標準化、共有化は付加価値拡大の制約条件ではない
自社製品で共通の「プラットフォーム」を設定し新たな付加価値を引き出しやすくする、という話です。
自社製品の「プラットフォーム」を共通化することで新たな付加価値が生み出しにくくなると思いますか?
自動車メーカーではプラットフォームの設計を一本化して、コスト低減と商品力アップの両立を図っています。
共有するプラットフォームを設定するためには、製品仕様、製造工程を知り尽くし、将来を見据えることが必要です。
プラットフォームは会社や工場のベクトルをひとつの方向へ揃えてくれます。
1.富士重工業のプラット―フォーム(車台)の設計一本化
富士重工業がクルマの骨格となるプラット―フォーム(車台)の設計を一本化するための次世代プラットフォーム「スバルグローバルプラットフォーム(SGP)」を発表しました。
(出典:『日本経済新聞』2016年3月8日)
部品の共通化につながるため、生産コストが下がり、「開発期間も1割以上短縮できる(武藤直人取締役専務執行役員)」とのこと。
さらに、吉永泰之社長は「コスト削減だけでなく、安心・安全を高める」とも語っています。
・各部の剛性を70~100%引き上げ、直進時の安全性を高めるとともに振動や騒音を抑制する。
・重心を5mm下げ、高速走行時などのハンドルの操作性を高める。
・車体強度を40%引き上げ、衝突時の安全性を向上させる。
この車体一本化で「スバル」のクルマの魅力である「安全と愉しさ」にも磨きをかけるという狙いもあります。
安全性を向上させる一方で走りでは「欧州車も凌駕する(大抜哲雄執行役員)」レベルを見据えています。
2.共通化のデメリットは独自性、個性の喪失?
一般的に共通化、標準化のデメリットとして考えられるのは、独自性、個性が失われることです。
クルマに限らず、魅力的な製品を開発しようとした場合、その製品を構成する要素を全て白紙から考えるのがコンセプトの具現化という視点から考えればベストな感じがします。
なんら制約的な条件を設けず、その製品を開発する時点での最上のアイデア、技術を全て盛り込めれば最高レベルの製品が仕上がるはずです。
一方で、こうした製品開発を続けることによる問題点も浮かびます。
開発・設計側が自由な発想で仕事ができるのとトレードオフして製造側では、負荷がドンドン増すことです。
現場で扱う部品点数が増え、組立手順も多岐に渡り、超多品種化で少量生産化が進むと、コストが上がる一方です。
クルマは一般の消費者にとっては高額商品に分類されると思いますが、ある程度の期間で繰り返し購入する商品でもあります。
そして、クルマに求められる価値は多岐に渡ります。
ステータスシンボルのようにとらえる人もいれば走りに興味がある人もいる。
一方で移動手段と考える人もいる。
それぞれの価値観をベースにそれぞれの消費者は自分に許された価格帯を決めると思われます。
そして、よほどの価値観の変更がない限り、買い替えはその決めた価格帯で進む。
つまり製品を提供する側から考えると、標的とする顧客に沿った価格帯内で製品の魅力の最大化を図らねばなりません。
ですから販売価格無視の商品開発はあり得ない。
ちなみに販売価格をそこそこ無視できる商品が世の中にないわけではないと思います。
高い価格自体に価値が有るモノです。
宝石とか超一流ブランドのバックみたいな「ウルトラ」嗜好品。
イメージ100%で売っているこうした商品は安売りされるとかえって価値が下がる。
ただし、こうした「ウルトラ」嗜好品を扱うメーカーは稀でしょう。
ですからモノづくりの事業では、必ず販売価格という制約条件が付いて回ります。
いわゆるコスト意識です。
ただし、共通化を「制約条件」ととらえるとコスト低減という発想しか生まれません。
3.共通化を付加価値を生み出す駆動力と考える
設計標準化、共通化を付加価値を生み出す駆動力と考えられないでしょうか?
そこで、販売価格という制約条件の中で製品の魅力(付加価値)を最大限発揮させる手段として設計標準化、共通化があると考えます。
ですから、単純にコストを低減するという観点のみでは不十分です。
この設計標準、共通化による付加価値の拡大の観点も持たないと、商品の魅力が高まりません。
トヨタ自動車でも商品力の飛躍的な向上と原価低減を同時に達成することを目指す新たなプラットフォーム「TNGA(Toyota New Global Architecture)」を発表し、2015年発売の新プリウスに適用しています。
トヨタ自動車はGEやVWと世界生産台数1000万台規模で競争してます。
新プラットフォームがもたらす効果も大きそうです。
一方、富士重工場は世界生産100万台規模を狙うメーカーです。
大手と比べて一桁小さなメーカーが同様な戦略では絶対に勝てません。
吉永社長も「量で勝てない我々は他社と違う価値を提供しなければならない」と語っています。
スバルグローバルプラットフォーム(SGP)ではクルマの電動化への対応も視野に入れて、EVにも対応する共通車台で25年ごろまでは大幅なクルマの設計変更が不要になる見通しとのことです。
つまり、10年先まで見通して今回の新プラットフォームを考えた。
大手以上に設計上の制約の中で生み出すべき商品の魅力について考え抜いたのではないでしょうか。
新プラットフォームを使い始め、しばらくしてから、ここはこうするべきだったとなったら、そこからプラットフォームを変更するために掛かる費用が莫大になることは想像に難くありません。
途中変更はかえって混乱を招きます。
それ故に10年先まで見据え、ありとあらゆる要因の可能性を洗い出し、推測し、整理して構築されたものでしょう。
その背景には経営戦略があり、事業戦略もあるはずです。
つまり、スバルのクルマはこの先10年間はかくかく云々コンセプトで考え続けるぞ、ということを社内に提示した具体的なメッセージとも言えます。
社内のベクトルを一つの方向へ向かわせる効果も期待できそうです。
国内メーカーで唯一水平対向エンジンの技術を有して走りにこだわり、また、運転支援技術「アイサイト」などの安全技術を生かした大手にない個性あるクルマづくりを進めている富士重工業です。
SGPの採用で、ますます、個性が光る商品を世に出すのかもしれません。
意識の共有化とかベクトルの統一化という視点で考えると、共通化は付加価値を生み出す制約条件ではなく駆動力とも考えられます。
4.中小のモノづくり工場でも大いに参考になる考え方
量では勝てない富士重工業が他社とは違う価値を提供しなければならないとの考えの下で考えられたSGPです。
この考え方は中小のモノづくり工場でも大いに参考になる考え方です。
自社製品のプラットフォームを一本化にするためには、製品仕様、製造工程、モノづくりに関するあらゆることを知り尽くしていなければなりません。
また、将来を見据えて、自社製品のトレンド、技術動向を予測することも不可欠です。
あらゆる情報を集め、経営者のぶれない軸にしたがって考え抜くことが、出来ねばなりません。
そして、商品のプラットフォームのような統一した基本設計が出来上がれば、社内のベクトルは揃いやすくなります。
また、新たなアイデアを考える時の方向性を示していることにもなります。
その結果、特定の方向へ経営資源を集中させることが可能です。
自社製品のプラットフォームは、新たな付加価値を生むための制約条件ではなく、かえってそれを引き出す原動力になるのかもしれません。
まとめ。
自動車メーカーではプラットフォームの設計を一本化して、コスト低減と商品力アップの両立を図っている。
共有するプラットフォームを設定するためには、製品仕様、製造工程を知り尽くし、将来を見据えることが必要である。
プラットフォームは会社や工場のベクトルひとつの方向へ揃えてくれる。
自社製品で共通の「プラットフォーム」を設定し新たな付加価値を引き出しやすくする。