汎用旋盤(MS-850)ハーフナット部の修理(4)

汎用旋盤(MS-850)ハーフナット部の修理(4)

前回までに、

 

  • 三本の竿がはずれ
  • エプロンをシレーから降ろし
  • エプロンとシレーとの取り付け面の話

 

をしました。

ついつい、話がわき道にそれてしまい、今回の修理とは関係のない、エプロンとシレーとの取り付け面の話になってしまいました。

機械のこととなると、テンションが上がってしまいます(笑

 

さて、さて、今回は、ねじ山がほんの少しずれる原因追求です。

下の画像がエプロンの裏側です。

ハーフナット部や各送りの伝達ギヤーが見えます。

下の画像が今回疑いを持っているハーフナット部です。

まず開いたところ

続いて閉じたところ

親ねじをハーフナットが上下に抱く機構になってます。

言うまでもなく、閉じるとねじ切りの送りがかかり、開くと止まります。

ねじを切る時、よく(落とし合わせ)とか(落としっぱなし)などと言いますが、このハーフナットを操作しているハンドルを下に操作する(落とす)と、閉じることから来ていると想像しています。

 

まず、この機械のハーフナットの開閉の動きですが、手でハーフナットレバーを操作しても、少し「ダラーッ」とした感じがしていました。

なんか少しですがしっくり来ない感じです。

閉じた状態のまま、手でこじると、少しガタができていました。やはり、この部分が今回の原因だと判断し、ばらしました。

この摺動部は、カミソリはありません。

細部を見ると、開閉のストロークエンドあたりに少し段ができていました。

下の画像では見づらいですが、シカラップで細工しておきました。

押さえている裏板側も細工しました。

ハーフナットレバーでハーフナットハウジングを動かしているシャフトのあたり面(エプロン側)も片磨耗してましたので、修正しました。

下の画像が、ハーフナットがハウジングに組み込まれた部品です。


砲金のハーフナットのねじ山が、かなりやせてしまってます。

50年前に製造された機械で、私が中古で買って29年使ってますので、仕方ないです。ねじのカエリも出てましたので取りました。

閉じた時に二枚のハーフナットが隙間なく合わさるのですが、その面にスケールなどが、かんだ後が沢山あり、一瞬、目を疑いました。ここにこれほどものが挟まってたなら、ねじ山が合う訳ないですから。

 

ヤスリや油砥石をかけても特に飛び出たところはありませんでしたので、私の前に使用されていた方が、すでに修正した後のようです。

画像右側のハーフナット摺動部の底なのですが、森精機が機械を組み立てる時にしたのか、前に使用されていた方がしたのかは不明ですが、荒い仕事ですね。

これでは、磨耗が早く進行してしまいます。修正するとなると、摺り合わせになりますが、当たりを整えただけでは、ガタが増えますので、きちんとするとなると、裏板に段を付けなければなりません。底を本体と合わせてもガタ付きもありませんし、もう少し使えると判断し、今回はそのまま組むことにしました。

 

実は、この部分(ハーフナットの摺動部)で一番修正したい所は、横の摺動面です。

ハーフナットが開閉する時にナットと直角になっている摺動面(幅約10mm部)です。

手でこじた時のガタの大半はここが原因です。しかし、先ほどの部分と同様、摺り合わせしただけでは、ガタが増えるだけで、カミソリも入ってませんので、この部分は裏板修正位ではなく、相当厄介です。

 

苦肉の策として、ハーフナットを位置決めする為のばねを強くすることにしました。

軸にもみつけをして、鋼球をばねでもみつけ部に押し当てて、位置決めしています。

下の画像の赤で囲んだボルトで調節します。

事前に確認しましたが、ハーフナットを閉じた時に隙間なく合わさっているのは、もみ付けを証の位置より少しずらし、面同士が合わさりあうようにしてあります。

つまり、常に面同士が合わさりあう方向に力が働いています。これを利用し、ハーフナットの位置を安定させようと考えました。

あまりばねが強すぎると、もみつけが変形して役に立たなくなってもいけませんので、そこは程々に感覚で調整しました。

 

下が完成し組み立てた画像です。

よく見ると、先ほどの赤で囲んだ部分に比べ、ねじが少し締めこんだ位置なってます。

本当は、きちんと修理した方が良いのですが、後の仕事との兼ね合いで、あまり時間が取れないのも理由の一つですが、ハーフナット部の動きのガタをしっくりさせるにはちょっと手間が掛かりますので、今回は見送りました。

組み立てが終わり、切削テスト(ねじ切り)をしましたが、良好でした。やはり、少しだけねじ山がずれる原因はここでした。

 

ハーフナットの位置が、摺動面のガタの分、不安定になっていたのを今回は、お互いを面でより強く押さえることにより、安定させることができました。

今後も、各機械にいろいろなことが起こると思いますが、その症状に応じて適切な対処をしていきたいと思います。

 

四回に分けて書きましたハーフナット部の修理もこれで終了です。

 

次回は、「番外編」として、せっかくエプロンを降ろしたのだから、

気になっていたところを見てみましたので、それを書きます。

 

~基本を大切にした技術伝承~汎用旋盤職人養成


1963年大阪生まれ。西尾鉄工所代表。旋盤師、伝統技術継承者◎祖父の代から80年続く大阪八尾市の町工場の三代目。「職人道」を極めた先代のもとで、13才から弟子入りし、昔ながらの職人技を叩き込まれ、家業を一人前にこなした。工業高校卒業後、中堅工作機械メーカーに就職。工作機械(機械部品を産み出す母なる機械。マザーマシンとも呼ばれる)の構造を隈なく学び、23才で独立。最先端コンピュータで制御された「NC旋盤」に対し、職人の「技」と「勘」が頼りの「汎用旋盤」(職人の手で動かす旋盤)をこよなく愛し、現在に至るまで、その加工にこだわり続けてきた。数少ない伝統技術継承者の一人。◎若い世代の人材不足、技術伝承に危機感を持ち、2016年「汎用旋盤職人養成講座」をスタート。教材用に独自開発した「汎用フライス盤」は、設計、加工、組立・調整をすべてひとりでやり遂げ、自身の総合技術力の賜物となった。最近、営業下手な職人の殻を破り、SNSを駆使して「基礎の手技」の重要性を次世代へと訴える。また、異業種の職人を対象に、「いぶし銀の会」を立ち上げ、オリジナル製品の企画、開発など「未来の職人像」を探っている。コンピューター依存が加速する製造業の未来を受け入れつつも、「機械の前に人間ありき」と、代々受け継がれてきた職人の技と精神性の伝承に力を注いでいる。◎2014年「八尾市ものづくり達人懸賞」受賞、2015年日刊工業新聞「マイスターに聞く」掲載、「なにわの名工」受賞◎西尾鉄工所ホームページhttps://nishio-tekkousho.jimdo.com/ 西尾鉄工所技術伝承 https://nishio-tekkousyo.jimdo.com/