消耗性工具の再研磨

消耗性工具の再研磨

金属材料に穴をあける工具が、「ドリル」。

金属材料に雌ネジの切り込みを入れる工具が「タップ」。

金属材料の外周を削る工具が「エンドミル」。

 

これらの工具は金属材料よりも硬い金属で出来ているが、金属を金属で削るのだから、やはりそんなに多くは削れない。

削っているうちに、刃先が磨耗してしまい、削れなくなってしまう。

そのような場合、包丁やノコギリと同様に、刃先を研磨し直して、何度も何度も使用する。

 

普通、タップ、ドリル、エンドミルなどの消耗性工具の再研磨は、社外の専門の業者に外注する。

しかしトヨタは、すべての金属加工工程に、刃先の再研磨専門の部署があり、すべて内製で行っている。

 

刃先の再研磨はそのやり方一つで、刃具寿命に大きく影響が出る。

刃具寿命が短かった場合、再研磨者は、それが実際に使われた現場を見て再研磨方法をいろいろ検討しなければならない。

そうやって、少しでも再研磨品の刃具寿命を延ばす算段をするのだ。

 

だが、再研磨を外注に出してしまったら、外注先の再研磨作業者は、実際にそれが使われた現場を絶対に見ることはできない。

だから現場を見ずに、想像でやらなければならない。

そのような状態で、刃具寿命を延ばすようなきちっとした再研磨はできない。

 

トヨタはこの消耗性工具の再研磨の分野でも、社是である「現地現物」の鉄則を貫いている。

 

加工現場は、再研磨が必要な刃具を規定の箱に入れて、ライン側の刃具棚に入れておけば、定期的に回収されて、1日後には再研磨されて戻ってくる。

この部分でもきちっとしたかんばん方式で行っている。

トヨタの現場は本当にすごいのであります。

 

損得勘定を数式化してみたい。

 

再研磨の外注費……安い

再研磨の内製費……高い(専門要員を雇うし、再研磨設備も購入)

 

外注だと刃具寿命改善活動ができない……消耗性工具費は下がらない

内製だと刃具寿命改善活動ががんがんできる……消耗性工具費が大きく下がる

 

機械加工おいて、消耗性工具費は非常に高い。

やはりトヨタのやり方は消耗性工具費のトータルコストを大きく下げてきたと思う。

 

それにトヨタの再研磨のベテランが、定年退職後、中国や韓国で刃具寿命改善指導や刃具のトラブルシューティングの技術指導をしている。

トヨタはここでも世界に通用する人材を作り出して社会に貢献している。


豊田生産コンサルティング株式会社代表取締役社長◎略歴 昭和30年(1955) 愛知県豊橋市生まれ 昭和53年(1978) 早稲田大学商学部卒業トヨタ自動車工業株式会社(現トヨタ自動車)入社 平成16年(2004) トヨタの基幹職チャレンジ・キャリヤ制度(他社への転出支援制度)によりトヨタを退職(退職時資格は課長級) オーエスジー株式会社オーエスジープロダクションシステム推進本部副本部長就任 消耗性工具(ドリル・タップ・エンドミル)専門メーカーで自動車関連以外の業種の現場改善活動に従事。 平成19年(2007) 豊田生産コンサルティング株式会社設立◎トヨタでの職歴(26年)人事部人事課海外関係人事 3年/財務部経理課輸出入経理、国内債権債務管理 3年/本社工場工務部原価グループ鍛造工場能率・製造予算管理、工場棚卸総括 3年/本社工場工務部生産管理室車体・塗装・組立工場生産管理 4年/米州事業部原価企画グループ北米事業体原価管理、北米生産車原価企画 3年/田原工場工務部原価グループ成形工場能率・製造予算管理、トヨタ生産方式部課長自主研 2年/田原工場工務部生産管理室エンジン・鋳物工場生産管理、トヨタ生産方式部課長自主研 8年◎本社部門(人事・財務・原価企画)9年、工場部門(本社工場・田原工場)17年と本社機能、工場機能のそれぞれを幅広く経験。特に工場では生産管理と原価管理という「石垣」づくりとトヨタ生産方式自主研メンバーとして「天守閣」づくりの両方に長年従事。