、名古屋大学大学院工学研究科前期課程修了。技術士(金属部門)